医学界新聞

2011.08.08

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方
IDATEN感染症セミナー

IDATENセミナーテキスト編集委員会 編

《評 者》香坂 俊(慶大病院・循環器内科)

ポイントを押さえた解説で,臨床感染症を身近にとらえる

 ああ,またですか。抗菌薬の選択が議論にもならずスルーされていくのをみて,僕はため息をつきます。しかも,よりによってカテーテルをそのまま残しておいていただいているなんて,培養はどうなっているのでしょうか? もう提出済みですか? しかも,そのサンプルは2セットともカテーテルから取ったから問題ない? いやあ,感激です。これで緑膿菌が出たらコンタミでも何でも治療を開始できますね。え,もうメロペネムが使われている? それはもう神の一手ですね。文字通り言うことは何もありません。

 臨床感染症というのはもっといろんな科の先生が知っていてもいいのではないかと思います。その上で身近な疑問に答えていただけるエキスパートがいてくれるとありがたいのですが,そんなぜいたくは望んではいけませんよね。かといって成書を読んでもきめ細かいところがわかりません。分量も多いし,別にわかっていることを全部書いてくれなくてもいいのですよ。培養の取り方とカテ抜去のタイミング,そこが知りたいのです。

 そんなとき,IDATEN講師陣がセミナーを開いてくださいました。いいですね。症例から始まって,ポイントを時系列に沿って順番に丁寧に押さえてくれました。あと,ガイドラインに根差した方針を示しながら,「ここから先は,エビデンスはないけれども僕らはこうしています」と,しっかり線を引いてくれることがとてもありがたかったです。講義を本にまとめるに当たってはかなり苦労があったと思うのですが,ポイントごとにブロックを作ってくださっていますね。これはCHART式と言うのですか? 僕のようなせっかちな循環器内科医にこのようなフォーマットは大変ありがたいです。

 基本的にこの本は臨床感染症を身近にとらえるというコンセプトを,ふんだんにスペースを使って伝えてくれるぜいたくなテキストなのだと勝手に思っています。いいじゃないですか,別に循環器内科医や外科医が感染症に興味を持っても。心臓や傷口がよくなっても患者さんがよくなってくれなくては困りますからね。

B5・頁328 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01244-7


感染症のコントラバーシー
臨床上のリアルな問題の多くは即答できない

Fong, I. W. 著
岩田 健太郎 監訳

《評 者》名郷 直樹(武蔵国分寺公園クリニック院長)

即答はできないけれど,本当はそれなりに答えられる問題

 岩田健太郎氏が監訳を担当された『Emerging Issues and Controversies in Infectious Disease』の翻訳である。それだけ紹介しておけば,もうこれは読むしかないという人も多いだろう。そこで私が追加できることはなにか,と自問しながら,この本について書く。

 中耳炎や副鼻腔炎,呼吸器関連感染症,敗血症,偽膜性腸炎など,ありふれた疾患に対する問題が,わかりやすくというか,わかりにくくというか,まとめられている。忙しい外来中や病棟でこの本を参照したりすると,ポイントだけを明確に書いてほしいと,文句を言いたくなるような本である。しかし,本書は臨床現場でどうすればいいのか参照するために書かれた本ではない。時間があるときにじっくり読む本である。

 本書の特徴は以下のような記述にあると思う。重症敗血症に対するステロイドの効果について述べた部分である。

 「死亡の相対危険度をベースラインの35%から15-20%低くするにはサンプル数が小さすぎ,それには少なくとも2,600人の試験を必要とする。そのような圧倒的な数の試験が必要か否かは議論の余地がありそうである」

 通常の記述では「明確なエビデンスはない」と書かれる部分である。エビデンスがないからといって何もしないというわけにはいかないだろう,というような意見は,単にエビデンスがあるとかないとかいう大ざっぱな記述に対する正当な反応である。上記の記述は,「明確なエビデンスはない」という明確であるが決して正確でない表現に対し,臨床医のためのエビデンスの見方の一つを明示している。しかし,多くの臨床医はこの記述についていけないかもしれない。ついていけないとしたら,まず本書を通読することをお勧めする。今まで自分自身がエビデンスと呼んでいたものが,まったく違った様相で見えてくるに違いない。

