入院中のADLほか(2)(川島篤志)
連載
2012.07.23
小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses
【第22回】入院中のADLほか(2)
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。“身体を診る能力=フィジカルアセスメント”を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている“フィジカルアセスメントの小テスト”を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
「入院中のADLほか」の小テストの2回目です。今回は患者さんからの訴えも多い,「排泄」に関する問題です。
排泄
(3)排便の有無に注目すべき状態の代表としては,内科系ではイレウス,外科系では消化管を含めた術後になると思います。この場合,いつ排便があったかが大事になる印象です。
一方,排便回数が重要な疾患で,消化管とは関連しないものがあります。心筋梗塞や脳出血・くも膜下出血後の排便コントロールが挙げられますが,一般的にこれらの疾患では,いきませないことが重要です。また,肝硬変の患者さんでは,便秘が肝性脳症のリスクになることはある程度認識されています。オピオイド使用中の便秘対策も必須です。看護師さんにとっては常識であっても,初めて処方する若手医師の認識不足やうっかりミスもあり得るので,声掛けが重要です。
排便関連の訴えは,入院時に割と頻繁に見受けられますが,主病態に直接関連しないこともあり,緩下剤の処方・変更依頼を忘れるなど,軽視されてしまいがちな印象です。食事の変更希望など(「パンからおかゆ」など)も同様ですが,筆者自身もメモしないと忘れることがしばしばです。自分の記憶力を過信しないようにしましょう。
(4)これは連載第11回(2942号)にも掲載しました。接触予防策は実施していますか? 一般的に医療に関する知識・経験は時間とともに積み重ねていけばいいものですが,こと感染管理に関しては,現場に出たときから100%の理解と対応が必須です。実習生や看護助手さんが不適切な対応をしていたとしても,それを指摘・指導できるだけの能力があってほしいと思います(“Educator”であれ,ということです)。100%の感染管理が実行しがたい環境のときは,院内のICTや現場の管理者に伝え,改善を図ってもらうことが必要です。
(5)これも連載第11回にありましたが,覚えていますか? 感染管理の視点から考えると,主治医よりも看護師さんのほうが早く気付けるかもしれませんね。
(6)下血と血便,タール便と鮮血便などの言葉は使い分けていますか? 正直どちらでもよい気もしますが,基本的には下血は上部消化管由来の黒色便(=タール便)であり,血便は下部消化管由来で比較的鮮血便であることが多いです。プレゼンするときに意識してみてください。
長期臥床の高齢者や,便秘気味の方が鮮血便であれば,直腸潰瘍の可能性が高い印象です。臨時・緊急で行う下部消化管内視鏡の適応や段取りは,施設によってさまざまだと思います。採血やルート維持の要否,検査前の処置をどれくらい行うかや同意書にサインができない人の対応(=家人などに連絡)が想定されます。
直腸潰瘍であれば出血量はさほど問題にならない可能性が高いですが,実は憩室出血など大量出血の危険も潜んでいます。Vital signの乱れがないか,ショックの徴候がないかの確認は必須です。
(7)入院時に,あるいは急性期の病態が合併した際に,蓄尿や「○時間ごとの尿量測定」などの指示が出ているかもしれません。ただ,尿量を意識する必要がなくなった後も,指示だけが有効なままの場合があります。尿量だけでなく,体重の変化なども含めカルテの記載がないようなら,もしかしたら尿量測定自体に臨床上の意義がなくなっているかもしれません。自分自身が経験するとわかると思いますが,男性・女性ともに蓄尿というのは苦痛を伴う,大変な処置です。必要でなければ,中止を提案しても差し支えないと思います。正確に測るため尿道バルーンが挿入されているかもしれませんが,カテーテル関連感染症が起こる可能性もあります。「不要であれば抜去」という考えは常に持ちたいものです(連載第17回,2966号参照)。
(8)入院患者さんの尿が出ていないときは,腹部を意識的に観察しましょう。何らかの原因で尿閉になることが意外に多くあります。尿閉では膀胱がパンパンになり,臍部より下が膨満します。通常の肥満や腹水で全体が膨満している場合との違いはわかるでしょうか。
ちなみにエコーを当てればすぐにわかることなので,医師にはエコーを当ててみては? と提案すべきですが,看護師さんの観察から,その“気付き”が生まれるといいなと思います。
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本連載第1回(2900号)で,「小テストの各項目の講師を,看護師サイドから輩出してもらいたいと思っています」と書きました。そして6月22日,当院にて行われた2012年度の第2回小テストでは,看護師さんが講師を引き受けてくれました!(写真)
写真 〈左〉大勢の聴衆と講師(奥の2人)/〈右〉企画者の方々。左から,今回講師を務めた田辺さんと勝山さん。次回以降は,右の3人に加え,男性看護師2人も講師を務める予定です。 |
伝えにくい,難しい「呼吸・循環」のパートでしたが,循環を田辺理世さん,呼吸を勝山智司さんの2人で分担し,看護師さんたちに指導していました。新規採用の看護師さんだけでなく中堅どころの方々や,各病棟の師長・副師長,そして看護部長までが見守るなかでの堂々とした講演でした。
2人はまさに,RIMEモデルにおける“Educator”となったわけです。事前にばっちり予習したノート・資料を見せてもらいましたが,教えることは学ぶことの実践だとあらためて感じました。次回以降も看護師さんからの指導者を,ということで,救急看護認定看護師の高見祥代さんを中心に検討してくれています。看護師さんが講師をすることによって,より看護師の視点に立った,現場に活かせる,質の高い指導ができるかもしれません。
医師だけでなく,看護師もフィジカルアセスメントにこだわる――医療現場のかたちとして当たり前のはずですが,実現はなかなか難しいものです。当院の総合内科も病歴聴取・身体診察にこだわりを持って運営していますが,看護師さんも含めてそうした文化を築き,臨床に還元できる医療機関として,今後もがんばっていきたいと思います。
(つづく)
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