• HOME
  • 書籍
  • 腹膜透析スタンダードテキスト


腹膜透析スタンダードテキスト

もっと見る

1980年にわが国に導入されたCAPD療法は、多くの困難を克服し慢性腎不全治療の大きな柱となっている。本書は、その黎明期からこの治療法に関わり、情熱をもって研究と実践に日々邁進してきた著者らによって、その使命感からまとめられた集大成。正しい実践のための理論的背景やエビデンスにも触れられ、腹膜透析にかかわる若手医師、看護師にとって必携の1冊。
中本 雅彦 / 山下 明泰 / 高橋 三男
発行 2012年10月判型:B5頁:224
ISBN 978-4-260-01668-1
定価 7,150円 (本体6,500円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評
  • 正誤表

開く

推薦の序(川口良人)/(中本雅彦・山下明泰・高橋三男)

推薦の序
 日本の患者をケアする,日本人医療スタッフのための,そして日本における今日の腹膜透析の環境に沿ったテキストが上梓されたことを喜びたい.現在,スタンダードともいえる英文で記述された腹膜透析のテキストは数多く出版されているが,その歴史,原理,治療指針はともかくとして,臨床の現場では時に違和感をおぼえる場面もある.具体的な情報や考え方を得るには物足りないときもあり,役立たないことも少なくない.具体的な例として,現在わが国で広く実施されている第9章にある併用療法,第14章にある高齢者の腹膜透析システムの成功例を本書の特長として挙げることができる.本書はだからといって,日本のみで通用する項目を中心に取り上げられているのではなく,今日,世界で認められている概念,治療指針についても理解しやすく記載されている.
 腹膜透析患者を担当している研修医に,「透析膜として使われている腹膜の解剖を図示して説明してごらん」,「腹膜に透析液を注入するとどのような仕組みで体液が正常化されるのか」という質問を行うと満足な答えを得ることができず,その結果として患者に理解しやすい的確な説明もされていない場面に遭遇することも少なくない.
 本書は慢性腎不全治療法の一つの選択肢として定着している腹膜透析を理解し,また患者に説明する知識を得るために最適なテキストであり,腎臓医のみならず,ナース,栄養士,ケースワーカが常に手元に置く価値のあるものとして推薦する.

 2012年9月
 神奈川県立汐見台病院顧問 /
 東京慈恵会医科大学客員教授
 川口良人



 1980年にわが国に導入されたCAPD療法は幾多の困難を克服して,慢性腎不全治療の大きな柱になっています.
 著者らは1980年から,この治療法に関わり,現在まで30年間,医師や研究者として腹膜透析療法を行ってきました.1980年から腹膜透析療法を継続的に行ってきている医師や研究者が少なくなってきている現在,その過去のこともよく知っている者が腹膜透析療法の医学書を残さなくてはいけないという使命感と,ライフワークとしての腹膜透析療法を1冊にまとめたいという内なる気持ちで,この度,医学書院の協力を得て『腹膜透析スタンダードテキスト』を発刊することになりました.
 過去から現在まで苦労してきたことや自分自身が大切にしている考え方など,多くの内容を盛り込んだ医学書になったと思います.また,腹膜透析を正しく実践するには,それなりの理論的背景やエビデンスや実験結果がなければ,それは自分勝手な砂上の楼閣でしかありません.よって本書は臨床に寄与した実験結果や理論的背景についても詳しく述べたつもりです.実践の項は中本雅彦が,理論の項は山下明泰が,腹膜透析の歴史や開発は1980年よりCAPDに関わってきた高橋三男が担当しました.
 この3名の著者は,1980年から腹膜透析療法を健全な治療法にするために努力してきており,腹膜透析療法に熱い情熱をもっています.この本を通して読者にその情熱が伝わったなら,この本の役割のうちかなりの部分が達成されたと言えるでしょう.また,3名が分担執筆して抜けた部分がないように構成したつもりです.しかし,まだ付け加えるべき部分がある場合には,お知らせいただければ幸甚です.
 なお,中本雅彦の文献はバクスター社の佐久間正生様に大変お世話になりました.
 最後になりましたが,この医学書の発刊のために温かい励ましをくれた家族(中本行子,中本佑果,松原理絵,松原鉄平,松原琥珀,山下祐子,山下遼,高橋洋子,高橋和裕)と済生会八幡総合病院の腎センタースタッフ一同ならびに湘南工科大学の工学部人間環境学科のスタッフ一同に感謝します.また,この医学書の出版にご努力いただきました医学書院の大橋尚彦様に深謝いたします.