 本書をすべての臨床医に勧めたい。臨床医が判断の材料にしている研究結果というものが一体どんなものなのか,単に明確とかあいまいというだけでなく,もう一度じっくり考えるために。

A5・頁504 定価5,775円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01182-2


標準整形外科学 第11版

内田 淳正 監修
中村 利孝,松野 丈夫,井樋 栄二,馬場 久敏 編

《評 者》和田 卓郎(札幌医大道民医療推進学講座特任教授・整形外科学)

時代要請に応える整形外科教科書

 厚生労働省の2007年国民生活基礎調査によると,人口1000人当たりの有訴者率は327.6とされる。有訴率の上位3症状は男性では腰痛,肩こり,痰や咳が出る,女性では肩こり,腰痛,手足の関節が痛む,であり,いずれも痛みを伴う運動器に関連した愁訴が多い。一方,高齢化社会の進行に伴い,介護を必要とする人の数も急増している。2007年における要介護・要支援者数は450万人を超える。介護が必要になった原因の20%以上は骨折・転倒と関節疾患など運動器の外傷や障害が占める。運動器疾患の社会的重要性を示す数字である。それに呼応して,医師国家試験における整形外科関連の出題が増加している。

 このような時代要請の中,『標準整形外科学 第11版』が出版された。本書を手にしてまず驚くのは,表紙が大きくリニューアルされた点である。白地に赤のリボンとシンプルで清潔感のあるデザインで,執筆者の医療への情熱が感じられる。特記すべきは,新たな章として「運動器の痛み」を設けた点,新しい疾患概念である「運動器不安定症」と「ロコモティブシンドローム」の記載が増え,わかりやすく解説している点である。

本書の初版以来貫かれている編集方針「考える整形外科」は健在である。知識の羅列ではなく,若い医師がよき臨床医に成長するために不可欠な観察力,思考力,判断力を身につけられるよう工夫されている。悪性骨腫瘍の単純X線像に特徴的な骨膜反応に関する記載では,腫瘍の悪性度の違いによってタイプの違う骨膜反応が現れる機序を,X線像,カラー図を交えながら理論的にわかりやすく解説している。単に画像所見を読むだけではなく,その画像が意味する病態を考える姿勢を求めている。

 各編の冒頭に新たに設けられたカラーの「構成マップ」は,全体像を把握するのに便利である。電子ファイルに慣れた若い読者にとって,より親しみやすいデザインになっている。別冊付録として手帳サイズにまとめられた「[OSCE対応]運動器疾患の診察のポイント」は,臨床実習中の医学生が携帯するのに便利である。

 本書は「偏らず,平易で,しかも最新の情報を取り入れた医学部学生・卒後研修医のための教科書」として1979年に初版され,以後定期的に改訂を重ねている。若い医師のみならず理学療法士,作業療法士の方々にも読んでいただきたい良書である。また,第一線で活躍するベテランの整形外科専門医にとっても,整形外科全般の標準的知識を再確認する意味で,一読の価値のある教科書である。いずれ本書が電子化され,パソコンや電子書籍端末で閲覧できるのが楽しみである。

B5・頁1052 定価9,870円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01070-2


個人授業 心電図・不整脈
ホルター心電図でひもとく循環器診療

永井 良三 監修
杉山 裕章 執筆
今井 靖,前田 恵理子 執筆協力

《評 者》山下 武志(心臓血管研究所長・付属病院長)

ホルター心電図を学ぶ教科書として適した一冊

 数多くいる循環器専門医といえども,その中でホルター心電図が好きな,あるいは得意な医師は少ないはずだ。このように書く自分自身がそうだったのだから,このことには確信が持てる。若いころ,心電図や心内電位はよくても,ホルター心電図だけはどうにも避けたかった。ましてや報告書を書くことは苦痛以外の何物でもなかったことをよく覚えている。その後,良き指導者を得て,数年後には東京大学附属病院中央検査部で院内すべてのホルター心電図の報告書を書いていたのだから自分自身が驚いてしまう。ホルター心電図を読むということ,これには良い指導者に出会ってOJTで学ぶことが一番だ。

