医学界新聞

連載

2011.09.26

小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses

【第12回】入院中の症状・症候(3)

川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)


前回よりつづく

 患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
 そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。


■問題

○○痛

(10)体を動かしたときに起こる疼痛は    由来の場合が多い。それが脊柱レベルで起こっていると    骨折の可能性が高い。

(11)深呼吸,もしくは咳嗽時に起こる疼痛は上記の筋骨格系由来=(    ),もしくは    由来のことが多い。その場合は口腔内衛生が悪いことも多いので,    の有無もチェックする。

(12)いろいろな疼痛を訴えるなかでも,    を伴っていると緊急性が高い可能性がある。また    も脳血流低下を来している可能性があるので,Vital signのチェックを必ず行う。なお参考までに,上記の       も低血糖症状として見られることもあるので,糖尿病患者さんのときには血糖もチェックする。

腹痛

(13)……。
  腹痛は難しいので,医師の判断に委ねてもよいと思われるが,腹膜炎を呈している場合は,患者さんは痛みのため【のたうちまわっている ・ できるだけ動かない】ことがあるので,注意が必要である。

★あなたの理解度は? RIMEモデルでチェック!

 R   +I   +M   +E   =100
 Reporter(報告できる)/Interpreter(解釈できる)/Manager(対応できる)/Educator(教育できる)

※最も習熟度が高いEの割合が増えるよう,繰り返し挑戦してみましょう。

■解説

 「入院中の症状・症候」の小テスト,3回目の今回は,さまざまな痛みについて学んでいきます。

○○痛

(10)起き上がろう,体の向きを変えようとしたときの痛み=体動時痛は,筋骨格系由来の疼痛である場合が多いです。高齢者やステロイド内服中の方では,圧迫骨折が入院中に起きることも決して珍しくはありません。

 内科医として注意すべき,筋骨格系由来の痛みとしては,癌の骨転移と感染症関連(椎体炎や腸腰筋膿瘍)が挙げられます。めったにないことですが,腸腰筋に膿瘍や血腫のある人は,足を伸ばすと疼痛が生じます。その場合,常に膝を抱えているような肢位を取る(腸腰筋肢位:詳しくは成書参照)ので,ずっと同じ姿勢で,かつHigh Riskの患者さん(尿路感染症や"不明熱"の精査中)では,看護師さんが先に気付くこともあるかもしれません。決して頻度は高くありませんが,筆者のチームでは今年度,適切に見抜けた症例と,気が付かなかった症例がそれぞれ2例+救急搬送が1例ありました。

(11)深呼吸や咳嗽は,胸郭を動かすものなので,肋骨や胸郭の筋肉に由来する痛みがあり得ます。咳のし過ぎで胸が痛くなった経験のある方もいるのではないでしょうか?

 筋骨格系由来の痛みではその部位に圧痛がありますが,圧痛がないのに痛いときは,胸膜炎による胸膜痛を疑います(心膜痛もあるのですが,今回は省略します)。胸膜炎のみ起こすことは少なく,一般には肺炎が胸膜まで波及している場合が多いです。原因菌としては,肺炎球菌や口腔内の嫌気性菌関連が多くみられます。となると,もう皆さんなら口腔内の衛生を確かめたくなりますよね。入院中に新たに胸膜炎を起こすことはあまりないかもしれませんが,発症した場合,たとえ治療中でも,胸水が増え,胸腔ドレナージを必要とすることも想定しておいてよいかもしれません。

 胸痛では,何といっても虚血性心疾患の除外が必要ですが,入院患者さん,つまり免疫力が弱っている人の胸痛では,帯状疱疹にも注意が必要です。典型的な発疹が出る前に,ピリピリ感(「服が擦れると特に……」ということも)や掻痒感を訴えることが多くあります。帯状疱疹後疼痛は,発疹が消退後も疼痛に悩まされるやっかいな病態で,早期の診断・治療が求められます。"正中を越えない","帯状の違和感"といった言葉に敏感になり,まだ発疹が出ていない場合でも,服を脱がせて確認するとよいかもしれません。

(12)「患者さんが冷汗をかいていたら,医師も冷汗をかけ!」というのは,誰が言った名言でもありません。が,やはり重篤な疾患が絡んでいる可能性を考えて,検索し,早急に治療にかかります。胸痛(心臓から30 cm以内の疼痛)+冷汗があれば,ACS(急性冠症候群)の除外は必須です()。