 2012年9月
 中本雅彦
 山下明泰
 高橋三男

開く

第1章 腹膜透析の歴史と進歩
 1 CAPDの考案まで
 2 CAPDの考案
 3 腹膜透析の技術的進歩
 4 本邦における腹膜透析の歩み
 5 世界における腹膜透析の現況
 6 本邦における腹膜透析の現況と将来展望
第2章 腹膜透析の概要
 1 腹膜透析とは
 2 腹膜透析の利点と欠点
 3 腹膜透析と血液透析との比較
 4 腹膜透析の種類
第3章 正常腹膜の形態と機能
 1 腹膜の解剖
 2 リンパ系
 3 腹膜の正常な機能
 4 病的状況における腹膜の形態と機能
第4章 腹膜透析の原理
 1 腹膜での物質輸送
 2 腹膜透析の原理(拡散・浸透・コンベクション)
 3 three poreモデル
 4 溶質除去
 5 水分除去
 6 クリアランス
第5章 腹膜透析システム
 1 腹膜透析液
 2 透析液交換システム
 3 接続システム
 4 自動腹膜灌流装置(APDサイクラ)
 5 腹膜透析関連用品
 6 製品配送システム
 7 廃棄物処理
第6章 腹膜透析のカテーテル
 1 理想的な腹膜カテーテル
 2 ペリトネアルアクセスの歴史
 3 カテーテルの構成部位
 4 テンコフカテーテルからスワンネックカテーテル開発の前までの
   カテーテル(前期のカテーテル)
 5 スワンネックカテーテルから現在までのカテーテル(後期のカテーテル)
 6 近未来の理想的な腹膜透析カテーテル
第7章 腹膜透析処方の実際
 1 処方設定の主要因:体格,残存腎機能,腹膜透過性
 2 腹膜透析療法の種類:CAPD,APD
 3 腹膜機能検査:PET(方法・結果・適正処方)
 4 処方設定因子:注液量,貯留時間,交換回数,ブドウ糖濃度
 5 腹膜透析導入期の処方管理
 6 腹膜の解剖と機能不全
 7 GDP
第8章 腹膜透析での至適透析
 1 至適透析の重要性
 2 透析不足と体液管理不良
 3 除水不良の原因と対策
 4 至適透析の評価:体液管理と透析量
 5 キネティックモデル
 6 透析量と生命予後
 7 目標臨床検査値
 8 透析量の増加法
 9 評価検査項目と頻度
 10 処方シミュレーションソフト
第9章 血液透析との併用療法
 1 併用療法とは
 2 腹膜透析+血液透析併用療法の医学的メリット
 3 併用パターンとキネティックモデル
 4 併用療法の適応と開始時期
 5 併用療法の課題と将来展望
第10章 院内体制
 1 チーム医療
 2 スタッフ構成
 3 院内設備
第11章 患者教育の実際
 1 保存期における腎代替療法の情報提供
 2 患者教育の実際:腹膜透析導入前から外来指導まで
 3 腹膜透析導入治療計画
 4 退院時の腹膜透析バッグの配送のための連絡
 5 日常生活指導
 6 患者の家族への指導
第12章 腹膜透析の適応と禁忌
 1 慢性腎不全透析導入基準
 2 腹膜透析導入のための腹膜透析ガイドライン
 3 腹膜透析の選択理由
 4 腹膜透析の積極的適応・消極的適応
 5 腹膜透析の適応禁忌
 2009年版腹膜透析ガイドライン(日本透析医学会)
第13章 糖尿病患者の腹膜透析
 1 糖尿病性腎不全患者の腎代替療法の現況
 2 糖尿病性腎不全患者の特徴
 3 糖尿病性腎不全患者における腹膜透析の長所と短所
 4 血糖管理
 5 糖尿病患者の腹膜炎の頻度
 6 糖尿病患者の腹膜の性状
 7 糖尿病の腹膜透析患者の生存率
第14章 高齢者の腹膜透析
 1 高齢者透析の現状
 2 高齢腎不全患者の特徴
 3 高齢者腹膜透析の長所と短所
 4 高齢者の北九州方式
 5 高齢腹膜透析患者の予後
第15章 小児の腹膜透析
 1 小児腹膜透析の現況
 2 わが国と海外の小児腹膜透析のガイドラインのエッセンス
 3 小児の透析導入
 4 小児腹膜透析の実際
 5 小児の心血管系合併症予防
 6 小児の至適透析量と栄養
 7 小児の成長障害
 8 小児の腎性骨異栄養症
第16章 腹膜透析患者の食事と栄養
 1 栄養評価
 2 栄養管理
 3 食塩摂取量
 4 カリウム摂取量
第17章 腹膜透析の合併症
 1 腹膜炎
 2 カテーテル関連合併症
第18章 被嚢性腹膜硬化症
 1 被嚢性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis ; EPS)
第19章 腹膜透析患者の心血管系合併症
 1 腹膜透析により心疾患が生じる
 2 心疾患のある患者の腹膜透析
第20章 ペリトネアルアクセス
 1 手術器具
 2 PDカテーテルの留置
 3 術後の処置と検査

