MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2011.09.12
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
山内 俊雄,小島 卓也,倉知 正佳,鹿島 晴雄 編
加藤 敏,朝田 隆,染矢 俊幸,平安 良雄 編集協力
《評 者》中嶋 照夫(医療法人中嶋医院 院長)
研修医のみならず専門医にとっても座右の書となる一冊
大学紛争の中で,医師が学んでおかねばならない最少限の精神医学の知識(minimum requirments)について真剣に考え,熱心に議論した思い出がある。精神医療を取り巻く環境の変化が著しい中で,精神科医は生じてくる広範なニーズへの対応が迫られるとともに,自らの意識を啓発する必要があった。
このような中で精神医学講座担当者会議は『専門医のための精神医学』と題する冊子の編さんを企画した。精神科専門医として必須の精神医学の知識と医療技術を会得するための指導書として,卒後教育を行っていた講座担当教授の有志が執筆し,急速に変化,発展する精神医療に対応するために必要な知識を盛り込み,専門医になるための研修や生涯教育をも意図して作成されたものであった。
日本精神神経学会は専門医制度(学会認定医制度)の発足を検討してきていたが,その動きの中で『専門医のための精神医学』を改訂し,精神科専門医をめざす医師のための手引書的な冊子にしたいと考え,書名も『専門医をめざす人の精神医学』とし,2004年に上梓された。第2版は精神医療に視点が置かれ,臨床的立場を重点とし,専門医としての基礎的知識と臨床治療を発展させるための素養を習得するための教科書として意図されたものである。専門医制度を考えて編さんされ,膨大に拡張してきた精神医学・医療の分野を取り上げて,現場での実践に役立つ知識の獲得が意図されてあるので,執筆者数は初版の2倍以上,総ページ数も1.3倍以上の大冊となった。
今般,精神科専門医制度も軌道に乗り,卒後教育システムが確立して,専門医をめざす者が研修すべき事項が研修手帳に明記された。これに応じて新たな項目が追加されて,『専門医をめざす人の精神医学 第3版』が出版された。本書を進歩・発展してきた精神医学・医療の知識と技能を教示する教科書とするために,執筆者も講座担当者に限らず適任者が選ばれており,その数も初版の2.5倍近く,総ページ数も1.5倍近くの800ページを超す大冊子となっている。
内容項目の構成は第2版と基本的には大差はないが,執筆者の変更と最近の知見の追加や新たな視点での見直しなど改訂が加わっている。構成の大項目は1項目増えて次のような21項目から成る。1.精神医学を学ぶための基本的知識と態度,2.精神症状とその捉え方,3.診断および治療の進め方,4.症状性を含む器質性精神障害,5.精神作用物質使用による精神および行動の障害,6.てんかん,7.心理・生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群,8.統合失調症・統合失調型障害および妄想性障害,9.気分(感情)障害,10.神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害,11.成人のパーソナリティ障害および行動の障害,12.精神遅滞(知的障害)および心理的発達の障害,13.小児期および青年期に通常発達する行動および情緒の障害,14.乳幼児期,児童期および青年期の精神医学的諸問題,15.リエゾン・コンサルテーション精神医学,サイコオンコロジー,16.精神科救急,17.自殺の問題,18.精神医療と安全管理,19.生物学的治療,20.精神療法,21.社会的な治療,社会復帰を援助する治療,である。第18項目の精神医療と安全管理が追加されているが,医療過誤,医療事故などに関する医療におけるリスクマネジメントとインフォームド・コンセントを含む人権問題は,医療現場では避けて通れない重要な課題であり,専門医としては身につけておかねばならない素養である。
精神科の治療は大別して精神療法,薬物療法と生活療法の3方向がある。これらの治療法の基礎的学問となっている精神病理学と,新たに登場してきた脳科学(生物学的精神医学)は競い合い,かつ統合を模索してきたが,いまだに統括的学問体系には至っていない。一方,臨床現場では生活活動能力や社会活動能力の獲得と社会復帰を援助するチーム医療がクローズアップされてきており,精神科専門医は包括医療や地域医療において中心的役割を担うことになる。本書はこの点に関しても教示が及んでおり,研修医のみならず専門医にとっても座右の書となろう。
精神医学・医療分野に漸次登場してきた心理的発達障害,小児期および青年期の行動および情緒の障害や精神医学的諸問題,さらにサイコオンコロジーを含めたリエゾン・コンサルテーション精神医学,高齢者介護や各ライフ・サイクルにおける精神保健の諸問題などから考えると,取り扱う領域は時代の変化や価値観の変容,人権意識の高揚などに応じて急速に拡大,展開している。研修すべき項目が今後さらに検証,検討されていくと思われるが,本書が展開されてくるニーズを取り入れて,さらに充実した指導書になることを期待したい。