 とはいっても,指導者に恵まれないときにどうしよう。誰もが教科書を当たると思う。しかし,ホルター心電図の教科書はとても少ないのだ。Amazonで調べてみると現在購入可能なホルター心電図の教科書はたったの4冊しかない(しかも,そのうち1冊は筆者の師匠が編集されている。世間は狭い!)。心電図に関する教科書が数えきれないぐらいあることとは極めて対照的だ。

 このような中,ホルター心電図に関するわが国5冊目の教科書となるのが本書である。著者は新進気鋭の若手,杉山裕章医師で,『個人授業 心臓ペースメーカー――適応判断から手術・術後の管理まで』に続く入門書第二弾として書かれている。第一弾と同じように,先生と生徒の会話という形に工夫された記述であり,一気に通読できた。

 ホルター心電図を前にして,どのような順序であの大量の心電図を読むのか,その際にはどのような点に注意するのか,そしてどのような落とし穴があるか,おそらく著者自身の頭の中の読解順序で目次が構成されている。最終的には,ホルター心電図のレポート作成を目標としているのでレベルの高い教科書といえる。しかし,そのレベルの高い部分についてはアドバンスとして別項目でまとめられているので,初学者にはこの項目を飛ばすことができるようにも工夫されている。

 このシリーズの特徴は会話方式で心理的抵抗感を下げながら,レベルの高いところに挑戦するということにありそうである。その意味で,循環器内科専門医をめざす医師,そして生理機能検査室で働く技師に最も適している教科書だと思う。良い指導者に出会ってOJTでホルター心電図を学ぶ環境が提供されるだろう。ホルター心電図があまり好きでない(と書いたら怒られそうだが)筆者にとっては,もうちょっと薄い本であってほしかった(笑)。

 ホルター心電図に困ったとき,まずは書店でホルター心電図の教科書を探してみよう。数が少ないので,あなたに合った本はすぐに見つかるはずである。本書は現在そのような本のトップにならんとすることを予想している。

B5・頁344 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01335-2


臨床心臓構造学
不整脈診療に役立つ心臓解剖

井川 修 著

《評 者》熊谷 浩一郎(福岡山王病院ハートリズムセンター長)

初心者のみならず,不整脈専門医にとっても役立つ書

 ついに待望の書がでた! 以前から不整脈専門医はこのような教科書を待ち望んでいた。不整脈診療を行うには,電気生理学的な知識のみならず,心臓の解剖を理解することが必要である。今までも基礎医学者が書いた解剖学の教科書や心内心電図ばかりの臨床電気生理学の教科書はあったが,両者を関連づけた教科書は皆無であった。井川修博士は元来臨床不整脈専門医であるが,独学で解剖学を勉強し,基礎解剖学と臨床不整脈学を結び付けた「臨床心臓構造学」という新たな学問を提唱した。そして長年の研究成果の一部をこの一冊にまとめた。

 カテーテルアブレーションやデバイス治療を行う場合,二次元透視下に心腔内の三次元構造をイメージしながらカテーテルを操作しなければならない。カテーテルアブレーションが登場したころ,われわれの世代はまず剖検心や動物心で房室結節を触ったり,解剖学的に重要な部位にマーカーとして金属を装着して透視で見ながらどう見えるかイメージしたり,実際アブレーションした後,焼灼部位を観察した。しかし,当時きちんと説明した教科書はなく,かなり曖昧な理解であったように思う。本書は解剖組織のカラー写真とカテーテルの透視像,心内電位を対比して説明してくれているので非常にわかりやすい。最近の若い医師の中には,解剖の勉強をせずにカテーテル手技ばかり習得したがるものが多いが,カテーテルを握る前にまず本書を読むことを勧めたい。解剖を知らずにアブレーションを行うことは,地図を見ずに知らない土地に行くようなものである。また,合併症を起こさないためにも,心臓の構造を正しく理解することは極めて重要である。

