大学のカタチ(井部俊子)
連載
2012.06.25
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加看護大学学長 |
(前回よりつづく)
2012年5月,「第8回大学改革トップセミナー」(主催=全私学新聞運営委員会)に,その標題にひかれて参加した。
看護系学部が「まだまだ人気の高い」背景
「志願者が集まる入試と学部の実態」のセッションでは,「まだまだ人気の高い看護系」学部について講師は時間を割いた。この「まだまだ」という表現に,看護系学部の人気がしばらく続くだろうという意味が込められている。
まず,大学選びは「就職」が決め手であるという。全国の進学校の進路指導教諭625人のアンケート調査結果によると,生徒に人気のある大学の条件は,(1)資格が取得できる大学(68.5%),(2)自分のしたい勉強ができる大学(67.8%),(3)就職に有利な大学(65.1%),(4)社会的評価・イメージがよい大学(63.0%),(5)知名度が高い大学(55.5%),(6)家から通える大学(59.9%)がそれぞれ5割を超えている。ちなみに,学費の優待や奨学金制度が充実している大学(26.6%)や,教授の質が高い大学(19.2%),図書館やPC環境など設備の充実した大学(9.3%),授業が面白い大学(6.2%)などのランキングは高くない。つまり,生徒に人気があるのは,資格が取れて,地元で,就職に有利な大学ということになる。
看護系の学部の就職率は,94.6%(2011年)であり,この5年間は90%を超えている。「まだまだ人気の高い看護系」学部の背景には,(1)子どものころから,看護師が白衣の天使としてあこがれの職業であったこと,(2)資格が取れ,就職に困らず,地元での就職が可能,(3)収入が多く安定し,人材不足の分野であることが挙げられている。世間からは,看護師は「収入が多く安定した職業」とみられている。
大学という教育産業の装置
看護学科は日本で最も多く設置されている学科である。しかも47都道府県に設置されたため,地元志向が進んだ理由の一つになっている。2008年秋のリーマンショック後から,志願者が激増している。志願者数(文科省「学校基本調査」)をみると,1万8000人台(2003-05年)で推移していた時期から,2万5000人台となった2006-09年を経て,2010年は3万4430人,2011年は3万8625人(国立281,公立9959,私立28385)となった。私立の志願者数が73%を占めている。2011年の志願者数をそれぞれ100とすると,2012年の指数は,看護系は114.3と断然トップであり,以下,医療技術107.1,理工系106.0,薬学系104.4,医系104.2,外国語103.2,生命科学103.0,文・人文102.7,農102.3,国際102.2と続き,私立大学全体では100.1となっている。
一方,看護ブームの問題点も指摘された。それらは,以下の通りである。
1)3K職場と言われ,景気が回復すると志願者は減る(景気が回復しても,看護系の人気は低下しないという発言もあった)。
2)設置大学数の激増で,他大学との差別化が求められる(例えば,「薬がわかる看護師を育成する」などは目立つと講師が述べている)。
3)教員不足のため,他大学から移動してきた教員の派閥ができ,校風になじめないケースがある。
4)就職先が最先端医療を行っている病院かどうかも今後は問われる(この件は少し考察が必要だと私は思ったが,看護の外部者の認識を知っておくこととした)。
そのほか,基礎学力の低下,コミュニケーション能力の低下,モラルの低下(汚物を扱うことを嫌う看護師),情緒不安定者などの問題が指摘された。
看護系の学部の人気が「まだまだ」続くとされている一方,「こども学部」も人気が続くという。保育士,幼稚園教員はあこがれの職業であり,小学校のような学級崩壊,いじめ,モンスター・ペアレンツなどの恐れが少ない。「こどもが好き」「こどもの相手ならできる」という考えがある(これだけではやっていけないことが後にわかるのだが)。働く女性が増えているため今後も十分なニーズがあり,資格があれば就職の不安がない,などが挙げられた。
ところで,「薬学部人気はどこへ行ったのか」については次のように分析している。2006年から薬学部が6年制になり,状況は一変した。まず人気の中心だった女子が6年制を敬遠したこと,学費が2年多くかかるのも大きなマイナスとなった。そのため資格人気が支えていた私立大学の志願者が激減した。薬学部人気の終焉により,国家資格と結びついた学部・学科への関心は看護に移行した。
なお,薬学部6年制移行によって,2010-11年の国家試験合格者が激減し人材供給が止まっていたため,2012年春に卒業した6年制の1期生には求人が殺到したと報じられている。
大学という教育産業の装置がどのようにとらえられているのかを知り,私はこう考えた。結局,建学精神を現代にどのようなカタチとして残していくのかを真摯に考えていくことが,大学には求められるのであると。
(つづく)
この記事の連載
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