 腹痛+冷汗の場合,消化管関連であれば潰瘍性疾患からの出血,絞扼性イレウスやSMA(上腸管膜動脈)血栓症などが,循環器関連であれば腹部大動脈瘤の問題が,産婦人科関連では卵巣捻転や子宮外妊娠,卵巣出血が,泌尿器科関連では尿路結石が疑われますし,整形外科領域の圧迫骨折もあり得るでしょう。前述の疾患群は,冷汗がショックの徴候の1つでもあることとも結びつきますよね。Vital signの確認は必須になりますが,何にせよ緊迫した嫌な状態ではあります。

 意識障害が起こった場合,脳に問題があるか,代謝的な要因があるか,どちらかを意識します。瞳孔の左右差があればどちらかというと頭蓋内疾患の可能性が高いという報告もありますので,瞳孔を見てもらっていると医師としてはありがたいです(連載第4回,2913号参照)。脳にダメージが起きている理由が,脳血流の低下,すなわち循環動態の問題である場合があるため,Vital signのチェックはやはり必要です。

 冷汗や意識障害,ともに遭遇するととても嫌なものですが,この両者は低血糖でも起こり得ます。ですから,低血糖が起こる可能性のある人では血糖のチェックは必須です(もちろん,意識障害を見れば,低血糖の除外が必須でしたよね:連載第4回参照)。

 ただ,冷汗と意識障害は病態生理的には別のものを意味しています。冷汗は (1)交感神経系の賦活によって起こる症状で,意識障害は (2)脳細胞への糖不足(Neuroglycopenia:ちょっと見慣れない英語ですね)による症状です。(1)が先に起きてくれるならいいのですが,いきなり(2)から起きることもあるので,低血糖には注意が必要です。

腹痛

(13)救急外来や新患外来で腹痛の人が来ると,正直,嫌だなぁと思います。診断がなかなか確定しにくいし,重篤なものからごく軽症のものまであるからです。

 入院中の患者さんでも腹痛の訴えはよくあります。前述の冷汗+腹痛でも緊急性の高い多くの臓器にまたがる疾患が鑑別に挙がっていますよね。「うちの科の疾患ではありません」ということは,臓器別専門医の外来では言えるかもしれませんが,入院中の患者さんでは言っていられないものです。看護師さんとしても,主治医にそういった対応を取られたら,ガッカリしますよね。

 その一方で,意外と大したことのない腹痛の訴えもよくあります。日本人に案外多い印象のある「胃が痛い」というのは「何で胃と決めつけているのかな?」とも思いますが,かといって,こちらも原因がハッキリわかるものでもありません。

 入院中の腹痛に対する対応は施設や医師のスタンスによりさまざまだと思います。腹痛時の対応(こういった場合にはこうしてくださいという指示:当院では"汎用指示")で,(1)管腔臓器由来の疼痛として,ブスコパン®を使用という指示を出している医師もいると思いますし,(2)胃粘膜障害関連を想定して,何らかの胃薬の処方の指示を出す医師もいると思います。ただ,何が原因で起きている腹痛かは,話を聴いて,診察をしなければわからないですよね。そういったことも含めて,(3)どんなときでもドクターコール,としている場合もあると思いますが,これも呼ばれる医師(本人,もしくは日当直/オンコール医)は大変かもしれません。理想的な対応のできる環境作りはなかなか難しいですし,現時点では,その方の病状と施設・医師のスタンスによるかと思います。

 看護師さんが,腹痛のアセスメントを24時間バッチリ行ってくれたら,大変ありがたい……とは思いますが,医師でもなかなか難しく,しかも検査を駆使してようやく診断の確定や除外をしているなかで,すべての看護師さんに完璧な対応を求めることには無理があります。問題文に「……。」と書いたように,何となく途方に暮れますよね。

 となると,マズそうなものをまず除外していく能力を磨いてもらうとありがたいです。その1つが前述の冷汗や不安定なVital signになりますし,もう1つが"腹膜炎の方は動くと痛いので動かない"ということになると思います。腹痛は,なかなか難しいですね。

 次回は,"頭痛"について学びます。

つづく

註)前回(連載第11回,2942号)にも記載したこのTipsは,林寛之先生(福井大総合診療部)がレクチャーでお話しされているものです。

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