治療困難例から考える糖尿病診療(福田正博)
寄稿
2011.06.20
【寄稿】
治療困難例から考える糖尿病診療
こんなとき,糖尿病専門医はどうしてる?
福田正博(ふくだ内科クリニック院長)
本邦における糖尿病患者数は,潜在者を含め現在1000万人を超えています。受療率はそのうちの50%程度にすぎず,多くの方が治療を中断したり,放置したりしていることは大きな問題です。
また,通院中であっても,HbA1c(JDS値)<6.5%のコントロール「良」の達成率は,糖尿病専門医を対象とした調査(糖尿病データマネジメント研究会)でも30%程度であり,糖尿病合併症進展阻止の観点から考えると現状は甚だ不十分です。
読者の皆さんのなかにも,多忙な日常診療のなかで,どのようにすれば良好な血糖コントロールが得られるのかとお困りの先生方も少なくないのではないでしょうか。そこで,本稿では,症例を基に外来での指導,治療を行うためのちょっとした"Tips"を述べたいと思います。
症例 45歳男性,営業職
現病歴 5年前の健診で糖尿病を指摘されるも放置。昨年,再度受診勧奨を受け,近医を受診し経口薬を処方されるも血糖値はあまり改善しない。一方で体重が増加。数か月後に通院を中断。転勤を契機に当院を受診。 検査値 BMI 28.8,腹囲 95 cm,血圧 160/98 mmHg,HbA1c (JDS値) 8.2%,空腹時血糖 172 mg/dL,LDLコレステロール 151 mg/dL,HDLコレステロール 42 mg/dL,TG 285 mg/dL,尿中Alb/Cr 66 mg/dL. 眼底NDR,血中CPR濃度 2.6 ng/mL |
症例のような働き盛りの患者さんの場合,仕事優先の生活を送っているため,治療を行うことが難しい例が見受けられます。では,どのような点に注意するとよいでしょう。
Tips 1:現在の管理状況・病態を患者へ再確認
「現在の血糖コントロールや合併症の状態は,いつも説明しているのだから患者さんは理解しているはず……」と思われる方もいるかもしれません。しかし,治療歴が長くてもそれらを把握されていない患者さんは意外といらっしゃいます。今一度確認してみましょう。本症例でも,直近のHbA1c値を覚えておらず,糖尿病合併症に関する認識も不十分でした。
将来の合併症のリスクなどを説明する必要がありますが,症例のような営業職の方の場合は,具体的な数字を挙げながら説明を行うと効果的です。その際,「UKPDS risk engine(註)」を利用するのもよいでしょう。
患者さんにはHbA1cの意義を再度解説した上で,日本糖尿病協会発行の「糖尿病連携手帳」にその日の検査データを記入し,手渡しました。この手帳を活用してもらうことが糖尿病の自己管理の第一歩になります。
Tips 2:情報収集のポイントはコメディカルスタッフ
何が血糖コントロールの阻害要因になっているのか? まずは,それに関する情報収集が重要です。糖尿病の専門外来であれば,糖尿病療養指導士が患者のライフスタイルや食生活を詳細に聞き取り,問題点を抽出してくれるでしょう。では,糖尿病療養指導士のいない一般外来ではどうするのか? そこでもやはり,重要なのはコメディカルとのちょっとした連携です。
患者さんは,医師と相対する診察室ではなく,その"外"でしばしば本音を漏らすものです。例えば,診察前の採血時の看護師との会話,診察後の受付事務との会話。そういったところでの会話の中から,患者さんの本音や隠れた問題点をピックアップすることができます。
得られた情報はメモ書き程度でよいのでカルテなどに付箋を付け,書き留めておいてもらいます。医師はそれを見ながらその後の診察を進めていけば,患者さんとの会話もスムーズに進めることができます。
Tips 3:療養指導の概念「エンパワーメント」
患者さんと会話をする際は,批判的・否定的な言動や態度は避け,傾聴と共感をキーワードに,医師-患者間の信......
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