パリのナースの勤務(井部俊子)
連載
2012.04.23
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
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井部俊子 聖路加看護大学学長 |
(前回よりつづく)
フランスの病院は,公立,私立(非営利),私立(営利)の3種類に分けられ,公立病院がすべての病院の4分の1を占める。公立病院と私立病院の役割は異なる部分が大きいとされる。OECDヘルスデータ2010によれば,フランスの100床当たりの医師数は48.4人(日本15.6人,以下かっこ内は日本のデータ),看護師数は114.9人(69.1人),急性期の平均在院日数は5.2日(18.8日),GDPに占める医療費の割合は11.2%(8.1%)である。
パリ公立病院協会の就業規則
看護師の交代制勤務を調査するため,昨年秋にパリの病院を訪れた。その際に入手したパリ公立病院協会(Assistance Publique-Hospitaux de Paris)の就業規則の翻訳が届いた。頁をめくっていると,お国事情がわかり興味深いので紹介したい。
パリ公立病院協会は,37病院と在宅ケアを担う一部署から成り立ち,パリ市周辺の1150万人の健康を担っている。全体で2万床以上の入院病床があるほか,在宅で治療を受ける「在宅入院」機能を有している。大学病院を中心に東西南北の4つの地域に分けられ,外来・入院患者の3分の1程度がパリ市民である。40%がパリ市郊外からの患者であり,75歳以上の患者の割合は17%である。
以下,パリ公立病院協会の就業規則の概要を示す。なお,筆者らによる現地でのインタビューでは,パリのナースの日勤と夜勤は分離されていることがわかった。
◆勤務時間
*1週間の勤務時間は,35時間と定める。
*勤務時間は,最長1600時間の年間実働時間を基準として算出し,時間外労働を行う可能性があっても,その労働時間を含まない。
*特定義務(ある人物に課された特定の拘束義務のことを指す)に従事する職員については,この年間勤務時間は短縮される。
*固定休暇職員の勤務時間……標準周期(7週間)に対し週38時間,1日当たり7時間36分
*変動休暇職員の勤務時間
(1)午前シフト:標準周期(7週間)に対し週38時間,1日当たり7時間36分
(2)午後シフト:標準周期(7週間)に対し週38時間20分,1日当たり7時間50分
(3)夜間固定:標準周期(2週間)に対し週35時間,1日当たり10時間
(4)12時間夜間勤務:標準周期(12週間)に対し週35時間,1日当たり12時間
「夜間固定」の勤務体制
前述の規定はわかりにくいが,ここは勤務シフトのポイントである。特に,「夜間固定」勤務である。1日当たり10時間の夜間固定勤務では2週間の間は週労働時間が35時間,12時間の夜間勤務では12週間(3か月)の週労働時間が35時間とするということである。12時間夜勤は3か月周期となっていることがわかる。
そのほかの主な就業規則をみてみよう。
◆1日当たりの勤務時間
*連続勤務の場合,1日当たりの最長勤務時間は,日勤が9時間,夜勤は10時間を超えることができない(例外あり)。
*連続勤務でない場合,勤務日の拘束時間は10時間30分を超えることはできない。この勤務時間は,1回の勤務時間を3時間以上とし,3回以上の勤務に分割することはできない。
*1週間当たりの実働勤務時間は,時間外労働時間を含め,7日間につき48時間を超えることはできない。この基準となるのは週単位である必要はない。この措置により,連続する勤務日数は最大で6日間に制限される。
◆勤務周期
*勤務周期とは,1週間以上12週間以下の標準となる期間のことであり,周期はまったく同様に繰り返される。
*周期内では,勤務時間を週によって不均等に分割できる。時間外労働を除き,周期全体で週44時間を上限とする。
*時間外労働は,周期全体の勤務時間から差し引かれる。
◆休養時間および休憩時間
*1日当たりの休養……職員は1日当たり,最短で連続12時間の休養を取るものとする。
*1週間当たりの休養……職員は1週間当たり,最短で連続38時間の休養を取るものとする。1週間当たりの休養日数は,特定の困難を引き起こさない限り,2週間につき4日間であり,そのうちの2日間は連続していなければならず,日曜日1日と土曜日1日を含むものとする。休暇となる日曜日と勤務する日曜日を交互に配置することは周期内で変えることができるが,2週間続けて日曜日勤務を行うことはできない。
*就業時および終了時の着替えの時間は勤務時間内に含まれ,特殊な地域事情を除き,合計10分と定める。
◆時間外労働
*時間外労働とは,施設長またはその代理者の指示によって,勤務周期に定められた時間枠の限度を超えて行われた勤務時間を指す。
*1年間に行うことができる時間外労働の上限は,120時間と定める。
*時間外労働は,時間補償または手当支給のどちらかの対象となる(双方を同時に受けることはできない)。
◆夜間勤務
*夜間勤務は,21時から翌朝午前6時までの間に勤務帯の一部が含まれる勤務時間,または21時から翌朝午前7時までの間の連続9時間となる全ての勤務時間を指す。これに関係するのは,上記に規定された夜間のみに勤務する職員,または夜間において90%以上の勤務を行う職員である。夜間の勤務時間は32時間30分となる。
*
パリのナースが,日本のナースに比べて元気にみえるのは,「夜間固定勤務」にあるのではないかと,私はひそかに確信している。
(つづく)
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