索引

開く

基礎から臨床までバランスの取れた完成度の高いテキスト
書評者: 斎藤 明 (横浜第一病院腎臓内科/院長)
 このたび,腹膜透析についての新刊『腹膜透析スタンダードテキスト』を読む機会を得た。腹膜透析の原理などの基礎知識から治療の実際,用いられる機器の使用法,治療効果とその評価,合併症の病態と治療,患者教育など,医師,医療スタッフが腹膜透析を実施するうえで必要な知識がコンパクトに網羅されていた。特に,腹膜における構造と拡散の関係や物質除去のキネティックモデル解析にも続いた治療法と効率の関連などに関する丁寧な記述については感銘を覚えた。既に,腹膜透析の解説書,テキストといわれるものは多く存在するが,これほど完成度の高いものを見ることはなかった。その主な理由は,今までのテキストのほとんどが腹膜透析の経験や臨床研究に長けた1人または複数の臨床家が関連する項目を分担し合って書いたものであり,原理的な説明が未熟であったり,内容上のバランスが偏ったりすることが多く,本書のごとく基礎から臨床まで,また,原理から使用機材の解説までバランスの取れた内容のテキストは存在しなかったように思われる。

 本書の優れた内容には,3人の著者がいずれも腹膜透析がわが国に導入された初期から深くかかわった方々であることのみならず,それぞれ,医工学,臨床医学,そして,機器・透析液の開発とその臨床への導入と販売という異なる立場から腹膜透析治療に深くかかわった方々であるという特徴が章の中に有機的に組み込まれている点であろう。中本雅彦氏が腹膜透析の臨床と研究の第一人者であることはいうまでもない。医工学領域でありながら山下明泰氏は工学系大学院を終えた若いころの数年を臨床病院に在籍され,また,持続携行型腹膜透析(CAPD)の生みの親であるMoncrief先生とPopovich先生が教鞭をとられたテキサス大学オースチン校の研究室に在籍し,講義まで受け持たれた実績を有する方であり,CAPDの原理やキネティックモデル解析にも続いた治療システムの提案,コンピュータ機能評価システム構築など臨床を踏まえた腹膜透析の科学的進歩に貢献され,難しいはずの内容がわかりやすく本書中にちりばめられている。また,高橋三男氏は30年にわたりバクスター社をはじめ腹膜透析関連企業での機器・透析液開発や在宅治療としてのCAPD治療におけるソフトウェアの開発に従事され,それらの臨床現場への導入に長けた方であり,このようなメーカーの方の参画も今まであまりなかったことである。

 さらに,本書の中に枠で囲まれた文章がコラムとして示されている。ここには,腹膜透析の開発と普及,そして治療技術としての質の向上などにそれぞれの発展の時期において大きな貢献をされた医師,技術者,企業人などの努力と成果が紹介されている。まさに,腹膜透析発展の歴史にとり重要な事項がエピソードとして描写されており,読者は気楽に読むことにより,腹膜透析の歴史を知ることができる。この試みも斬新なものとして記憶に残るものである。

