医学界新聞

連載

2011.04.04

論文解釈のピットフォール

第25回
サブグループ解析の結果を適用すべき治療介入とは

植田真一郎(琉球大学大学院教授・臨床薬理学)


前回からつづく

ランダム化臨床試験は,本来内的妥当性の高い結果を提供できるはずですが,実に多くのバイアスや交絡因子が適切に処理されていない,あるいは確信犯的に除 去されないままです。したがって解釈に際しては,“ 騙されないように” 読む必要があります。本連載では,治療介入に関する臨床研究の論文を「読み解き,使う」上での重要なポイントを解説します。


サブグループ解析は本来探索的なもの

 前回述べたように,サブグループ解析の目的は,どのような患者で有効か? という問いに答えるためではなく,むしろ多様性を超えた効果の一貫性を証明することにあります。結果的に,グループ化が検出力の低下を招き,信頼区間が広くなり,ある背景を持つ患者では一見効果がない,という解析結果が導かれてしまうこともありますが,交互作用が証明されない以上,それを効果なし,とは読んではいけません。

 一方で,全体の解析では効果なしとされても,さまざまなサブグループ解析を繰り返せば,偶然あるグループで効果ありという結果が出ることがあります。よく引用されるのは,ISIS研究において星座別の解析を行ったところ,全体では明らかな効果があったが天秤座と双子座の患者はアスピリンの効果がないという結果になったという例です1)。これを信じる医師はいないと思いますが,サブグループ解析での結果はあくまで探索的なものであり,たとえ病態生理学的に理解できる結果でも患者への適用に際しては慎重であるべきで,効果があるとされたサブグループを対象とした新たな研究の結果を待つべきだと思います。

 ISIS研究における星座別のサブグループ解析(文献1より改変)

 例えば,心不全患者を対象としたアムロジピンとプラセボの比較試験であるPRAISE I試験では,サブグループ解析の結果,アムロジピンが非虚血性心不全で予後を改善すると報告されましたが,非虚血性心不全患者のみを対象としたPRAISE II試験では,効果なしと結論付けられています。やはり“fun to look at, but don't believe them”(Professor Peter Sleight)の場合が多いようです(Curr Control Trials Cardiovasc Med. 2000 [PMID: 11714402])。しかし,まったく意義がないわけではありません。

サブグループ解析のもうひとつの存在意義とは

 ゲフィチニブは,進行性非小細胞肺がんを対象としたISEL試験において,プラセボと比較して生存期間を有意に延長させることはできませんでした。しかしに示すように,サブグループ解析ではアジア人,非喫煙者の患者においては生存期間の延長が認められるという結果になりました2)。これだけでは,さまざまなグループで解析すると偶然差が出るグループがある,という解釈もできます。しかし,第2相試験において日本人では白人と比較して良好な結果が得られていたことや,その後のアジア人の非喫煙者で治療歴のない進行非小細胞肺がん患者を対象としたIPASS試験で,ゲフィチニブはカルボプラチンとパクリタキセルの併用化学療法群と比較し,無増悪生存期間を延長することが報告されていることから3),サブグループ解析の結果はそのグループを対象とした新たな試験により,正しいことが裏付けられたのです。

 ISEL研究とその他のアジア人を対象にした研究におけるゲフィチニブを投与された患者の生存期間に関するサブグループ解析(文献2より改変)
非喫煙者やアジア人での良好な奏効率と生存期間の延長が認められる。
(1)Park J, et al. Geftinib('Iressa', ZD1839) mono-therapy as a salvage regimen for previously treated advanced non-small-cell lung cancer. Poster presented at the WCLC, Vancouver, Canada, August 10-14, 2003. Lung Cancer 2003; 41(Suppl 2): S249, abs P-620.(2)J Clin Oncol. 2005 [PMID: 15998907] (3)Zhonghua Jie He He Hu Xi Za Zhi. 2007 [PMID: 17445469] (4)Guan Z, et al. A Chinese, multicenter, phase II trial of geftinib (IRESSA) in patients with non-small-cell lung cancer who had failed previous chemotherapy. Poster 2264 presented at the 11th WCLC, Barcelona, Spain, July 3-6, 2005.

 さらに,がん細胞の上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子が変異を有する場合に腫瘍縮小効果が大きく,予後も改善することが証明されました4)。結局,非喫煙者,アジア人で効果が認められることと,がん細胞のEGFR遺伝子変異による腫瘍縮小効果,予後の差異は関連があることも示唆され,サブグループ解析およびゲノム薬理学研究からエビデンスに基づいた患者選択の道筋をつけることができたわけですね。

 ゲフィチニブの場合は,(1)毒性が強いので,より有効な患者を選択する必要があること,すなわちサブグループ解析の必要性が高いこと,(2)真のアウトカム(生存期間)とサロゲートマーカー(奏効率)において矛盾しない結果が得られていること,(3)複数の試験における一貫した結果が出ていること,(4)分子標的薬であり,ターゲット(EGFR)がはっきりしていることで一種のサブグループ解析であるゲノム薬理学研究を進めやすいこと,(5)遺伝子変異と腫瘍縮小効果の関連についての基礎的な(実験的な)検討を行うことが可能であり,ゲノム薬理学研究の科学的正当性が十分にあったこと,などが理由です。すなわちサブグループ解析のもうひとつの存在意義は,毒性の強い薬剤など患者選択の必要性が非常に高い場合に,その結果に基づいて科学的な正当性を検討する研究と共に,投与すべきと示唆される患者を対象とした試験を推進する根拠となることかもしれません。

 同様に,EGFR拮抗薬であるパニツムマブやセツキシマブは,転移性結腸,直腸がん患者においてがん細胞のKRAS遺伝子に変異がある場合,予後の改善が望めないことが報告されており,そのような患者では使用すべきでないとされています5)。ただし最近の報告では,ある種のKRAS遺伝子変異を持つ転移性結腸,直腸がん患者では効果が期待できる可能性が示唆されており,今後この領域において,サブグループそのものの妥当性に関して多くの遺伝子変異と予後の関連...

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