医学界新聞

2012.05.14

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


《標準理学療法学 専門分野》
地域理学療法学 第3版

奈良 勲 シリーズ監修
牧田 光代,金谷 さとみ 編

《評 者》久富 ひろみ(多摩市健康福祉部高齢支援課相談支援担当)

学生,現場の理学療法士に役立つ地域理学療法の知識や技術を網羅

 超高齢社会の到来は待ったなしの状況にあり,さまざまな課題を提起している。国会では,毎日のように社会保障を持続していくために,消費税や年金問題,医療(診療報酬)や介護保険制度(介護報酬)の問題が取り上げられ,1人の高齢者を生産年齢の4人が騎馬戦のように支えていた時代から,肩車のように1人で支えなければならない社会が来ると言われている。また高齢者が増え,病院に入院することも難しくなり,最期を自宅で,という姿も増えるであろうと言われている。厚生労働省ではそのような社会を支える仕組みとして「地域包括ケアシステム」の実現に向けて,制度改正などの準備を進めている。

 われわれ理学療法士は,昭和40年に国家資格として誕生し,その当時の主な勤務先は医療機関であったが,このような社会背景の変化に伴い,その職域は地域(在宅)や予防の領域へと拡大してきている。

 いわゆる地域でのリハビリテーションの考え方は本書で紹介されているが,障がいがあっても高齢になっても,住み慣れた地域で生き生きと生活し続けられるよう支援ができる職種として, 理学療法士は大きな役割を担える専門性を有しており,社会的なニーズは高いものと考えられる。しかしながら地域で展開する理学療法を学ぼうとするとき,その基本から応用までが紹介され,知識や技術を学ぶことができる書籍は少なく,現に出版されている書籍の多くは,著者自身の地域における実践的な活動が紹介されているため,社会資源や成り立ちが異なる他地域についての内容では,応用できないことも多くある。その点,本書は地域理学療法の概念から定義,そして社会背景から始まり,関連する法規や制度を紹介し,現場で必要な知識や技術が網羅されており,理学療法を学ぶ学生の方にとどまらず,地域理学療法に関心のある方や,就職先として地域を考えていらっしゃる方が,まず勉強するときに読む本として相応しい貴重な一冊である。

 理学療法士として,これからどのような領域で仕事をしていくとしても,生活の場であり最期を過ごす場でもある地域(在宅)での理学療法を学ぶために,本書をぜひご一読いただきたい。

B5・頁304 定価4,935円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01224-9


UNICEF/WHO 赤ちゃんとお母さんにやさしい
母乳育児支援ガイド アドバンス・コース
「母乳育児成功のための10ヵ条」の推進

BFHI 2009翻訳編集委員会 訳

《評 者》中村 安秀(阪大大学院教授・国際保健学)

母乳育児がもたらす絆が世界の母子へ届きますように

 ユニセフとWHO(世界保健機関)は,「母乳育児成功のための10ヵ条」を守り母乳育児の推進に貢献している病院を,「赤ちゃんにやさしい病院(Baby-Friendly Hospital : BFH)」と認定しています。今,全世界の130か国以上で,1万5000以上の病院が認定を受けています。『赤ちゃんとお母さんにやさしい 母乳育児支援ガイド アドバンス・コース』の原典は,ユニセフとWHOのすべての教材を一つにまとめた「赤ちゃんにやさしい病院」イニシアティブ。堀内勁名誉教授(聖マリアンナ医大)をはじめ,母乳育児に積極的に取り組んできた日本を代表する小児科医師の方々が中心になり,力のこもった翻訳となっています。

 病院の責任者やスタッフのためのガイドラインや研修のためのパワーポイント・スライドまで周到に準備されています。また,「赤ちゃんにやさしい病院」の科学的根拠や行動計画作成の手引きだけでなく,母乳育児を推進することでコストが削減されることも指摘されています。

 ドイツでは,母乳育児が小児肥満の有病率を減らしました。ラテンアメリカでは,母乳育児により下痢症や急性呼吸器感染症による乳児死亡が減少しました。西アフリカのガンビアでは,「赤ちゃんにやさしい地域社会運動」にまで広がっているそうです。

うれしいことに,日本語版には,英語版にはない「乳飲み児を抱く埴輪」や授乳している日本人の母親の写真もあります。

 国や地域が違っても,母乳育児の大切さは世界共通です。途上国の病院で出会った多くの助産師や医師は,自分たちの病院が「赤ちゃんにやさしい病院」 であることを誇らしげに語ってくれました。お母さん方と一緒に母乳育児を推進していくのだという途上国の病院スタッフの心意気を,私たち日本の保健医療関係者こそ見習いたいものです。

 私が代表理事を務める特定非営利活動法人HANDSでは,ケニア西部のケリチョー県で生後6か月間の完全母乳育児を推進してきました。地域の母乳育児推進サポートメンバーが中心になった啓発活動を行い,2009年にわずか5%だった完全母乳育児率が改善されつつあります。世界母乳育児週間に合わせたイベントには,延べ900人以上の村の老若男女が参加して,いろいろなグループが劇や歌を使って母乳の大切さを訴えかけました。