 以上,新刊『腹膜透析スタンダードテキスト』を読んで気付いたことを述べさせていただいたが,本書は多くの医師,透析スタッフが腹膜透析の理解を深め,患者の治療に必要な知識・技術を習得するうえで有益な情報を提供するものと確信した。
今日の“腹膜透析の意味と価値”を世に問うテキスト
書評者: 酒井 糾 (北里大名誉教授)
 20世紀の標語が1933年のシカゴ万博で発表されている。“機械中心の世界”というものだ。その中身は「科学が発見し,産業が応用し,人間がそれに従う」とされていた。その標語は21世紀に入って次のように変わったとされている。それが“21世紀は人間中心の世界”,その内容は「人間が提案し,科学が探究し,技術がそれに従う」としている。

 確かに人間中心の世界にはなっているが,あまりにも技術革新のスピードが早い。腹膜透析についても全く同じで技術革新のスピードが早い。このたび中本雅彦,山下明泰,髙橋三男の3先生により『腹膜透析スタンダードテキスト』と題した本が医学書院より発刊された。まさにタイムリーな書だ。なぜなら透析医療ほど21世紀の標語としてふさわしいものはないと思うからである。推薦の序を書かれた川口良人先生の言葉にもあるが,この本には今日世界で認められている概念,治療指針がわかりやすく,しかも論理的に記述されている。

 各章ごとにキーとなる文献が載せられており,読者にとって有用な資料となっている。特に書かれている内容はわかりやすく図や表がふんだんに取り入れられ,的確な説明が付記されているのでコメディカルの方々にも理解と知識を得る上に格好な書といえる。そうした観点からしても今日の“腹膜透析の意味と価値”を世に問うテキストはほかに例を見ないのではないかと思う。

 3人の著者の経験,知識,技術,何よりも意欲が全体を通して感じられる。腹膜透析の歴史と進歩に引き続き重要項目すべてについての解説が各項で述べられ,全体で20の大項目に分類されている。その内容は具体的情報と考え方が網羅されていると思う。3人の著者の筆力がすべての項目で発揮され,“腹膜透析のすべて”を理解する上でのリテラシーを明確に示すとともに,現場に必要となる情報についても詳細に記述されているのがうれしい。こうした配慮がなされたのも最近の透析医療技術事情によるのかもしれない。

 私自身,腹膜透析そのものを勉強し始めたのは1967年の米国での経験に始まっている。その後約20年でわが国にCAPDが一般臨床として始まったように記憶している(1983年のCAPD治療の認可,1986年届出制の開始)。それからまさに多岐にわたる進歩があって今日に至っているわけであるが,その詳細は髙橋先生がコラム記事の中でも解説されており,実に興味深い内容となっている。まさにわが国での腹膜透析事情の真実と内幕が14か所で感動的に記述されている。その中にはすでに亡くなられた先生方のエピソードが随所に盛り込まれ,私としても感涙を覚える内容である。本書の一つの特徴がこのコラムにあるといっても過言ではない。

 今やCAPDは小児ではファースト・チョイスの治療法であり,すべての例ではないにしても高齢者の治療としても定着しているように感じられる。血液透析との併用も然りであろう。治療法としての定着率は道半ばかもしれないが,最初にも述べたように“21世紀は人間中心の世界”という標語を知るにつけわれわれ透析医療従事者も患者中心の医療選択を心掛けなければなるまい。そうした意味を熟知する上でも本書の果たす役割は大きいと思う。

 最後に3氏の序文の最終行に書かれている本書発刊に際しての家族の協力,それぞれの筆者の属しておられる職場スタッフの協力に対して謝意が述べられていることに私自身感銘した。まさに“腹膜透析の意味と価値”を読者に対して,それとはなしに伝えたメッセージであると受け取った。素晴らしい“魂の伝承作業”をされた。ぜひとも,透析医療に携わる医師,コメディカルの方々にご一読いただき,本書を座右の書としてお役立ていただきたいと心から願っている。

開く

本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

正誤表はこちら

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。