循環・呼吸(3)(川島篤志)
連載
2011.04.18
小テストで学ぶ "フィジカルアセスメント" for Nurses
【第7回】循環・呼吸(3)
川島篤志(市立福知山市民病院総合内科医長)
(前回よりつづく)
患者さんの身体は,情報の宝庫。"身体を診る能力=フィジカルアセスメント"を身に付けることで,日常の看護はさらに楽しく,充実したものになるはずです。
そこで本連載では,福知山市民病院でナース向けに実施されている"フィジカルアセスメントの小テスト"を紙上再録しました。テストと言っても,決まった答えはありません。一人で,友達と,同僚と,ぜひ繰り返し小テストに挑戦し,自分なりのフィジカルアセスメントのコツ,見つけてみてください。
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■解説
今回から呼吸領域の問題を解説していきます。重要な項目が多いので少し長丁場になりますが,がんばりましょう!
呼吸
(10)器械で測定できるSpO2の数値ももちろん大切ですが,自分で数える呼吸数が重要です。胸郭の運動は通常,外側+やや上向き(バケツの取っ手様運動とも言う)ですが,慢性閉塞性肺疾患などの場合,上下動のみのこともあります。また,肺結核関連手術後の胸郭変形や亀背があれば,換気が十分にできていない可能性があります。最終的に換気が十分かどうか確認するためには血液ガス分析でのCO2濃度測定が必要であり,そう簡単には実施できないため,フィジカルアセスメントから予測を立てておくことが重要と考えます(連載第3回参照)。
また,「一文を区切りなく話せる」か否かが気管支喘息の評価に使われるように,話す・食べるためには,呼吸を止める必要があります。しかし呼吸循環が乱れている人は,そんな余裕はありません。ですからもし,回診時に患者さんが文庫本を足を組んで読んでいたら……大丈夫そうだなと思ってしまいます。化粧や髭剃りなども,全身状態の改善と気分の好転がなければ行えませんよね。
(11)安静時に呼吸困難感があっても,酸素化が悪くなければ心因的なものかもしれません。しかし,そうでなければ間違いなく重症です。
起座呼吸は,臥位では呼吸困難が強いため,枕を重ねたり,ベッドを起こしたり,オーバーテーブルにもたれかかって座っていないと呼吸ができないという状態です。少しベッドを起こして寝ているのが呼吸困難のためか否か,意識して確認してよい事項です。
発作性夜間呼吸困難(PND:Paroxysmal nocturnal dyspnea)というのは,安静にして寝た後,約1-3時間で静脈還流が増えることによって左心不全が起こるもので,準夜帯になってから呼吸困難(起座呼吸)が出てきます。看護師にとっては,夜間帯に起こるのが困りものですね。
労作時呼吸困難(DOE:Dyspnea on effort)については,労作の程度や基礎疾患により,カルテには慢性期での呼吸の評価が記載されているかもしれません。詳しくは成書を参照してほしいのですが,例えば肺疾患ならH-J(Hugh-Jones)分類,循環器疾患ならNYHA(New York Heart Association)分類などです。ベッド上では普通の呼吸をしているけれど,トイレへの移動時などにひどい呼吸困難を起こしているようなら,循環・呼吸の再評価を主治医に促してみてください。
肝硬変や心シャント疾患のある方では,寝ると楽で起きると低酸素血症になり得る扁平呼吸[Platypnea(-orthodeoxia)]という状態があります(この病態生理は面白いですよ)。これは肝肺症候群と呼ばれ,それなりの頻度でみられるものの気付かれない場合が多いとも言われるため,意識して確認してみるのもよいでしょう。
(12)皆さんの施設では,呼吸音の表記は統一されていますか? 以前,肺音(呼吸音)研究会の工藤翔二会長の講演を拝聴した際,カルテに記載された呼吸音の「擬音」表現を集めたスライドを拝見しました。そこにはものすごい数の表現がありました。これは呼吸音表記が統一されていない,つまり臨床現場で「共通言語」になっていない可能性を示唆します。
例えば,次の呼吸音表記から,どんな音が想像できますか? 乾性ラ音,笛声音,Wheezes,Piping,ウィーズ,ヒュー音,喘鳴音……。実はこれらは全て同じ音を意味していると言われて,理解できるでしょうか?
