あなたの決断を持ち運びます 往診鞄さん(鶴岡優子)
連載
2011.05.09
(前回からつづく)
在宅医療の現場にはいろいろな物語りが交錯している。患者を主人公に,同居家族や親戚,医療・介護スタッフ,近隣住民などが脇役となり,ザイタクは劇場になる。筆者もザイタク劇場の脇役のひとりであるが,往診鞄に特別な関心を持ち全国の医療機関を訪ね歩いている。往診鞄の中を覗き道具を見つめていると,道具(モノ)も何かを語っているようだ。今回の主役は「往診鞄」さん。さあ,何と語っているのだろうか?
私クロの赤ちゃん鞄のころ 鞄の中は使いやすいように細かく分けられています。全国の先輩医師に教えてもらった工夫がいっぱい。初めは2人の医師で私を共有していましたが,喧嘩のタネになるので,その後分裂。今のご主人さまはオンリーワン。私もこの春3歳になりました。 |
少しだけ自分の話をさせてください。私はある診療所で使われている往診鞄で,通称“クロ”です。「MUJI」という有名ブランド出身で,3900円で売られていました。セールスポイントは,頑丈かつオシャレ,豊富な収納ポケット,自己主張し過ぎない色,持つヒトを選ばない形,そんなところでしょうか? 鞄の持ち主である私の主人は,「トート型で出し入れの楽なところが気に入った」と言っていました。
そのヒトが何を大事に思っているか知りたければ,そのヒトの鞄を見てください。中身もですが,実は鞄そのものも,そのヒトの価値観を表しています。仕事用の往診鞄ではどうでしょうか? 在宅医療の現場において,ひとりの人間,ひとりの医師のやれるコト,やれる時間は限られています。その限りある中で何をやるのか。往診鞄には無限の取捨選択が詰まっているのです。注射薬はコレとコレ。点滴のボトル3つは重いな。どれを置いていこうか。打腱器は使わないこともあるけど必要だし。懐中電灯は,取り出しやすいここに入れて,電池も準備しよう。携帯はどこに入れようかな? このポケットだと
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