DPCの最近の動向,今後の発展(林田賢史)
連載
2011.06.27
(前回よりつづく)
皆さんは「DPC」をご存じですか? DPCに興味がある方もない方も,たまたまこの欄に目がとまったあなたも,DPCの基礎知識をぜひ身につけてください。日常実務の場面でも,看護研究を行う場面でも,その知識はきっと役立つはずです。本連載(全3回)ではDPCの"基礎の基礎"について,できるだけ平易な表現でお伝えします。
最終回の今回は,制度面における最近の(特に診療報酬上の)変化について触れながら,「診療・経営・制度の質向上・改善」における今後のDPCの動向や発展について,少し考えてみたいと思います。
現在のDPC制度における診療報酬の計算方法
本連載第1回でご紹介したように,DPCに基づく支払い制度における診療報酬は,包括評価部分(ホスピタルフィー的要素)と出来高評価部分(ドクターフィー的要素)の合算になります。出来高評価部分は,これまでの主流の計算方法でありご存じの方が多いでしょうが,包括評価部分はあまりなじみがないと思います。現在の包括評価部分の計算方法を図にまとめましたのでご覧ください。
図 DPC制度における包括評価部分の計算方法 |
包括評価部分は,「(1)診断群分類ごとの1日当たり点数」「(2)在院日数」「(3)医療機関別係数」の積で計算されます。このうち,(1)は3段階の逓減制で,入院期間IよりIIが,IIよりIIIの期間が,それぞれ低い点数になります。(3)は医療機関の機能等に応じて設定された値であり,機能が高い病院は基本的に高い値になります(中身については後述します)。(1)と(2)は患者の状態に応じた診療内容(医療資源投入量)の違いを反映した部分であり,(3)は医療機関の設備・体制や診療機能等の違いを反映した部分になります。
最近耳にする「調整係数の段階的廃止」「新機能係数」とは
皆さんの中で,ここ数年もしくは最近「調整係数の段階的廃止」あるいは「新機能係数」等の言葉を耳にされた方はいらっしゃいませんか? これは,医療機関別係数の中身(構成要素)についての話題です。そこで,医療機関別係数について,歴史的な経緯も含めて少し説明します。
DPCに基づく支払い制度導入当時,適切な包括評価のために,患者レベルの違いと医療機関レベルの違いを支払い制度に反映させようとしました。しかし評価のための方法論やツールなどに限界があったため,医療機関レベルの違いについては,とりあえず構造的因子(人員配置や体制等)に対する評価である入院基本料等加算部分を評価(係数化)することにしました。これは現在の機能評価係数Iにほぼ該当する部分ですが,もちろんこれだけでは違いを反映するには不十分でした。
そこで,この機能評価係数で評価できなかった部分への対応,また制度変更に伴う医療機関の収入激変への対応(補正)等のため,調整係数というものを設定しました。これは制度導入前後で診療行動を変えない(同じ状態の患者に対して,同じ診療を実施した)と仮定した場合,病院全体に対する診療報酬総額(収入)が変わらないように設定された補正用の係数であり,制度の円滑な導入にも大きく貢献しました。
しかし,調整係数の設定は暫定的な処置であり,医療機関の機能を適切に評価する方法の確立が当初より強く望まれていました。そこで,急性期病院の役割・機能として評価すべき事柄は何なのか,本質的な評価に向けての議論が進められてきました。そして,方法論が充実し,またデータも蓄積・分析される中で,医療機関の構造的因子の評価とともに,「効率・質の向上に対する評価」や「地域医療における貢献・役割等の診療実績に対する評価」等が必要ではないかという基本的考え方が形成されました。
その基本的考え方のもと,2010年度診療報酬改定において,調整係数の一部が置き換わる形で新しい機能評価係数が設定されました。それが機能評価係数IIです(表)。皆さんはこれらの動きの中で「調整係数の段階的廃止」あるいは「新機能係数」等の言葉を耳にする機会があったというわけです。
表 機能評価係数II |
しかし現時点でも,評価すべき点すべてに対して評価項目が設定できたわけではありませんし,また評価項目の係数化(計算方法)についても改良の余地はあります。現在も次期診療報酬改定に向け,さらに議論は進行中です。
DPCを用いた「診療・経営・制度の質向上・改善」のために
DPCに基づく支払い制度においては,上述のような医療機関レベルの違いへの対応のほかに,例えば患者分類の精緻化等患者レベルの違いへの対応も併せて行われています。よりよい制度構築に向けて,さまざまな改革が行われているわけです。筆者はこれらの動きを通じて,皆さんにお伝えしたいことが3点あります。
1点目は「医療制度・政策は根拠に基づいて構築されている」ということです。現在の医療制度・政策はデータに基づき構築される流れであり,特にDPCにおいてはその流れが顕著だと思います。これまではDPCのような標準化された大量のデータを有する分析ツールがあまりなかったため,データに基づいて制度・政策を構築することは難しかったのですが,今は状況が大きく異なっています。つまり,現状を分析し,医療機関・関係者の努力を正当に評価する形で,あるいは別に理想像があるようでしたらそれをめざす形で,制度の質は向上しています。データに基づいて医療制度・政策が構築されるようになってきたことを,ぜひ頭に入れておいてほしいと思います。
2点目は「医療関係者はあるべき姿に向けて正攻法で診療・経営を行っていく必要がある」ということです。これまで診療や経営の意思決定は,制度に合わせる形で行われていた部分もあったかもしれません。しかしDPC制度では,皆さんの日々の診療・経営の姿(データ)に基づいて,制度のほうが変わっています。もちろん,医療関係者の努力すべてが制度上評価されるというわけにはいかない部分もあるでしょう。しかしその根っこ(本質)の部分は必ず政策上評価されるでしょうし,地域の住民等から信頼という形で評価されることになります。また,病院内部の診療や経営の質の向上・改善には少なくともつながっています。ぜひ高い志と自覚を持って,あるべき姿に向かって正攻法で診療・経営を行っていただきたいと思います。
3点目は,「DPCというマネジメントツールを有効に活用してほしい」ということです。前回も例を挙げましたが,DPCデータの有効活用で,診療や経営の質の向上・改善が図られます。またその向上・改善された行動の結果(データ)が,制度の質を向上・改善し,最終的には医療の質を向上させます。つまり,DPCというマネジメントツールの有効活用が,医療の質向上につながっているわけです。DPCという診療・経営・制度の質向上のためのマネジメントツールを,ぜひ有効に使ってほしいと思います。
*
今回の連載では,ナースの皆さんにDPCについてぜひ理解してほしいと思い,できるだけ平易に説明することを意識しましたが,いかがでしたでしょうか? 少しはDPCが身近なものになったでしょうか? もちろん筆者の思いに反して,わかりにくい文章も数多くあったと思います。連載を読んでの疑問点や不明点については,ぜひ筆者までお気軽にお問い合わせください。
それでは,本連載がDPCへの興味のきっかけや理解する上での手助けとなることを期待しながら本連載を終わります。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
(了)
林田賢史
1995年東大医学部保健学科卒。社会保険中央総合病院にて看護師として,IT企業にてITエンジニアとして勤務。広島大大学院医歯薬学総合研究科(公衆衛生学)助手,京大大学院医学研究科 (医療経済学)助教・講師を経て,2010年7月より現職。医療・看護経済学をベースに,政策・マネジメントに関する教育や研究,現場での実践を行っている。博士(社会健康医学)。
この記事の連載
ナースのためのDPCの基礎知識(終了)
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