In My Resident Life(青木眞,蘆野吉和,兼本浩祐,箕輪良行,徳田安春,片岡仁美,岡田唯男)
寄稿
2012.01.09
【新春企画】♪In My Resident Life♪すべての失敗が糧となる |
研修医のみなさん,あけましておめでとうございます。レジデント・ライフはいかがでしょうか? 病院選びに失敗,手技が下手で指導医に怒られた,患者さんとうまくコミュニケーションがとれない……など,悩んでいたりはしませんか? でも,それは誰もが通る道。失敗を糧に成長していくことで,一人前の医師になることができるのです。
新春企画として贈る今回は,第一線で働く先生方に,研修医時代の失敗談や面白エピソードなど,“アンチ武勇伝”を紹介していただきました。
こんなことを聞いてみました
(1)研修医時代の“アンチ武勇伝” (2)研修医時代の忘れえぬ出会い (3)あのころを思い出す曲 (4)研修医・医学生へのメッセージ |
青木 眞 箕輪 良行 岡田 唯男 | 蘆野 吉和 徳田 安春 | 兼本 浩祐 片岡 仁美 |
見事な胸水,「Made in ER by Dr. Aoki !」
青木 眞(サクラ精機株式会社学術顧問/感染症コンサルタント)
(1)気付けば一睡もできない2連直,最悪3連直といった沖縄県立中部病院の研修は苛烈を極めた。当時,琉球大学に医学部はなく,日本で最も救急車の多かった同院ERのすさまじさは今の研修医には想像を絶するのではないかと思われる。失敗のごく一部を箇条書きにする。
●当直で麻酔科に入った。しかし圧倒的な睡眠不足の中,血圧をモニターしたくても水銀柱を下げるうちに意識を失い,水銀柱を上げ直してまた意識を失い……を繰り返す。やがて執刀医から「おーい,青木。血が黒くなってきたみたい」と言われ,心臓が凍りつく思いで必死にバッグを押した(青木が寝ないように執刀医が脅しただけと後ほど知る)。
●精神科病院から若い青年が軽い下腹部痛でERに受診。バイタルに異常はなく,直腸診を含む腹部診察でも異常はなかったため帰す。翌日呼び出された外科外来で見た腹部単純写真には,直腸診では届かないところにまで上がっていた五寸釘が綺麗に写っていた。
●その年からカットダウンに代わる血管確保の手段として使われるようになった中心静脈ライン(CVL)。研修医一同,挿入チャンスを虎視眈々と待っていたのだが,その機会が早速ERで私のところに回ってきた。鎖骨下静脈にカテーテルがスムーズに入り,輸液もスムーズに落ちていった。「俺はCVLの名人に生まれたかも……」と思いつつ,次の日のモーニングカンファレンスで見たもの。それは,「おー! 皆よく見ろ。これは見事な胸水だな。Made in ER by Dr. Aoki !」。
(2)沖縄県立中部病院には,きら星のような指導医がめじろ押しであった。私も米国に留学して複数の施設で研修したが,指導医の熱意と教育文化においては沖縄県立中部病院も引けを取らなかったように思う。そんな多くの出会いの中から一人を選ぶことは難しいが,今回はカナダ人医師,G. C. Willis先生との出会いを書こうと思う。
今でこそ北米の「大リーガー医」はわが国でも人気の的であるが,1970年代の極東の小さな島で研修医を教育するWillis先生は,欧米人の目から見れば特異な存在であったに違いない。病棟で回診するとき以外は,自室で静かにMKSAPを読み,執筆。17時には帰宅して家族との時間を大事にする姿は,365日いつも同じであった。
宣教師の子どもとして中国に生まれ,その後,ボルネオのジャングルのなかで聴診器片手に診療していた彼のベッドサイド診断能力は,あらためて筆者が紹介するまでもないが,検査漬け・薬漬け全盛期の70年代において,強烈な印象を周囲の研修医・指導医に与えたに違いない。頭痛の患者さんにはちまきをし,頭痛が軽減するのを見て頭痛の原因は頭蓋外と指摘,脳血管障害で入院した青年の眼底を見て弾性線維性仮性黄色腫,血管雑音を聞いて肝細胞がんを診断。光速の診断が聴診器と眼底鏡だけで可能であることを示した。研修医がロールモデルとしないはずがない。
(4)良いロールモデルに出会えるよう祈ります。
出会いを大切に,「天までとどけ」
蘆野 吉和(十和田市立中央病院 院長)
(1)私は卒後すぐに仙台市立病院外科に就職し,3年間研修してから大学の医局に入局しましたが,これは東北大学初期研修の標準的スタイルでした。34年前のことです。