 この本では,心臓の解剖のみならず,発生学から説明してくれている。これは不整脈のメカニズムを考える上で意味がある。筋肉の塊である心臓がしなやかに動くのはまことに不思議で神秘的である。その昔,田原淳博士はこの筋肉の塊の中に"刺激伝導系"を発見した。この発見なくして,心電学・臨床電気生理学もアブレーションも存在し得なかった。剖検心を手に持ち,地道にひたすら根気のいる作業を深夜まで行いながら,研究成果を集大成した著者の姿は,田原淳博士に重なるものがある。まさに井川修博士は平成の田原淳博士といえよう。

 私は本書を読んで,今までいかに知ったかぶりをしていたか,間違った理解のままアブレーションをしていたのかを思い知らされた。この本は,今からカテーテルアブレーションを始める初心者のみならず,不整脈専門医にとっても役立つ書である。本書は不整脈専門医の聖書の一つになるに違いない。

B5・頁184 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01121-1


誰も教えてくれなかった
血算の読み方・考え方

岡田 定 著

《評 者》徳田 安春(筑波大附属病院水戸地域医療教育センター教授/水戸協同病院・総合診療科)

血算の読み方・考え方をプラクティカルに解説

 「血算は臨床検査のバイタルサイン」と序文にある。血算はほとんどの診療科でほぼルーチンに行われている検査であり,血算データの異常は重篤な疾患に伴ってみられることが多いので,検査のバイタルサインと呼ぶべきという著者の意見に賛成である。本書は血算の異常データのパターンに基づいた読み方・考え方を症例ベースで,幅広い疾患の診断と治療について解説している。

 一読して,印象に残った点をクリニカルパールとして以下に挙げてみた。

 貧血の鑑別ではまずMCV(平均赤血球容積)とRet(網赤血球)に注目。網赤血球は絶対数≧10万/μLで増加していると判断する。二次性貧血の8大原因は,悪性腫瘍,感染症,膠原病,肝疾患,腎疾患,内分泌疾患,低栄養,妊娠。長期TPN(中心静脈高カロリー輸液)の正~大球性貧血では銅欠乏性貧血も考える。鉄欠乏性貧血(鉄欠)+二次性貧血の合併はFe/TIBC<16%に加えてフェリチン30-100 ng/mLで疑う。Hb 7 g/dLならEPO≧100 mIU/mLが予想され,それ未満なら腎性貧血を考慮。サラセミアはMCV高度低値が特徴で,サラセミアインデックス=MCV/RBC(×106)≦13。B12欠乏→ Hunter舌炎(舌表面がてかてか)→味覚障害→食欲不振→体重減少。胃切除後貧血ではB12欠乏+鉄欠で「正球性」のことあり。TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)疑いではADAMTS13とその阻害薬をチェック。溶血性+鉄欠乏(溶血で尿中に鉄喪失)ではPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)を考える。尿中ヘモジデリン(血管内溶血)が特徴。フローサイトメトリーでCD59欠損を確認。鉄欠乏に伴う異味症(氷かじり)は鉄剤投与後数日で消失する。

 真性赤血球増加症(PV)ではMCVは低下する(自律性赤血球産生による鉄欠乏)。入院時(臥位)採血で軽度Hb低下は体位性偽貧血を考慮。慢性骨髄性白血病(CML)を否定するには,分画評価(骨髄球,後骨髄球,好塩基球の増加),好中球アルカリホスファターゼ(NAP),B12を測定。人間ドックで引っかかる赤血球増加症+喫煙者→相対的赤血球増加症,軽度白血球増多症。人間ドックで引っ掛かる軽度白血球増多症+喫煙者→喫煙関連白血球増多症。ITP(特発性血小板減少性紫斑病)の診断では,偽性,肝硬変,薬剤性,DIC,SLE,先天性を除外する。鉄欠ではフェリチン>25 ng/mLまで鉄剤は続ける。

