医学界新聞

2011.08.08

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方
IDATEN感染症セミナー

IDATENセミナーテキスト編集委員会 編

《評 者》香坂 俊(慶大病院・循環器内科)

ポイントを押さえた解説で,臨床感染症を身近にとらえる

 ああ,またですか。抗菌薬の選択が議論にもならずスルーされていくのをみて,僕はため息をつきます。しかも,よりによってカテーテルをそのまま残しておいていただいているなんて,培養はどうなっているのでしょうか? もう提出済みですか? しかも,そのサンプルは2セットともカテーテルから取ったから問題ない? いやあ,感激です。これで緑膿菌が出たらコンタミでも何でも治療を開始できますね。え,もうメロペネムが使われている? それはもう神の一手ですね。文字通り言うことは何もありません。

 臨床感染症というのはもっといろんな科の先生が知っていてもいいのではないかと思います。その上で身近な疑問に答えていただけるエキスパートがいてくれるとありがたいのですが,そんなぜいたくは望んではいけませんよね。かといって成書を読んでもきめ細かいところがわかりません。分量も多いし,別にわかっていることを全部書いてくれなくてもいいのですよ。培養の取り方とカテ抜去のタイミング,そこが知りたいのです。

 そんなとき,IDATEN講師陣がセミナーを開いてくださいました。いいですね。症例から始まって,ポイントを時系列に沿って順番に丁寧に押さえてくれました。あと,ガイドラインに根差した方針を示しながら,「ここから先は,エビデンスはないけれども僕らはこうしています」と,しっかり線を引いてくれることがとてもありがたかったです。講義を本にまとめるに当たってはかなり苦労があったと思うのですが,ポイントごとにブロックを作ってくださっていますね。これはCHART式と言うのですか? 僕のようなせっかちな循環器内科医にこのようなフォーマットは大変ありがたいです。

 基本的にこの本は臨床感染症を身近にとらえるというコンセプトを,ふんだんにスペースを使って伝えてくれるぜいたくなテキストなのだと勝手に思っています。いいじゃないですか,別に循環器内科医や外科医が感染症に興味を持っても。心臓や傷口がよくなっても患者さんがよくなってくれなくては困りますからね。

B5・頁328 定価5,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01244-7


感染症のコントラバーシー
臨床上のリアルな問題の多くは即答できない

Fong, I. W. 著
岩田 健太郎 監訳

《評 者》名郷 直樹(武蔵国分寺公園クリニック院長)

即答はできないけれど,本当はそれなりに答えられる問題

 岩田健太郎氏が監訳を担当された『Emerging Issues and Controversies in Infectious Disease』の翻訳である。それだけ紹介しておけば,もうこれは読むしかないという人も多いだろう。そこで私が追加できることはなにか,と自問しながら,この本について書く。

 中耳炎や副鼻腔炎,呼吸器関連感染症,敗血症,偽膜性腸炎など,ありふれた疾患に対する問題が,わかりやすくというか,わかりにくくというか,まとめられている。忙しい外来中や病棟でこの本を参照したりすると,ポイントだけを明確に書いてほしいと,文句を言いたくなるような本である。しかし,本書は臨床現場でどうすればいいのか参照するために書かれた本ではない。時間があるときにじっくり読む本である。

 本書の特徴は以下のような記述にあると思う。重症敗血症に対するステロイドの効果について述べた部分である。

 「死亡の相対危険度をベースラインの35%から15-20%低くするにはサンプル数が小さすぎ,それには少なくとも2,600人の試験を必要とする。そのような圧倒的な数の試験が必要か否かは議論の余地がありそうである」

 通常の記述では「明確なエビデンスはない」と書かれる部分である。エビデンスがないからといって何もしないというわけにはいかないだろう,というような意見は,単にエビデンスがあるとかないとかいう大ざっぱな記述に対する正当な反応である。上記の記述は,「明確なエビデンスはない」という明確であるが決して正確でない表現に対し,臨床医のためのエビデンスの見方の一つを明示している。しかし,多くの臨床医はこの記述についていけないかもしれない。ついていけないとしたら,まず本書を通読することをお勧めする。今まで自分自身がエビデンスと呼んでいたものが,まったく違った様相で見えてくるに違いない。