成書的には,健常者では聴かれない音を副雑音といいます(本当は"肺雑"などと言ってはいけません)。さらに副雑音は肺性と,胸膜摩擦音など非肺性に分かれますが,以下では肺性副雑音について述べます。
この呼吸性副雑音は,連続性と非連続性とに分けられます。連続性副雑音(=昔の乾性ラ音)は音の高低により,Wheezes(高)/Rhonchi(低)となります。細かく言うとRhonchus(単数)とRhonchi(複数)の違いもありますが,副雑音は複数形で表す約束にはなっています。そうしたことも含め,ウィーゼズ,ロンカイなどカタカナ表記のほうがよいのではないかと,長坂行雄先生(近畿大堺病院)が提案されており,なるほど! と感じました。ですから,本連載でも英語表記とカタカナ表記の両方を記載します。
非連続性副雑音(=昔の湿性ラ音)にもいろんな表記がありますよね。捻髪音,水泡音,Crackles,ブチブチ音,ラール,クラックル,Rales……。これはCrackles(クラックルズ)に統一すべきとされています。クラックルズがあるときは,吸気の時相(Phase)によって分類したり,より細かな音,より大きな音といった音の質を分析して病態の理解に役立てます。医師の記録でearly/late/pan(時相)とか,fine/coarse(質)という表記を見たことがあるかもしれませんね。
最終的には医学界で統一された呼吸音表記が"浸透"するとよいのですが,歴史的な背景もありなかなか難しいようです。ただ少なくとも施設内では,例えばWheezesのカタカナ表記を「ウィーズ」とするなど,少々間違いがあっても馴染み深く統一した表現を使うほうが,「共通言語」ができるのではないかと思っています。
当院でも一内科医師である筆者から看護部・看護師へカルテ表記の統一を提案しましたが,まだ統一されたわけではありません。しかし,以前から述べているように,看護師の行動を変えることが病院の文化を創ることになるかもしれません。時間がかかったとしても,皆で検討しながらよい文化を創りたいと思っています(連載第4回参照)。
「継時的に評価する」とは,何を意識しているかわかりますか? これは次回,問(16)にて解説予定です。クラックルズについても追記します。
(13)ウィーズのグレードで,I度は強制呼気でのみ聴こえる状態です。II度は呼気でウィーズが聴こえることを意味し,III度は「吸気+呼気」でウィーズが聴取されることを意味します。強制呼気は「大きく吸って……一気に(フゥっと)吐いてください」という誘導の仕方でよいでしょう。強制呼気を行うだけで咳嗽や発作が誘発されることもあるため,無理にさせる必要はありませんが,通常の聴診で聴取されなくても,ウィーズが"ない"とは言い切れないのです。IV度は"Silent chest"と言われ,何も聴こえないことを意味します。これは気管支喘息において,超重症であることを意味します。
これらは定性的に評価できることですから,意識して記録できるようになってほしいです。
(14)ウィーズは気管支喘息,および(左)心不全で聴取されます。
この両者がクリアに区別できるとありがたいのですが,救急などでも常に迷うところです。頸静脈怒張,他の心音(III音/IV音)などで区別する,という方法もありますが,難しいです。最終的には既往の有無や原疾患などに判断を頼ってしまうこともあるでしょう。知らず知らずのうちに塩分負荷が加わっている入院症例であれば,(左)心不全に遭遇する可能性が高いかもしれません。
救急外来や病棟の患者さんに,新たなウィーズが聴こえ始めたら,(薬剤による)アナフィラキシーも重要な鑑別になるので覚えておいてください。これは今後の連載でも触れる予定です。
(つづく)
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