 この『母乳育児支援ガイド』が,日本の病院関係者はもとより,赤ちゃんとお母さんに関心を持つ多くの人々の手元に届けられることを願っています。母子保健医療だけでなく,地域保健,国際保健,災害保健医療に関心を持つ方々にとっても,有用な情報がちりばめられています。母乳育児がもたらす絆が,母と子を結びつけ,東日本大震災の被災地のお母さんや子どもたちにつながり,そして途上国を含めたグローバル世界の女性や子どもたちのいる家庭や社会に届きますように……。

B5・頁456 定価7,980円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01212-6


《標準作業療法学 専門分野》
高次脳機能作業療法学

矢谷 令子 シリーズ監修
能登 真一 編

《評 者》岩瀬 義昭(鹿児島大教授・基礎作業療法学)

高次脳機能障害者への支援の基礎となる良質の教科書

 15年ほど前までは,高次脳機能障害者を取り巻く社会的状況には厳しいものがあり,障害者自身だけでなく家族も支援制度の不十分さに苦しんでいた。1990年代後半から社会的支援の必要性が認識されだし,2001年度から高次脳機能障害支援モデル事業,2006年度から高次脳機能障害支援普及事業が実施された。その結果,全都道府県に支援拠点が設置されるに至った。その経緯は,高次脳機能障害支援モデル事業の中心となって活躍された中島八十一先生(国立障害者リハビリテーションセンター学院長)が所属されている日本高次脳機能障害学会の学術総会などにて,その都度発表されてきていた。

 本書は,脳卒中に対する作業療法の臨床・研究の場で活躍してきた能登真一氏の編集・著作によるものである。教育的活動の場に重心を置いてきた評者は,氏の研究に対する<1>真摯な姿勢に学ぶことが多い。本書も氏の姿勢を反映する内容となっており,そのエッセンスは序章の「高次脳機能作業療法学を学ぶ皆さんへ」と巻末の「高次脳機能作業療法学の発展に向けて」「さらに深く学ぶために」に込められている。作業療法は対象者が生活場面で人間らしさを発揮するために援助する仕事であり,他の多くの職種と協力して働かねばならないと述べている点は,氏の作業療法士としての心根を表すものであろう。また,症状のメカニズムを学習し,さらに明らかにする必要性を述べ,新しい評価方法や治療方法の開発が後進の作業療法士の努力にかかっていると期待を述べている点は,氏の研究者・教育者としての姿勢を表している。

 本書の構成は,基礎,実践,実践事例の部となっており,基礎,実践では前述した「高次脳機能障害」だけでなく,失語・失行・失認等の高次の脳機能障害についても著述してある。この標準作業療法学シリーズは,一般教育目標と行動目標が学習者に明示され学習の段階を踏まえやすい作りとなっているが,本書の要所々々に挿入されているコラム(能登氏の手による)は,単なる教科書としてではなく読み物としてもおもしろい。この配慮が,学習者には学びやすく,そして楽しめる内容となっている。また,実践事例は事例ごとに類似事例に対するアドバイスが付いており,学生が陥りがちな,他事例に汎化できないからといって学ぼうとしない姿勢に対する教育的な配慮がされている。一方教育者も,紹介されている事例を通して,汎化できることと汎化できないことを学習者に教えやすい構成となっている。

 学生だけでなく,教育者や臨床経験を重ねた作業療法士にもぜひ一読していただきたい本書であり,これから臨床で高次脳機能障害者に接する作業療法士にも読んでいただきたい良書である。

・頁 定価円(税%込)医学書院


産婦人科ベッドサイドマニュアル 第版

青野 敏博,苛原 稔 編

《評 者》平松 祐司(岡山大大学院教授・産科・婦人科学)

白衣のポケットに入るコンパクトな装丁ながら豊富な内容で日常診療に役立つ名著

 このたび,青野敏博先生,苛原稔先生編集の『産婦人科ベッドサイドマニュアル(第版)』が出版された。医学は年々進歩し,新しい検査,診断基準などが出てくるため,この種のマニュアル本も定期的に改訂されなければ実地臨床上役立たないことになる。 本書の初版は年の発刊であるため,年以上にわたって定期的にな内容に改訂され愛読されていることになる。「序」によると,第版でも項目の大改訂が行われたと記載されている。本の歴史があるということは,不備のあった点はその都度改訂され,非常に完成度の高い書籍になっているといえる。

 最近,新医師臨床研修制度の開始にも並行し,切り口の異なる同種のいくつかの本が出版されているが,本書はその中においても最も歴史のある名著といえる。本書の全執筆陣は徳島大学関係者であり,本書は徳島大学産科婦人科学教室の臨床の歴史といっても過言ではないと思う。

 本書の特色は各疾患,検査法を見出しとして採用していることである。大きな分類としては腫瘍(項目),内分泌(項目),不妊(項目),周産期(項目),感染症(項目),その他(項目)のパートに分けられ,総計項目について解説されている。

 例えば,腫瘍の項目ではまれな腫瘍まで進行期分類が掲載され,診断から治療の実際まで図表入りでわかりやすく記載されている。また,薬剤は一般名だけでなく商品名も記載されているため,日常診療で非常に使いやすくなっている。周産期についても同様で,判断に困るような疾患の項目ではフローチャートにより,その都

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