 上記以外にもたくさんのパールが,豊富な図解入りで,スーパールール,基本ルール,ワンポイントレッスン,ワンポイントイメージ,としてまとめられている。また,コラム「ちょっと休憩」では著者が得意とするナラティブな物語を展開しており,楽しく読みやすい。

 血算データの異常を来す原因には,造血器以外の疾患の場合も多く,血算の異常データに遭遇しない診療科はない。血算の軽微な異常値が実は重篤な疾患の発症を示唆していることもあり,見逃してはならない。逆に,喫煙が血算の異常の原因になっていることがあり,禁煙指導の根拠にもなる。血算の異常データへのアプローチをプラクティカルに解説した本書は,内科系の研修医や指導医,勤務医,開業医のみならず,全診療科の医師に役に立つと思う。

B5・頁200 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01325-3


標準産科婦人科学 第4版

岡井 崇,綾部 琢哉 編

《評 者》武谷 雄二(東大大学院教授・産婦人科学)

徹底して臨床の実践に資するという編集方針の教科書

 本書を通覧してまず感じたことはとにかく読みやすいということである。なぜかというと,とかく教科書の記述にありがちな,あらゆる知識を百科事典のごとく総花的に平坦に紹介するスタイルではないからである。個々の知識を区区として紹介するのではなく,ある生理学的現象や特定の病態の理解の一助として説明している。換言すれば,知識の羅列的紹介よりも生体が織りなす複雑系の理解を前景化しているものである。

 また,このことを可能にする技法として,章の構成にさまざまな趣向が凝らされている。さらに,本書を読みやすくしている仕掛けとして,"POINT"というコラムを設け,あらかじめどこに着目すべきかの指示がある。また各章の始めにはその内容が図示されており,一目瞭然である。したがって,ついつい流れに沿って編者が意図する世界に引き込まれてしまう。

 本書には臨床への還元を強く意識した工夫が随所にみられる。従来の教科書は疾患の説明が主であり,それに付随して症状が記載されている。またおびただしい知識の山を淡々と不連続に述べる傾向がある。

 一方,本書では生殖器系の形態,現象を述べる際にはその臨床的意義と関連付けて解説している。さらに第1章では,主訴・症状から診断にたどりつくというように,実地の診療の際の思考経路を模した流れになっている。このように徹底して臨床の実践に資するという編者の哲学がくみ取れる。

 昨今,産婦人科学は生殖内分泌学,婦人科腫瘍学,周産期医学などいくつかのサブスペシャリティーに分かれ,相互の関連性が希薄になりつつある。これらは生殖医学という共通の土壌の中で育まれたものであり,同じディシプリンとしての相互理解がなければ各分野の将来の発展も望みがたい。その点,本書には拡散化しつつある産婦人科の各分野を見事に束ね,簡にして要を得た編集といえる。日進月歩の産婦人科学の将来の形を明示したものともいえる。

 本書は医学生の教科書として大いに薦められるが,読者の知識,経験に応じて幅広く利用できる教科書といえる。初期の研修医,産婦人科専門医をめざしている医師,産婦人科医の生涯研修としても活用していただきたい。

B5・頁648 定価8,610円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01127-3


かかりつけ医のための
精神症状対応ハンドブック

本田 明 著

《評 者》和田 忠志(あおぞら診療所高知潮江院長)

プライマリ・ケア現場の必然から生まれた書籍

 今日のわが国では,精神症状と身体症状の双方を有する患者さんの行き場がなかなか見付からないという現実がある。この現実に苦慮する臨床家は多いであろう。このことに心を痛める著者は,プライマリ・ケアを実践する医師が精神症状を有する患者さんと果敢に対決する現実を見て,「一層の一般医療における精神科教育の必要性を実感」したという。この動機から生まれた本書は,プライマリ・ケア現場の必然から出た本であるといえよう。