当時は新しい医療技術,医療機器,医薬品などが導入され,医療が格段に進歩しつつあった時代で,先輩(指導医)からは医療現場で必要になる基本的な知識や技術,態度を教えてもらうだけでなく,新しい技術を一緒に勉強しながら現場に新規導入する機会も多くありました。例えば中心静脈カテーテル留置,血管造影,PTCおよびPTCD,あるいは超音波検査などは当時導入された技術で,本を見ながら自己学習し,最初だけ先輩の指導を受け,後は研修医だけで実施していたことも少なくありません。
ときに「ヘマをするとどうなるのか」と秘かに心配したこともありますが,重大な医療事故を起こした記憶は残っていません。特に地方の病院においては,研修医が地域医療の担い手として実質的に重要な役割を果たしていたこともあり,チャレンジ精神をかなり育ててもらいました。
失敗談として記憶に残っているのは「お前は情報伝達が下手だ」とよく言われたことです。診察した急患の状態報告で先輩に電話相談するとき,要領よく“必要な”情報を伝達し指示を仰ぐ必要がありますが,なかなかうまくできませんでした。うまくできるようになったのはそれから2年ほど経ってからです。
研修医3年目のころ |
一人は初期研修病院の2年上の先輩でした。クラブ(ワンデルング部)の先輩で,学生時代からの付き合いです。「一度や二度の失敗は許されるが三度目は許されない」「大きな山に登るためには避難路を含め事前の周到な計画を立てることが重要で,途中で危険なことがあれば無理をせず再度挑戦すればいい」と教えられました。
もう一人は,1988年に赴任した病院の院長です。時代の先を読み,医療を受ける人の視点で医療を考えることのできる方でした。現在私が緩和ケアの世界で活動しているのも,院長として病院の指揮を執っているのも,彼との出会いがきっかけとなっています。そして,偶然にも二人の指導者の名字は同じ山口です。
(3)私が当時よく歌っていた曲は,小椋佳,南こうせつ,さだまさし,井上陽水の歌。そのなかで特に思い出の曲は,さだまさしの『天までとどけ』。出会いを大切にするという意味を込め,私の送別会で「私」がよく歌いました。
(4)現在,当院には年に50人ほどの学生が全国から見学に訪れます。私は学生との面談で当院の研修の特徴を説明しますが,そのなかでも特に強調していることは,積極的に臨床の現場にかかわり,五感を使って学ぶこと,初期研修2年間でプライマリ・ケアに必要な基本的な知識や技術を習得することは当然として,医療を受ける対象者を人間として総合的(全人的)に診る習慣を身につけること,医師として必要な哲学(生命倫理や死生観などを含む)があると研修中も頭の片隅に置いておくことなどです。そして,これが私から皆さんへのメッセージです。
自分の手先の不器用さを再発見
兼本 浩祐(愛知医科大学精神神経科講座教授)
(1)私の叔母は出雲で小学校の教員をしていました。毎年お正月に叔母のところを訪ねて来る二人の大学生がおり,私はその方たちと会うのを楽しみにしていて,彼らの学生紛争や恋愛の話を何か英雄譚のような憧れを持って聞いていた記憶があります。その大学生の1人はその後精神科医になり,そのことと関係があるのかないのかはわからないのですが,高校生になったときには私も精神科医になることを漠然とですが決めていたように思います。
しかし,もともとの関心が医学というよりは哲学や心理学のほうにあったので,いざ医学部を卒業して研修医になる段になって抱いたのは,「このまま精神科に入局してしまうと,身体のことはまったく診ることのできない医者になってしまいそうだ」という懸念でした。
最初は京大神経内科に入局したのですが,当時の神経内科は老年科と病棟をシェアしており,「それなら内視鏡などの手技も一緒に研修させてあげよう」と老年科の先生たちが機会を提供してくださっていました。神経学的所見がひと通り取れるようになったことはその後の貴重な財産になったと感謝していますが,もう一つ大きな出来事は,内視鏡を経験させてもらい,自分がびっくりするほど手先が不器用だと再発見したことです。今の臨床研修制度があのころ始まってしまっていたら,もしかすると研修を修了できなかったのではないかと思うほどです。一年して当時の神経内科の亀山正邦教授に精神科に異動したいと相談したときに,亀山教授が「いいよ,いいよ,そう
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