医学界新聞

連載

2011.08.29

小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses

【第11回】入院中の症状・症候(2)

川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)


前回よりつづく

 患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
 そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。


■問題

下痢

(6)入院患者に下痢が見られた場合,まず本当に下痢か=    でないかを確認する。

(7)入院患者に下痢が見られた場合,    内でほかに下痢症状がある患者がいないか意識する:主治医が別の場合,気付いていないことがある。

(8)入院中に起こる下痢について,原因(少なくとも3つ)と,それぞれにつき提出する検査・治療・扱いを説明してください。
 1)     2)     3)    
 ※必ず    予防策=    を感染管理の観点で【診断前・診断後】から行うことが重要である。
 ※入院後 日経過した患者の下痢で便培養を提出=    性感染?=不衛生なものを提供? となる。

嘔気・嘔吐

(9)既に評価されている嘔吐(特に消化器疾患)なら嘔気・嘔吐時の指示に従えばよいが,予想外の嘔気・嘔吐には重症疾患が隠れている場合があるため,注意を要する。
 ・嘔気・嘔吐+胸痛(胸部から cmの範囲の疼痛)→    
 ・嘔気・嘔吐+頭痛や神経巣症状→    
 ・嘔気・嘔吐+背部・腰部痛→    

★あなたの理解度は? RIMEモデルでチェック!

 R   +I   +M   +E   =100
 Reporter(報告できる)/Interpreter(解釈できる)/Manager(対応できる)/Educator(教育できる)

※最も習熟度が高いEの割合が増えるよう,繰り返し挑戦してみましょう。

■解説

 今回は「入院中の症状・症候」の小テストの2回目として,下痢と嘔気・嘔吐を学びます。

下痢

(6)患者からの"下痢"という申告が,実は黒色便・鮮血便だった,という経験はありませんか? 通常の下痢と出血では大きな違いがありますから,もし可能であれば観便で確かめたいものです。出血が関連していそうなら,Vital signをチェックしながら,次に何をすべきかも考えてください。

(7)入院中の下痢には,問(8)のとおりさまざまな原因があります。特に感染性の場合,病棟内で勤務している誰かが感染源かもしれません。主治医が菌を拡散していることもあり得ます。一つの病棟に受け持ち入院患者が集まっているならわかりやすいかもしれませんが,各病棟に散らばっている場合には注意が必要です。

 医師にとっては,たまたま受け持ち患者の一人が下痢,という場合でも,病棟内に複数人,下痢症の患者がいるとなると話は変わってきます。また,一人の医師が感染性の下痢症を疑っていたとしても,他の医師もそうとは限りません。病棟全体を俯瞰している病棟師長や病棟のICT(感染管理チーム)に速やかに報告し,"疑い"を共有することが重要になります。これは徹底している施設も多いかもしれませんね。

(8)入院患者に起こり得る下痢の1つに,Clostridium difficile(以下,CD)関連下痢症があります。これは抗菌薬投与中,もしくは使用履歴がある場合(過去8週間以上さかのぼった履歴も含まれます)で,患者の免疫力が弱い状態にあるとき,腸内の細菌叢が乱れ,CDから出される毒素(トキシン)が悪さをして発症するものです(詳しくは成書参照)。入院中にはよく遭遇しそうな光景ですよね。

 検査は便培養ではなくトキシンの検査になると思いますが,どの検査をどんな方法で,どのタイミングで何回行うか,といったことは,自施設のルールをぜひ確認してください。看護師さんからの強いアピールで検体を提出して陽性だった,という経験のある医師も少なくありません。ぜひHigh riskの方を見つけて,適切な治療および院内感染拡散防止に努めてください。

 治療はバンコマイシンの経口投与とされていますが,軽症例のグローバルスタンダードはメトロニダゾールの経口投与です。薬価も大きく違いますし,将来的な耐性の問題も考えたいものです。実はこのことは,日本の医療において早く解決してもらいたい問題点の一つだったりします。周りの医師やICTに尋ねてみると,自施設のスタンスが見えてくるかもしれません。

 また冬場には,ウイルス性腸炎が流行しやすくなります。残念なことに患者のお見舞いにくる家族の方が,High riskになっている可能性があります。容態が落ち着いていた患者が,週明けにポンと熱を出すとお見舞いを疑いたくなるのですが,なかなか難しい問題ですね。毎年頭を悩ませている施設も多いのではないでしょうか? ただ,感染力が強く,健常者でも罹患の可能性がある胃腸炎に,看護師さんがかかると非常に厄介です。ただでさえ少ない人数で頑張っている看護師さんが休むとなると,夜勤体制が崩壊してしまうかもしれません。新型インフルエンザ流行時,"○人抜けても成り立つ職場"作りの必要性がビジネス界で言われましたが,そうした視点が日本の医療界にあるとは到底思えません。特に病院勤務の視点や,"唯一無二の役割"をこなしている医師の場合はさらに劣悪な環境かもしれません。

