入院中の症状・症候(1)(川島篤志)
連載
2011.07.25
小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses
【第10回】入院中の症状・症候(1)
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
今回から,入院中の症状・症候の小テストに入ります。「入院中の」ということは,医師ではなく看護師さんが最初に遭遇する確率が高まるということです。ぜひ臨床をイメージして頑張ってください。
発熱
(1)発熱=感染症,そして抗菌薬投与という考え方が,残念ながら医師の間ではよく見受けられます。皆さんも実感していますか? 感染症はこれまで日本の医学教育の弱点の一つでしたが,感染症診療や診断学に興味を持つ若手・中堅医師が増えてきた印象もあり,今後に期待しています。
最終的な医療判断は医師が行うとしても,感染症なのか非感染症なのかを考え,どこの臓器がダメージを受けている可能性があるのか自分なりに推論してみると,看護師さんにとっても,病棟での日常がもっと楽しくなるのではないかと思います。
(2)感染症診療(発熱診療)においては,感染症を疑ったら「どこの臓器が侵されているのか」を意識します。"感染症は現場で起こっている!"ことを確認するため,その臓器に関連する検体,つまり肺炎なら喀痰,尿路感染症なら尿の検体を取れるかどうかが重要になってきます。
筆者の恩師である藤本卓司先生(市立堺病院総合内科部長)は「感染症診療において,グラム染色をせずに(検体を採らずに)抗菌薬を投与することは,循環器診療において心電図を取らずに抗不整脈薬を投与するようなものだ」とおっしゃっています。抗菌薬投与前の検体採取がどれほど重要か,イメージできますよね。
施設によっては,研修医や若手スタッフからグラム染色用に別検体を取っておくよう依頼されることもあるかもしれません。ちなみに市立堺病院では,主治医以外に"グラム染色係"(=検体を染める係)がいました。看護師さんなどが「培養用」と「染色用」の検体2本を取って,主治医や"グラム染色係"を待っていてくれることが,次第に習慣として確立していったと記憶しています。
「患者が震えたら,医師も震えろ!」という言葉を耳にしたことはありますか? 悪寒だけでなく,戦慄があったときは菌血症の可能性があり,血液培養2セット・各種培養・抗菌薬投与,という流れをイメージしておくとよいでしょう[Vital signの小テスト・問(19)(連載第4回・2913号)参照]。
1セットで不十分な理由は,汚染(コンタミネーション)があると判断が難しくなるからです。血液培養でのコンタミネーション率をモニターしている施設もありますよね。
なお,菌血症を起こしやすい病態は,尿路感染症・胆道系感染症・肺炎,カテーテル関連血流感染症などです。こちらも前述の問(19)で言及していますので,再度確認してみてください。
(3)各種挿管のチェックは,身体診察の一部とも言えるものです。混濁や閉塞,ルートの挿入部の観察も重要です(ちなみに,小テストの5テーマ目は「チューブ管理」です)。
明らかな熱源がなさそうと思ったとき,見逃しがちなのが下肢の問題です。これは入院中の発熱でも,救急でも同様に見られます。皮膚は感染防御機構ではありますが,浮腫自体がそのバリアを壊してしまいます。脳卒中や大腿骨頸部骨折の患側では,浮腫が起こりやすいことは想像がつきますよね。また,白癬(みずむし)の罹患は,蜂窩織炎のハイリスクです。趾間の観察もできるとよいですね。
(4)「高齢者が急性肺炎で入院,呼吸状態も全身状態も良くなってきたのに,数日後に突然発熱・全身グッタリ・食欲低下が……」という経験はありませんか? もちろん,原疾患のコントロール不良や別の合併症,薬剤性(もしくは診断間違い)なども鑑別に挙がるのですが,高齢者が入院し,寡動となった際に時折遭遇するのが,"痛風・偽痛風"(結晶誘発性関節炎)の発作です。疼痛の訴えもなく,発熱+全身状態の悪化ということが意外とあります。このときには膝・足関節など局所での炎症所見,すなわち発赤・熱感・腫脹・疼痛がないかどうかを確認することが大切です。
これらを入院中に最初に発見(診断)できるのは看護師さんであり,起こしやすそうな人の目星も付きます。注意深く観察して「偽痛風かもしれないですね」と言ってみると,医師に感謝されるかもしれません。
最終的に関節液の鏡検を必要とすることが多いので,整形外科へのコンサルト(当院では対診と表現しています)があることも意識しておくと,診療がよりスムーズになるでしょう。 (5)発熱・疼痛時に頓服として使われる薬の違いを理解していますか? 一般論にはならないかもしれませんが,筆者の考え方を記します。
カロナール®(一般名アセトアミノフェンは,添付文書にはできれば空腹時は避けたほうがよいと書かれてはいますが,他のNSAIDsと比較すると消化管障害を来しにくい解熱鎮痛薬です。「あまり効かない?」と感じている医療者・患者さんが少なからずいますが,それは内服量に問題があります。
基本的には1回当たり体重(kg)×10 mgの量を投与すべきなのですが,200 mg錠なら2錠=400 mgを,成人に投与することが習慣化している印象を受けます。粉薬での処方ならば500 mgが一般的だと思われますので,その場合はもう少し効くと感じられるかもしれません。先日添付文書が変更され,保険適応の解釈次第では,60 kgの方(一般的な成人)なら,200 mg錠を3錠投与してもよくなりました。ですから200 mg錠を1錠処方しても,ほとんど効かないのはわかりますよね。
ロキソニン®(一般名ロキソプロフェン)はよく使用されるNSAIDsではありますが,胃粘膜障害だけでなく腎機能障害やナトリウム貯留,カリウム値上昇などの副作用が生じる可能性があります。解熱目的であれば,可能ならアセトアミノフェンを使うほうがよいでしょう。まだ馴染みが薄いようですが,市販薬でもアセトアミノフェンはあります。
ボンフェナック®(一般名ジクロフェナク)は当院で採用している座薬で,経口摂取が不可の病態で投薬指示が出ることがあります。12.5 mg,25 mg,50 mgと量が違うのですが,医師が一定のフォーマットに従って指示を出した場合,患者の体格を十分考慮できていないことがあります。「この体格なのにこの量でいいの?」と思ったら,確認することが重要です。機序は明確ではありませんが,急減な体温低下とともに血圧が下がることを経験した方もいるでしょう。投与前のVital signの確認も大切です(異常があれば既に測定しているとは思いますが)。
「NSAIDsの座薬では胃粘膜障害が起こらない」と思い込んでいませんか? 一部の医療関係者にもそういった誤解があるので,胃粘膜障害の可能性にも留意してください。
なお,NSAIDsの内服薬と同時に「胃薬」を処方するか否かは,医師・患者さんの好みによると思います。ただ日本人の傾向として,胃薬を希望する割合が高すぎるのではないかと感じています。皆さんは「私,胃が弱いから」という言葉,どうとらえていますか?
参考までに,アセトアミノフェンの座薬もありますが,これにも投与量の壁があります。200 mg座薬を2-3個入れるのは,少し抵抗がありますよね。
* 次回は「下痢」「嘔気・嘔吐」の問題に入ります。
(つづく)
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