MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.06.04
Medical Library 書評・新刊案内
日本神経学会 監修
「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同委員会 編
《評 者》下濱 俊(札幌医大教授・神経内科学)
圧倒的に読みやすくなったガイドラインの活用を
本書は,日本神経学会,日本精神神経学会,日本認知症学会,日本老年精神医学会,日本老年医学会,日本神経治療学会の6学会の協力により作成された『認知症疾患治療ガイドライン2010』の『コンパクト版2012』である。2012と銘打ってある通り,わが国で昨年相次いで承認された2種類のコリンエステラーゼ阻害薬(ガランタミン,リバスチグミン),1種類のNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)が臨床の場で使用可能となったこと,従来のNational Institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke and the Alzheimer's Disease and Related Disorders Association(NINCDS-ADRDA)研究班のアルツハイマー病の診断基準がNational Institute on Aging(NIA)とAlzheimer's Association(AA)により2011年に改訂が示されたことなどが本書に反映されている。具体的にはアルツハイマー病の薬物治療の項に新たに「病期別の治療薬剤の選択アルゴリズム」の図が加えられ,記載について改訂がなされた。上述の新たなアルツハイマー病の診断基準も収録されている。日常臨床でしばしば難渋する「せん妄」の治療法についても,新たに項が設けられ解説されている。レビー小体型認知症に対するNMDA受容体拮抗薬についての文献が追加され,それに合わせて推奨内容も改訂されているなど,この3年間の進展に対応した内容となっている。
本書は,『認知症疾患治療ガイドライン2010』と同様に,認知症の概要・疫学,鑑別診断に必要な諸検査,薬物および非薬物療法,治療原則などが記載された前半の総論部分と,8つの代表的な認知症疾患(アルツハイマー病,血管性認知症,レビー小体型認知症,前頭側頭型認知症,進行性核上性麻痺,大脳皮質基底核変性症,ハンチントン病,プリオン病)についてクリニカル・クエスチョン形式で記載された各論からなる後半部分に分けられる。これにより日常診療でしばしば遭遇する疑問点の多くに,回答というよりはむしろEBMに基づいた助言が得られる構成となっている。
『認知症疾患治療ガイドライン2010』がB5判で400ページと,ともすれば辞書的な印象を与えるものであるのに対し,本書はA5判256ページに伝えるべき情報を減ずることなく手際よくまとめられており,通読が可能なコンパクトな書籍へと姿を変えている。この書評にあたり,あらためて両者を並べて比較することで,今回のコンパクト版の圧倒的な読みやすさを実感することができた。記載内容が整理され適度に取捨選択されることで,必要な情報を手際よくその背景を含め理解できる内容にブラッシュアップされている。このことは,ガイドラインの本来の目的である,認知症を専門とする医師以外にも必要な認知症診断および治療についての指針となり得るEBMに基づいた情報を広く伝達するという意義に立ち返ったときに,大きな意味を持つと考えられる。
近年の急増する認知症の患者さんへの対応は地域の基幹病院の共通の悩みであり,多くの認知症の専門外来は数か月待ちの状況が続いている。患者さんへの治療オプションが提示できるようになった今こそ,本書が神経内科医・精神科医にとどまらず認知症の患者さんを診療する一線の諸先生の手元で参照され,活用されることを切に願っている。
A5・頁256 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01337-6


こどもの整形外科疾患の診かた
診断・治療から患者家族への説明まで
亀ヶ谷 真琴 編
西須 孝 編集協力
《評 者》金 郁喆(京府医大大学院准教授・運動器機能再生外科学)
小児の運動器の痛みや不自由から解放するための指針書
亀ヶ谷真琴先生が編集された『こどもの整形外科疾患の診かた――診断・治療から患者家族への説明まで』は,その制作段階で既に仲間うちで『亀ジャン』と呼ばれていた。この愛称は世界的に有名な小児整形外科の成書『Tachdjian(タヒジャン)』をもじったものである。今日まで日本では小児整形外科疾患を単独に扱った書籍は少なく,多くは整形外科体系の一部門として記載されているにすぎない。そのため,一般整形外科医を対象とした小児整形外科疾患の解説書は少ない。
今日,Evidence Based Medicine(EBM)を基に診療ガイドラインを作成することが推奨され,その方向に小児整形外科も進んでいるが,残念ながら疾患の性格上,成績評価には長期間を要するため,高いエビデンスを持った診断・治療指針はまだみられない。本書は小児整形外科医が日常診療で出会う40の小児整形外科疾患について,遭遇しやすい疾患ごとに,その病態,診断法,治療法の選択および治療時期をチャート形式で記載している。また,実例を挙げその疾患の診断上の留意点,治療の解説,専門医へ紹介するタイミング等を提示しているため,若い医師や一般整形外科医,開業医にも有用な書籍である。さらに疾患の病態,治療法,予後に関してQ&A形式で記載されている点も明快である。
本書は亀ヶ谷先生の長年の経験と,国内外の多くの知見を基に,患者や家族とともに悩んできた個々の疾患の問題点とその解決法を集大成したものであり,よく消化されている。どの疾患の治療法も決してラディカルではなく,患児の治癒能力を念頭に置いた治療法である点で評者も安心できる。運動器疾患を持った患児は悪性腫瘍などの重篤な疾患と異なり,長い生涯を生きなければならない。運動器の痛みや機能障害を持って一生を終えるのか,あるいは痛みや不自由さから解放されて,自由な生活を送ることができるのかは整形外科医の適切な診断と治療にかかっており,患児の将来を考えると責任は重大である。
あえて愛称で呼ばせていただくが,『亀ジャン』は小児整形外科を専門としている医師にとって診断と治療の指針の一つとなるであろう。また,一般整形外科医や開業医にとっても,小児整形外科疾患の診断や治療に迷うときに,その指針となるだけでなく,専門医に紹介すべき時期をも提示している点で有用である。本書を通じて重篤な障害を残す子どもたちが一人でも少なくなることを期待している。
B5・頁264 定価9,450円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01377-2


奈良 勲 シリーズ監修
牧田 光代,金谷 さとみ 編
《評 者》金子 操(自治医大病院リハビリテーションセンター室長)
地域理学療法に求められる要素を凝縮
理学療法士・作業療法士は,日本にリハビリテーション理念を普及すべく開拓者としての役割を持って誕生した職種である。そして日本で本格的な教育が始まってから間もなく半世紀を迎えようとしている。理学療法士の先達は,医療の世界で理学療法士が確固たる位置を築くために日々の臨床から,後進の育成・教育から,自分自身・...
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