 ウイルス感染による胃腸炎の検査は,基本的に行いません。ロタウイルスなどには迅速検査もありますが,成人領域では通常,高価な,しかも外部委託するPCR検査を行うことはありません。治療も脱水の補正,嘔気・発熱などの対症療法が主体となります。比較的ADLのよい方,つまり病棟内を歩けたり,共同トイレを使える方がウイルス性胃腸炎にかかり,廊下で嘔吐したり,共同トイレで下痢,もしくは十分な清潔対応をしない……となると,想像するだに恐ろしい光景です。マスメディアは「○○ウイルスの大流行」は喧伝しますが,咳エチケットなどを含む予防対策,(成人のウイルス性胃腸炎の場合)検査は一般に行わないこと,対症療法が主体で抗菌薬は不要なこと,治癒証明の必要性が不明なこと,など肝心な情報は,国民にも医療者にも発信しないのが残念です。

 経管栄養を行っている場合も,多少なりとも下痢があることは経験済みですよね。ほかには薬剤性の下痢もあります。CD関連下痢症とは別に,抗菌薬投与中に下痢~軟便になることはよくあります。一部のプロトンポンプ阻害薬で慢性下痢が起こり得ることは,筆者にとって最近の驚きでした。新しい病気・病態は新薬の数だけあり得るのだろうと実感しています。

 では,上記のさまざまな原因を初期のうちに見分け,感染を予防することは可能でしょうか?

 とにかく"接触予防策"を頭で理解するのはもちろんのこと,実行を徹底することが重要です。CD関連下痢症ではアルコール消毒は無効で,流水下手洗いが重要であることもポイントの一つですよね。ICTも,実行しやすい環境作りに努めていると思います。純粋な医学知識の習得とは異なり,感染管理に関しては,どの職種も働き始めた初日から完璧に遂行できることが求められます。「ICTは口うるさいなあ」と思われるかもしれませんが,患者はもとより,院内で働くすべての人のためにICTが活動しているのだという認識を持って,協力的な体制を創りたいものです。

 入院患者が下痢を起こしているとき,便培養を提出する医師がいるかもしれません。"細菌性感染症"を疑っているのでしょうか? 入院後3日間(72時間)たった患者が免疫抑制状態になければ,院内で発症した細菌性腸炎を疑っている? ということです。"MRSA腸炎"の存在自体が議論されているなかで,どんなときに便培養を提出するべきか,院内,あるいはICT内で話し合ってみるのもよいでしょう。

嘔気・嘔吐

(9)嘔気・嘔吐の原因に消化管の問題があることは容易に想像がつきますよね。もちろん,薬剤性ということもそれなりに想像がつくと思います。特に麻薬を処方しているときは,副作用としての嘔気と,便秘による腸閉塞関連の嘔気の両方を意識しなければいけません。既に診断のついている病態ならば少し余裕を持って看られそうですが,もし皆さんが診断のついていない患者を診る救急外来の医師だったら,と仮定するとどうでしょうか。

 嘔気±心窩部痛の方が救急に来たら,真っ先に急性冠症候群の否定から始めます。下壁梗塞ではこうした訴えで来ることがあり得ます。また大動脈解離は,突然発症の疼痛に伴い嘔気・嘔吐がある場合があります。心臓から30cmの範囲内の疼痛(肩や顎の痛みなど)は,急性冠症候群の関連痛の可能性もあるので注意が必要です(このTipsは,福井大総合診療部・林寛之先生がレクチャーでお話しされているものです)。

 頭痛+嘔気・嘔吐で,神経巣症状があれば容易に脳卒中が考えられますが,くも膜下出血の方が歩いて来院することもあり得ます。また頭痛+嘔気では,片頭痛の発作や緑内障発作もあり得ます(次回,記載予定)。となると,既往歴・罹患歴の把握も重要です。

 背部痛・腰部痛+嘔気・嘔吐は,尿路結石や腎盂腎炎などの後腹膜臓器の疾病でも起こり得ます。腹部大動脈瘤の切迫破裂なども怖いですね。

 これらの疾患は救急外来だけでなく,入院中も十分に起こり得ることに気付きましたか? 最初に接触する看護師さんのアセスメント力で適切に対応できれば,素晴らしいですよね。

 次回は,入院中の"痛み"について取り上げます。

つづく

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