 本書をすべての臨床医に勧めたい。臨床医が判断の材料にしている研究結果というものが一体どんなものなのか,単に明確とかあいまいというだけでなく,もう一度じっくり考えるために。

A5・頁504 定価5,775円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01182-2


標準整形外科学 第11版

内田 淳正 監修
中村 利孝,松野 丈夫,井樋 栄二,馬場 久敏 編

《評 者》和田 卓郎(札幌医大道民医療推進学講座特任教授・整形外科学)

時代要請に応える整形外科教科書

 厚生労働省の2007年国民生活基礎調査によると,人口1000人当たりの有訴者率は327.6とされる。有訴率の上位3症状は男性では腰痛,肩こり,痰や咳が出る,女性では肩こり,腰痛,手足の関節が痛む,であり,いずれも痛みを伴う運動器に関連した愁訴が多い。一方,高齢化社会の進行に伴い,介護を必要とする人の数も急増している。2007年における要介護・要支援者数は450万人を超える。介護が必要になった原因の20%以上は骨折・転倒と関節疾患など運動器の外傷や障害が占める。運動器疾患の社会的重要性を示す数字である。それに呼応して,医師国家試験における整形外科関連の出題が増加している。

 このような時代要請の中,『標準整形外科学 第11版』が出版された。本書を手にしてまず驚くのは,表紙が大きくリニューアルされた点である。白地に赤のリボンとシンプルで清潔感のあるデザインで,執筆者の医療への情熱が感じられる。特記すべきは,新たな章として「運動器の痛み」を設けた点,新しい疾患概念である「運動器不安定症」と「ロコモティブシンドローム」の記載が増え,わかりやすく解説している点である。

本書の初版以来貫かれている編集方針「考える整形外科」は健在である。知識の羅列ではなく,若い医師がよき臨床医に成長するために不可欠な観察力,思考力,判断力を身につけられるよう工夫されている。悪性骨腫瘍の単純X線像に特徴的な骨膜反応に関する記載では,腫瘍の悪性度の違いによってタイプの違う骨膜反応が現れる機序を,X線像,カラー図を交えながら理論的にわかりやすく解説している。単に画像所見を読むだけではなく,その画像が意味する病態を考える姿勢を求めている。

 各編の冒頭に新たに設けられたカラーの「構成マップ」は,全体像を把握するのに便利である。電子ファイルに慣れた若い読者にとって,より親しみやすいデザインになっている。別冊付録として手帳サイズにまとめられた「[OSCE対応]運動器疾患の診察のポイント」は,臨床実習中の医学生が携帯するのに便利である。

 本書は「偏らず,平易で,しかも最新の情報を取り入れた医学部学生・卒後研修医のための教科書」として1979年に初版され,以後定期的に改訂を重ねている。若い医師のみならず理学療法士,作業療法士の方々にも読んでいただきたい良書である。また,第一線で活躍するベテランの整形外科専門医にとっても,整形外科全般の標準的知識を再確認する意味で,一読の価値のある教科書である。いずれ本書が電子化され,パソコンや電子書籍端末で閲覧できるのが楽しみである。

B5・頁1052 定価9,870円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01070-2


個人授業 心電図・不整脈
ホルター心電図でひもとく循環器診療

永井 良三 監修
杉山 裕章 執筆
今井 靖,前田 恵理子 執筆協力

《評 者》山下 武志(心臓血管研究所長・付属病院長)

