DPCの利用・活用例(林田賢史)
連載
2011.05.30
(前回よりつづく)
皆さんは「DPC」をご存じですか? DPCに興味がある方もない方も,たまたまこの欄に目がとまったあなたも,DPCの基礎知識をぜひ身につけてください。日常実務の場面でも,看護研究を行う場面でも,その知識はきっと役立つはずです。本連載(全3回)ではDPCの"基礎の基礎"について,できるだけ平易な表現でお伝えします。
DPCデータのデータ項目を理解しよう
今回のテーマである「DPCの利用・活用」においては,DPCデータの理解が必要になってきます。様式1とE・Fファイルの主なデータ項目を表にまとめましたのでご覧ください。
表 DPC関連データ(データ項目に関して一部抜粋) |
様式1は簡易版の退院サマリで,患者の性別や生年月日,入退院年月日,病名・手術情報,各種の(入退院時)スコア等,さまざまな診療録情報があります。患者がどのような状態で入院してきて,主にどのような手術を受け,何日間入院して,どのような状態で退院していったか,概略が把握できます。
E・Fファイルは月に1つ作成されるファイルで,「診療報酬点数がいくらの診療行為をどれだけ実施したか」の情報があります。ただしEとFファイルでは,情報の種類や粒度が少し異なります。共通してあるのは,データ識別番号(患者IDに対応),入退院年月日,データ区分(手術,検査,処方等の診療区分に対応)等です。一方固有なものは,Eファイルは実施年月日や行為回数,病院によっては病棟・医師情報であり,Fファイルは診療明細名称・使用数量・基準単位です。
E・Fファイルは親子の関係になっていて,実施日情報はEファイルに,診療行為の詳細情報はFファイルにしかありません。これは,Eファイルが出来高で請求する場合の一連の診療行為に対して1つレコードがある(そのためEファイルの行為点数合計は出来高請求時の入院全体の診療報酬点数と一致します)のに対して,Fファイルは各オーダの詳細(オーダの中身である行為,薬剤,材料)情報があるためです(図1)。したがって,1日に同じオーダ内容が複数回ある注射等の1日量は,「1回数量(Fファイルの使用量)×回数(Eファイルの行為回数)」になります。
図1 EファイルとFファイルの関係 |
DPCの利用・活用例
◆その1:主に様式1を使った患者状態や主要な診療内容分析
様式1を用いると,入院患者の年齢層,主要な疾患,入院期間,手術の頻度,ADLスコア等が,病院全体としてあるいは診療科別等でわかります。またこれらを組み合わせることで,疾患別平均入院期間等の情報もわかります。さらに,入退院の2時点の情報があるADLスコアやJCSを用いると,入院期間中にそれらが改善したかどうか等診療の質を評価することも可能です。もちろん,診療の質,特にアウトカムの評価に当たっては,患者の重症度等での補正が必要であり工夫は必要ですが,様式1には重症度情報も一部含まれていますので,重症度等のリスク補正済み分析も可能です。
◆その2:主にE・Fファイルを使った診療プロセス分析
E・Fファイルを用いると,「どのような診療行為を」「いつ」「どれだけ」実施したかがわかるため,診療プロセスを時系列で把握できます(ただし,投薬の場合は定期・頓服にかかわらず初日が実施日になる,喀痰や便等の細菌培養の場合はオーダ日が実施日になる等の例外は存在します)。つまり,手術日等を起点としてその前後の診療内容がわかるわけです。そのため,いろいろな活用方法があります。
例えばクリニカルパス/クリティカルパス(CP)の作成・運用・評価・改訂等のマネジメントでの活用です(図2)。ある疾患や手術に関してCPを作成する際には,手術日等を起点とした診療プロセス分析が必要になると思います。その際,E・Fファイルを分析すると,手術日の前後何日目にどのような検査,処方,注射,処置等を,どれだけの量・回数実施しているか,さらにそれが全体でどれくらいの頻度(割合)なのかがわかります。分析と言うと大変な作業のようですが,例えばおのおのの患者のEファイルのデータを実施年月日順に並べて,手術日前後の診療内容を日付ごとに診療区分もしくは診療行為レベルで整理するだけでも,診療プロセスの概略は把握できます。もちろん,CP作成時だけではなく評価時においても,バリアンスが発生している患者把握ができるなど,マネジメントに有用です。また,バリアンスが発生している患者の様式1データも用いることで,バリアンスが発生している患者像の分析も可能です。
図2 診療プロセス分析を用いたCPのマネジメント (実施状況について,回数情報は省き,実施の場合「○」と表示した例) |
◆その3:他のデータとの組み合わせによる診療・経営の質向上・改善
他のデータとの組み合わせという点でも,DPCデータの利用価値は大きいと言えます。例えば,看護必要度データや看護師の配置状況(人数,経験年数,認定・専門看護師の取得状況)との組み合わせです。詳細は割愛しますが,看護師の配置状況とDPCデータで利用可能な診療の質指標を組み合わせることで,診療の質に与える看護師の影響等が把握できます。
Garbage In,Garbage Out(ゴミを入れてもゴミしか出ない)
最後にDPCデータを利用するに当たって注意してほしいことを1つお伝えします。それはDPCデータの質に関することです。DPCデータを使う際,どんなに素晴らしい目的や方法で分析しても,もし分析対象データの質が悪いものであれば意味がありません。収集・蓄積したデータが正しいものでないと,正しい分析結果は導き出されないからです。
データの質を損なうものとしては,例えば誤入力もあれば,データの欠損もあるでしょう。また,そもそもマスターファイルが整備・更新されておらず,せっかくのデータが質の悪いデータとなっていることもあります。より意味のある分析を実施するためにも,データの質の確保(漏れのない正確なデータ入力やマスターファイルの整備・更新等)には,ぜひ力を入れてください。
*
さて,今回はDPCの利用・活用に関して少し具体的に紹介しました。DPCデータを用いた分析は,データ分析に慣れていない方にとっては,心理的なハードルが少なからずあるものかもしれません。しかし,「DPCデータにはこういう項目があってこういう利用・活用方法があるのか」とまずは興味を持っていただければうれしく思います。ぜひ食わず嫌いにならずに,DPCデータを利用・活用してください。
次回の最終回では,DPCの今後の動向等について,ご紹介します。
(つづく)
林田賢史
1995年東大医学部保健学科卒。社会保険中央総合病院にて看護師として,IT企業にてITエンジニアとして勤務。広島大大学院医歯薬学総合研究科(公衆衛生学)助手,京大大学院医学研究科 (医療経済学)助教・講師を経て,2010年7月より現職。医療・看護経済学をベースに,政策・マネジメントに関する教育や研究,現場での実践を行っている。博士(社会健康医学)。
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