MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.07.23
Medical Library 書評・新刊案内
前野 哲博,松村 真司 編
《評 者》藤野 智子(聖マリアンナ医大病院看護部/急性・重症患者看護専門看護師)
院内トリアージを行う看護師も必読,判断に至るまでの思考過程を可視化した一冊
2012年度の診療報酬改定で,院内トリアージが算定対象(院内トリアージ実施料,初診時100点)となりました。これに伴い,院内トリアージを正式に開始した施設も多いのではないでしょうか。実はトリアージ1)を実施する看護師に必要とされる能力は多岐にわたり2),特に診断が確定していない患者に対する臨床推論や診断学といった,看護師が十分な教育を受けているとは言い難い力も必要とされます。
この書籍は,外来診療の初心者である後期研修医を主たるターゲットにしていますが,医師よりも先に患者に接触する看護師にとっても非常に有用な指南書といえます。編者は「外来診療と病棟診療はいろいろな点で大きく異なり…(略)…あくまで外来の状況設定で,外来特有の思考ロジックを学ぶことが必要」と述べています。各症状の特徴や見分け方を示した本はいくつもありますが,外来特有の思考ロジックを丁寧に,かつ明確に記述しているというところを,特に推奨したいと思います。
全体の構成としては,第2章の症候別general ruleでは「帰してはいけない患者の見分け方」として医学的根拠が,また第3章のケースブックでは,事例に基づいたアセスメントが解説として一つ一つ丁寧に記載されており,経験したことのない看護師でもその場にいるように学習することができます。
最も印象的だったのは第1章で,普段何気なく行っている推論過程が明文化されているので,経験のある看護師にとっても,自己の思考の整理と裏付けができるところです。読み進めていくと,確かに私自身が患者をトリアージするときの思考過程を掘り起こされ,推考のプロセスが文章として頭に入ってくることに気付きました。
また,「臨床決断のプロセス」として,(1)情報収集,(2)解釈,(3)鑑別診断リストの作成,(4)診断の絞り込み,(5)臨床決断の5段階を示しており,一口に(1)「情報収集」といっても手法や姿勢,確認事項などさまざまな視点から記載されています。看護師が特に苦手とするのは(2)の「解釈」ですが,ここでは“感度”と“特異度”を考慮することを示唆しています。このような見方は看護師には弱い事項だと感じていますので,これを機会に学習を深めるとよいと思います。
最後に,トリアージ加算の話に戻りますが,今回の申請条件として「看護師は3年以上の救急領域の臨床経験が必要」とされています。臨床経験のある看護師が変化に「気付く」のは,現状を経験値に照らしその相違をキャッチするか,通常のパターン認知からの逸脱をキャッチしていることが主体となるでしょう。これは臨床経験で得たかけがえのない「能力」ともいえますが,そこに裏付けまたは保証となる思考ロジックを補強することで,「気付き」を強化していけると思います。
註
1)ここでいうトリアージとは外来患者のトリアージを示す。
2)原田竜三:救急外来におけるトリアージ.臨牀看護29(14):2155-60,2003.
A5・頁228 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01494-6


渡辺式家族アセスメント/支援モデルによる
困った場面課題解決シート
柳原 清子,渡辺 裕子 著
《評 者》鈴木 和子(家族支援リサーチセンター湘南)
ケアに行き詰まった場面での解決方法を示す指南書
最近,家族ケアに関する実践書の出版が増えている。それは,在宅ケアだけではなく,施設内でも特に在宅への移行期などには家族支援が必要不可欠になってきたためであろう。本書は,患者を含む家族へのケアに真剣に取り組む看護師や福祉職がケアに行き詰まった場面での解決方法を示す指南書である。この本の基本となっているのは,長年の間ケーススタディを積み重ねて著者らが開発した「渡辺式家族アセスメント/支援モデル」に基づいた課題解決シートに記入しながら,困った場面で今,何が起こっているのかを自然に解き明かしていく道筋を示すことである。
第1章では,この問題解決シートの構成とそこに何を記入するのかが示されているが,一般的なアセスメントツールとは異なる点が挙げられている。それらは,(1)援助に行き詰まりを感じた場面や時期を特定した分析ツールであること,(2)援助者自身をも分析対象とすること,(3)援助者とある特定の対象者の二者関係に焦点を当てて分析すること,(4)個々の理解から関係性へと視点を拡げるツールであるということである。また,その分析過程から,援助対象者と援助者自身の内面で起こっていることをストーリーとしてまとめるという作業により,この方法をさらに深いものにしている。最後に,援助者と対象者の関係性に起こっているパワーバランスを分析してパターン化し,それらから有効な援助方策と援助的コミュニケーションの方法が具体的に示されていて,その日から「これは使える!」と思わされるから不思議である。
第2章では,このユニークな方法が家族システム理論,家族ストレス対処理論,家族発達理論,ナラティヴアプローチなど家族看護学の主要な理論から生まれた経緯と,困難な場面で有効な「Here and Now 今ここで」に絞り込む解決志向アプローチ,かかわりの難しさへの対応と方策のためのコンフリクトと意思決定支援について解説されている。
そして第3章では,援助者-家族関係パターン別に多様な実践事例(精神看護,がんターミナル期の家族,NICU,クリティカルケア,在宅ケア)を用いて援助プロセスが詳細に解説されているが,いずれも圧巻であり,読み進むうちに視界が開けてくるような感覚が非常に楽しく,実践者には,かつてないほど納得がいくツールであることがわかるであろう。また,評者としては,それぞれの事例の記述から真珠のような言葉の輝きを読み取ることができたのであるが,それらを全部挙げることはできないので,ぜひ,読者がそれぞれに自分にとっての宝となる言葉を発見してほしいと願っている。
B5・頁106 定価1,890円(税5%込)医学書院...
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
対談・座談会 2025.03.11
最新の記事
-
対談・座談会 2025.04.08
-
対談・座談会 2025.04.08
-
腹痛診療アップデート
「急性腹症診療ガイドライン2025」をひもとく対談・座談会 2025.04.08
-
野木真将氏に聞く
国際水準の医師育成をめざす認証評価
ACGME-I認証を取得した亀田総合病院の歩みインタビュー 2025.04.08
-
能登半島地震による被災者の口腔への影響と,地域で連携した「食べる」支援の継続
寄稿 2025.04.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。