 本書は,精神科の書らしからぬ精神科の書である。著者は書名に精神科という言葉をあえて使わず,「精神症状対応」という言葉を使用した。しかし,本書は,「症状対応」のみならず,より深い内容を取り扱っており,精神科領域の実用的な基礎的知識や方法を学ぶのにも適した書である。とりわけ,著者の幅広い臨床経験から,さまざまな臨床の知恵を学ぶことができる。

 著者は精神科と救急医学の専門医でありながら,幅広い身体疾患を対象とする在宅医療にも豊富な経験を有する。著者はプライマリ・ケアに深い造詣を持ち,精神科以外の多くの医師が遭遇する精神症状や,精神疾患に対する対応を簡潔にまとめている。

 本書の優れた点は,精神科領域に対する基礎的知識がほとんどなくても円滑に読める点である。身体疾患に起因する精神症状や,薬物を使用した場合の身体的な副作用などにも配慮がちりばめられており,かかりつけ医が使用しやすい内容になっている。家族対応の要諦や,介護保険に携わるスタッフに対する留意点も記載されている。また,各項目には,使用すべき薬物の解説が随所に書かれており,すぐに使える知識が得られる。

 また,介護保険の主治医意見書,障害年金の診断書,成年後見制度の鑑定書などの書き方や,認知症の鑑別診断別対応など,プライマリ・ケア現場で多くの医師が経験する事柄をうまく記載している。アルコール依存症やパーソナリティ障害など,一般医療現場の臨床家の頭を悩ます問題もしっかり言及されている。さらには,医療者自身のメンタルケアにも言及しているところは圧巻である。

 ハンドブックというとおり,本書は項目ごとに独立した構成をとっており,どこから読んでも学べるようになっている。読者は,その都度,自分が出会った患者さんの症状に合わせてその対応を学ぶことができる。本書では冒頭の目次の後に提示症例一覧が挙げられており,読者が悩むときの事例対応に便宜を図っている。巻末には,向精神薬の一覧,知的機能検査(HDS-R,MMSE)が挙げられており,これも便利である。

 おそらく,著者は比較的若い世代で,プライマリ・ケアや在宅医療を志す医師を読者対象としたと思われるが,経験を積んだ医師が読んでも著者の経験に照らして多くを学ぶことができる。もちろん,プライマリ・ケア現場で臨床に携わる若い医師にとっては,よい入門書になるであろう。

A5・頁248 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01228-7


泌尿器科レジデントマニュアル

郡 健二郎 監修
佐々木 昌一,戸澤 啓一,丸山 哲史 編

《評 者》大家 基嗣(慶大教授・泌尿器科学)

小さい中に叡智が結集されたレジデントマニュアルの星

 本書の監修者である郡健二郎教授(名市大大学院腎・泌尿器科学分野)とは毎月『臨床泌尿器科』の編集会議でご一緒させていただいている。論文の審査において先生は一貫して明解な論理と広い視野で論文の意義を判断し,どうしたら内容がよりよく読者に伝わるかを常に考えておられる。日常臨床での先生の緻密さと教室員に対する高い精神性を伴った教育を私は先生のお言葉から常日頃感じ取っている。

 レジデントマニュアルは,ともすれば各種ガイドラインから拝借した標準的治療の羅列となる可能性がある。それでも,読者は気軽に参照して納得し,当初の目的は達成されるからそれで十分ではあるが,できれば理解した知識が血となり肉となってほしい。本書では要点がきちんと整理され,実践的であると同時に,執筆者の経験を根拠にした考え方やこだわりが垣間見え,レジデントマニュアルとしての範疇を超えたものになっている。あたかも郡教授を指揮者とする一つの交響楽が奏でられているかのようである。

 「序」で「医療をするにあたって大切なことは独自の考えをしっかり持つことだと思う」といみじくも述べられているように,私たちは観察力,思考力,洞察力に磨きをかけて医師として成長していかねばならない。言葉を変えると,本書の帯に書かれているように,泌尿器科の星をめざすということである。輝くからこそ「星」であり,職業を通して社会に貢献し,キラリと光る臨床の能力は周囲から見るとまさに輝く星であろう。

