医学界新聞

2011.03.14

医療関連感染対策の未来を見つめて

第26回日本環境感染学会開催


 第26回日本環境感染学会が2月18-19日に大久保憲会長(東京医療保健大)のもと,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。医療関連感染の制御に携わるすべての医療者が集う本学会。感染症のグローバル化が進展し,多剤耐性菌のアウトブレイクや新型インフルエンザによるパンデミックが医療界,ひいては社会に大きな混乱を招くなか,それを最小限に防ぐ感染対策の役割は重みを増してきている。

 本紙では,耐性菌克服に向けた取り組みと感染症疫学について議論した2つのシンポジウムのもようを報告する。


過去のアウトブレイク経験を未来に生かす

大久保憲会長
 アウトブレイク発生時には,いかに早く原因菌を分離し対策を講じるかが求められるが,原因の特定が遅れ感染が拡大してしまったという報告も多い。シンポジウム「集団発生事例から学ぶ耐性菌の克服」(司会=女子医大・戸塚恭一氏,岡山大病院・渡邉都貴子氏)では,過去に発生した耐性菌アウトブレイクを材料に,各施設がとった実際の対策を4人の演者が発言した。

 最初に登壇した朝野和典氏(阪大)は,2004年と07年に同大病院で発生したMDRP(多剤耐性緑膿菌)アウトブレイクについて報告。本事例では,感染経路としてともに中央洗浄の内視鏡が疑われたことから,08年4月より酵素系洗剤による洗浄を追加するなど内視鏡の洗浄レベルを高度化したという。結果,その後アウトブレイクは1件も発生せず,またMDRPの分離自体も08年以降有意に減少したことから,認知されていない潜在的な感染自体も防げていると氏は説明。さらなる感染対策として,潜在的な院内感染の認知や交差感染の認識が次の目標になると説明した。

 福岡大病院の髙田徹氏は,同院で26人の感染者が確認された,多剤耐性アシネトバクター(MDRA)集団発生を報告。保菌者でも感染徴候に乏しく,乾燥にも強いMDRAには,環境に長期間とどまり二次的感染を起こしやすいという特徴がある。本事例でも,感染徴候の乏しさから認知が遅れ,接触感染により感染が拡大したと説明。アウトブレイクの認知後は,水周りの消毒の徹底や包交車のベッドサイドへの搬入禁止といった,環境清掃の徹底を実施したという。その結果,MDRA以外にMRSA分離も低下したと報告。氏は,MDRA対策として,初期のコホーティングの徹底による封じ込めが最も重要と結論付けた。

 引き続きVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)集団発生について稲垣薫氏(西尾市民病院)が報告した。07年2月から始まった同院でのVREアウトブレイクは,長期持続陽性患者や再陽性化する患者の発生で制御に難渋したが,国立感染研実地疫学専門家養成コース(FETP)の指導を受け適切な対処を行ったところ拡大を阻止することができたという。そして氏は,この経験から学んだこととして拡大スクリーニングによる保菌者の特定や集中管理,清拭・おむつ交換といった看護手順の統一化などを挙げ,現在の対策に生...

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