ホルター心電図を学ぶ教科書として適した一冊

 数多くいる循環器専門医といえども,その中でホルター心電図が好きな,あるいは得意な医師は少ないはずだ。このように書く自分自身がそうだったのだから,このことには確信が持てる。若いころ,心電図や心内電位はよくても,ホルター心電図だけはどうにも避けたかった。ましてや報告書を書くことは苦痛以外の何物でもなかったことをよく覚えている。その後,良き指導者を得て,数年後には東京大学附属病院中央検査部で院内すべてのホルター心電図の報告書を書いていたのだから自分自身が驚いてしまう。ホルター心電図を読むということ,これには良い指導者に出会ってOJTで学ぶことが一番だ。

 とはいっても,指導者に恵まれないときにどうしよう。誰もが教科書を当たると思う。しかし,ホルター心電図の教科書はとても少ないのだ。Amazonで調べてみると現在購入可能なホルター心電図の教科書はたったの4冊しかない(しかも,そのうち1冊は筆者の師匠が編集されている。世間は狭い!)。心電図に関する教科書が数えきれないぐらいあることとは極めて対照的だ。

 このような中,ホルター心電図に関するわが国5冊目の教科書となるのが本書である。著者は新進気鋭の若手,杉山裕章医師で,『個人授業 心臓ペースメーカー――適応判断から手術・術後の管理まで』に続く入門書第二弾として書かれている。第一弾と同じように,先生と生徒の会話という形に工夫された記述であり,一気に通読できた。

 ホルター心電図を前にして,どのような順序であの大量の心電図を読むのか,その際にはどのような点に注意するのか,そしてどのような落とし穴があるか,おそらく著者自身の頭の中の読解順序で目次が構成されている。最終的には,ホルター心電図のレポート作成を目標としているのでレベルの高い教科書といえる。しかし,そのレベルの高い部分についてはアドバンスとして別項目でまとめられているので,初学者にはこの項目を飛ばすことができるようにも工夫されている。

 このシリーズの特徴は会話方式で心理的抵抗感を下げながら,レベルの高いところに挑戦するということにありそうである。その意味で,循環器内科専門医をめざす医師,そして生理機能検査室で働く技師に最も適している教科書だと思う。良い指導者に出会ってOJTでホルター心電図を学ぶ環境が提供されるだろう。ホルター心電図があまり好きでない(と書いたら怒られそうだが)筆者にとっては,もうちょっと薄い本であってほしかった(笑)。

 ホルター心電図に困ったとき,まずは書店でホルター心電図の教科書を探してみよう。数が少ないので,あなたに合った本はすぐに見つかるはずである。本書は現在そのような本のトップにならんとすることを予想している。

B5・頁344 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01335-2


臨床心臓構造学
不整脈診療に役立つ心臓解剖

井川 修 著

《評 者》熊谷 浩一郎(福岡山王病院ハートリズムセンター長)

初心者のみならず,不整脈専門医にとっても役立つ書

 ついに待望の書がでた! 以前から不整脈専門医はこのような教科書を待ち望んでいた。不整脈診療を行うには,電気生理学的な知識のみならず,心臓の解剖を理解することが必要である。今までも基礎医学者が書いた解剖学の教科書や心内心電図ばかりの臨床電気生理学の教科書はあったが,両者を関連づけた教科書は皆無であった。井川修博士は元来臨床不整脈専門医であるが,独学で解剖学を勉強し,基礎解剖学と臨床不整脈学を結び付けた「臨床心臓構造学」という新たな学問を提唱した。そして長年の研究成果の一部をこの一冊にまとめた。

 カテーテルアブレーションやデバイス治療を行う場合,二次元透視下に心腔内の三次元構造をイメージしながらカテーテルを操作しなければならない。カテーテルアブレーションが登場したころ,われわれの世代はまず剖検心や動物心で房室結節を触ったり,解剖学的に重要な部位にマーカーとして金属を装着して透視で見ながらどう見えるかイメージしたり,実際アブレーションした後,焼灼部位を観察した。しかし,当時きちんと説明した教科書はなく,かなり曖昧な理解であったように思う。本書は解剖組織のカラー写真とカテーテルの透視像,心内電位を対比して説明してくれているので非常に...

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