 診療で困ったときに助けてくれるのがマニュアルである。泌尿器科医としての第一歩を踏み出したレジデント諸君にとって,わからないことは山ほどあるだろう。しかし,外来と病棟管理では活躍を大いに期待されている。外来での診察ではまず診断をつけなければならない。症候から系統的に手順を示してくれる本書の構成はありがたい。一方,病棟での周術期管理はレジデントの仕事である。代表的な手術における管理の要点が示されているので活用していただきたい。

 さらに,レジデントの病棟管理での腕の見せ所は,合併症を持つ患者に問題なく手術を受けさせて順調な経過で退院させることと,予期せぬ合併症が生じたときの迅速かつ適切な対応であろう。前者での例として,ステロイド使用患者,抗凝固薬使用患者,糖尿病患者の管理が示されている。後者の例としては呼吸器合併症,消化器合併症としてまとめて記載されている。さらに,本書の特徴として付録が充実していることが挙げられる。国際前立腺症状スコアから始まり,死亡診断書の書き方と関連法規に至るまで,26項目に及ぶ。私は本書を手元に置くことに決めた。

 こうして本書を紐解いていくと,あらためて泌尿器科の広さと深さを認識した。ポケットサイズで常に携帯が可能で使いやすい。小さくても内容が豊富で叡智が結集されている本書は,まさにレジデントマニュアルの「星」であろう。

B6変・頁408 定価4,830円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01226-3


プロメテウス解剖学アトラス コンパクト版

坂井 建雄 監訳
市村 浩一郎,澤井 直 訳

《評 者》大塚 愛二(岡山大教授・人体構成学)

プロメテウスは,三度おいしいか

 この『プロメテウス解剖学アトラス コンパクト版』を手にしたとき,「ここまでするの?」という印象を持った。

 数年前,『プロメテウス解剖学アトラス』3分冊版の翻訳を手がけた。図のすっきりした見やすいアトラスであるという印象を受けた。また,さまざまな情報を図表にまとめようという著者の熱意が伝わる書物であるとも感じた。昨年(2010年),3分冊をまとめて1冊にした『コア アトラス』が出た。こちらは価格も1万円以内で,学生にとっては手ごろな解剖アトラスとなった。

 今度はコンパクト版である。これは,もともとフラッシュカードで裏表の印刷であったものを,左右見開きに印刷している。オリジナルの美しい解剖図版はそのままだ。カードは,学習の整理(というか,暗記)をするための教材である。日本ではあまりなじみがなく,またカードだとバラバラになってしまい,行方不明のカードも出やすい。試験が終わると,あまり使い道もないので,書棚の片隅に追いやられるだけの運命かもしれない。この日本語コンパクト版は,見開き印刷でとじられているのでバラバラになることはない。また,すべての事項が索引で網羅されている。この2点がカードと違い,使い方に幅を与えている。何らかの仕事や学習のときに,ちょっと手ごろな解剖のアトラスがあるといいなと思うことはよくあると思う。そういう時に机上で場所をとらない本書はもってこいだろう。

 ただし,引き出し線を引いて示している項目は限定されている。これは,元がフラッシュカードであるためである。図には周辺構造として表現されている場合が多いので,自分で書き込むとよい。そのための余白は多い。また,本書だけで解剖学実習に耐えられるかというと,答えはノーであろう。実習に必要な事項はもっと多く,これだけでは不足している。実習にはできれば3分冊版,少なくとも『コア アトラス』程度が必要である。本書は,実習後の知識の整理に使うべきであろう。

 別の使い方として,病棟のスタッフ・ステーションや外来診療室で,医師だけでなく,看護師などのスタッフが利用するのもいいと思う。また,患者さんや家族に病状を説明するときにも使えるかもしれない。

 昔,「1粒で2度おいしい」というCMで売ったお菓子があった。プロメテウスは三度おいしいアトラスになるだろうか。

B6・頁816 定価4,725円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01126-6

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