B5・頁848 定価18,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00867-9


感染症のコントラバーシー
臨床上のリアルな問題の多くは即答できない
Fong, I. W. 著
岩田 健太郎 監訳
《評 者》青木 眞(感染症コンサルタント/サクラ精機学術顧問)
感染症のコントラバーシー。マニュアル病からの解放
『感染症のコントラバーシー』をようやく読了した。数日で終えるつもりであったが,毎日のように読み続け,何週間も経過していた。
本としてはA5判で500ページ弱のボリュームであるが,気付けば最小フォントでつづった推薦文用のメモがA4で42ページになり,その内容の大きさと深さにあらためて思いをめぐらせた。いったい臨床感染症の広がりはどこまで行くのだろうか……。コントラバーシーを語る以上,「議論のあるなし」「何がわかっていて,何がわかっていないか」を知っているのが前提であるが,実は感染症専門医歴20年に近い自分はこれが不十分であったことを正直に告白しなければならない。
コントラバーシーが示す風景の反対側に,研修医が陥りやすい病気である「マニュアル病」がある。「マニュアル病」とはマニュアルどおりの診療が最良の医療であると信じる病気である。すなわち,この臓器の,この微生物による感染症には,この抗菌薬を,この量で,この期間投与する,ペリオド。自信満々。
これは明らかに「マニュアル病」の臨床像であるが,実は「マニュアル病」にはさらに奥深い病態が存在している。それは,この感染症の起炎菌は本当にこの微生物なのか? なぜ,これがベストの抗菌薬で,この量・投与期間なのか……,という健康な疑問を持たなくなる病態である。臨床現場はコントラバーシーで満ちている。監訳者の岩田健太郎先生曰く「わかっていることとわかっていないことの地平を知るべきである」。
先日更新を終えたばかりの米国感染症専門医試験には,絶対に出題されない事柄が二つある。一つは過去二年間の論文に記載された知見(新しすぎるので変更の可能性があり出題されない)。
もう一つは専門家の間でコントラバーシー,すなわち議論のある事柄である。議論がある事柄と議論が落ち着いた事柄を分ける作業は専門医試験の受験・更新の準備の最も有意義な部分であり,それがわれわれの日常臨床の内実である。
今,こうして膨大な量になったメモと参考文献を振り返りながら,C. difficileによる偽膜性腸炎に25年間新しい治療法が生まれていないこと,その再発が時には2,3年続くこと,感染を起こした大動脈のグラフトを必ずしも除去せずに済ませられること,ほかの抗菌薬と併用されることの多いリファンピシンが,どのようなメカニズムで効果を挙げているのか,必ずしも明らかではないこと,今までまゆつばとしか考えていなかった整形外科領域における抗菌薬入りセメントが思いのほか,期待が持てることなどに静かな感動を覚えている。
少し本書を具体的に紹介しよう。扱う概念の多様な感染症領域であるから,章立てもそれなりのバラエティとなっている。いくつかの章を紹介するだけで,感染症に興味を持つ方は書店に向かわれるだろう。「中枢神経感染症で出てきた新たな問題」「人工呼吸器関連肺炎における現在の問題」「成人における小児呼吸器感染症の再興:RSVと百日咳」「敗血症の新たな考え方と課題」「発熱性好中球減少症のマネジメントの問題」「近年の偽膜性大腸炎の問題と動向」「感染症におけるプロバイオティクス」「デバイス関連感染症」「抗菌薬併用療法(実際は抗ウイルス薬,抗原虫薬などを含む)」などなど……。
「一読をお薦めする」と言えるほど簡単に読了できる内容ではないが,それでも一読をお薦めする次第である。
A5・頁504 定価5,775円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01182-2


感染症ケースファイル
ここまで活かせる グラム染色・血液培養
喜舎場 朝和,遠藤 和郎 監修
谷口 智宏 執筆
《評 者》藤本 卓司(市立堺病院・総合内科部長)
グラム染色の素晴らしさを教えてくれる本
このたび沖縄県立中部病院の卒業生である谷口先生の手によって,感染症の学習を身近なものにしてくれる素晴らしい本が発刊された。「感染症をわかるようになりたい。でも繰り返して勉強してもなぜかうまく頭に入らない」と悩んでいる人は少なくないと思う。私自身も若いころそのような数年間を過ごした経験を持つ一人である。感染症のとっつきにくさの原因の一つは,“相手(=原因微生物)の顔”が見えないことではないだろうか。臨床は五感を働かせて進めてゆくものであるから,もし自分の眼で原因微生物の姿を見ながら診療を進めることができれば,感染症診療はずいぶん身近に感じられるはずである。この本はグラム染色の素晴らしさ,特にグラム染色が臨床上の方針決定に直結する重要な情報源となることを教えてくれる。
すべての症例が問題形式になっており,見開き2ページが問題に,3ページ目以降が解説に充てられている。問題文の右ページには検体のグラム染色写真が示されていて,読者は病歴,身体所見,初期検査のデータ,そしてグラム染色像を見ながら,「さあどうしよう?」と検査や治療の方針を...
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