「ピンクリボン」コーメン財団の失敗(李啓充)
連載
2012.03.12
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第217回
「ピンクリボン」 コーメン財団の失敗
李 啓充 医師/作家(在ボストン)(2967号よりつづく)
日本でも,乳癌の早期検診を呼びかける運動のシンボルとしてピンクリボンが使われるようになっているが,米国でピンクリボン運動を普及させた最大の功労者は「スーザン・G・コーメン・フォー・ザ・キュア」財団(以下,コーメン)である。
「国民最大の敵」と戦う慈善団体
コーメンは,1980年に36歳で亡くなった乳癌患者,スーザン・G・コーメンの妹,ナンシー・ブリンカーが1982年に創設した団体である。単に早期発見を呼びかけるにとどまらず,治療を進歩させるための研究資金を集める大がかりな募金運動を行ってきたことでも知られている。
コーメンのロゴは,「走者の姿をしたピンクリボン」であるが,同財団が最も力を入れている募金活動,「治癒のためのレース」(通常,5キロ走とウォーク)にちなんだものである。これまで募金活動やピンクリボンをあしらったグッズの販売等で米国民から集めてきた「浄財」は20億ドルに達したといわれ,いまや,米国でも最大規模を誇る慈善団体となっている。
コーメンがここまで大きくなったのも,国民から強い支持を得てきたからにほかならないが,米国では,女性が生きている間に乳癌と診断される確率は8人に1人といわれ,ほとんどすべての国民が,身近の誰かが乳癌と診断された経験を持っている。そういう意味で,乳癌は,ただ「女性の敵」であるにとどまらず,「国民にとって最大の敵」の地位を与えられているからこそ,国民最大の敵と戦うコーメンに対しても,強い支持と共感が寄せられてきたのである。
国民の支持も篤く,資金力も強大とあって,コーメンは乳癌診療・研究の方針を決めるに際しても,大きな影響力を有してきた。一昨年,政府の諮問委員会が乳癌検診の頻度を毎年1回から2年に1回に減らす答申を出した際にも先頭に立って反対運動を展開,毎年検診の現行システムに変更を加えることを阻んだ。専門家がエビデンスを詳細に検討した上で出した結論を,「検診回数を減らして女性に死ねというのか」という「直観的」反論でつぶしてしまったのであるが,「コーメンのピンクリボンには誰も逆らえない」といっても過言とはならないほどの影響力を有するようになっていたのである。
ところが,「女性の味方」として揺るぎない地位を築いてきたこのコーメンが,本年1月末,米国女性の猛批判を浴びる「大失策」をしでかす事件があったので説明しよう。
「女性一般への攻撃」に対しての強い反発
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