すべては患者のために(石山貴章)
連載
2011.03.07
その役割や実際の業務を紹介します。
REAL HOSPITALIST
[Vol.3] すべては患者のために
石山貴章
(St. Mary's Health Center, Hospital Medicine Department/ホスピタリスト)
(前回よりつづく)
I think this patient needs to go to a nursing home.
(あの患者,ナーシングホームに行かないといけないと思うんだけど。)
She does not have insurance, right?
(彼女,保険に入ってないんじゃなかった?)
Can you help?
(なんとかなる?)
Alright.
(やってみるわ。)
わがホスピタリストユニットの,愛すべき有能ケースマネジャーである彼女は,こちらがどのような無理難題を頼んでも,常に笑顔を絶やさない。いつも明るく前向きで,普通に接している限りでは,彼女自身子宮体がんで,日々病いと闘っている患者でもあるとは,誰も信じられないだろう。
I am going to the 'Spa' today.
(今日は「スパ」に行く日だから。)
彼女が化学療法を受けに行く日に,常に言う言葉だ。こういう前向きで,かつ有能な人たちとチームを組んで働けるということは,それだけで人生の喜びだと思う。
*
前回に引き続き,今回もホスピタリストの役割にスポットを当ててみたい。今回のテーマは退院,患者ケアのスムースな移行,そして前述の彼女のような,いわゆるコメディカルスタッフとのチーム構築である。
われわれホスピタリストが責任を持って行う業務のひとつが,患者の安全な退院(Safety Discharge),およびスムースな外来管理への移行である。ホスピタリストのもとからプライマリ・ケア医(かかりつけ医)に患者が戻る瞬間であり,シンフォニーに例えれば最終楽章に当たる。それは,患者の自宅での安全性の確認であり,家族への説明であり,そしてまたプライマリ・ケア医への患者管理のアップデートである。
ここでまず重要になるのは,患者のケアがいったん途絶える,という事実である。かつてプライマリ・ケア医がアテンディング医(訪問医)として病院内でケアを行っていた時代,これはさほど問題にならなかった。プライマリ・ケア医は患者のことを十分に把握しており,入院中の管理もすべて自分たちで行っていたためだ。しかし現在,ホスピタリストがその病院内管理を担うようになり,病院管理から外来管理への移行が大きな問題となってきている。実際患者満足度において,患者やその家族からこの点が挙げられることも多々ある。この問題を最小限にとどめるためには,プライマリ・ケア医との密なコミニュケーションが欠かせない。
また,患者自身にもプレーヤーになってもらう必要がある。そのため,退院時の患者教育は特に綿密に行う。具体的には薬の説明,糖尿病や高血圧などの食事指導,そしてフォローアップの説明などだ。私が所属するホスピタリストグループとそのユニットでは,担当ナースと医師とがチームを組み,退院時にベッドサイドで患者教育を行っている。これは,分業体制が異常に発達したここ米国の医療現場では,かなり珍しいものだ。
病院上層部からは常日ごろ,Short Length of Stay(入院日数の短縮)とReduced Re-Admission Rate(再入院率の減少)の両方を求められる。これらは通常,相反するものだ。そして,これら相反するものを両方満足させるためには,密なチーム医療が欠かせない。担当ナース,理学療法士,そしてケースマネジャーやソーシャルワーカーといったチームメンバーと,日々ディスカッションを重ね,目標の退院予定日までに予定の退院場所に患者管理を着地させるよう,一気に押していくのだ。そのためには,患者が入院したときにはもう,着地点のイメージと着地のタイミングを考え始めている必要がある。その一方,チームとしてPatient Satisfaction(患者満足度)を上げるためのサービスを,最大限に考慮し実践することも重要だ。合言葉は「すべては患者のために」である。
これらは,日々病院内にいて病院内患者管理の中心となる,ホスピタリストだからこそ可能なことだ。外来の仕事の合間に病院に来なければならないプライマリ・ケア医には,これらの実践は難しい。実際,だからこそホスピタリストの導入により,入院日数の減少や費用の削減が可能になっているのである(JAMA. 2002 [PMID : 11798371])。
*
I discussed with her family, and they will send her to the nursing home. They will pay out of pocket.
(彼女の家族と話したわ。家族がお金を払って,ナーシングホームに送ることになったの。)
Thank you so much. Good Job!!
(ありがとう。さすが!!)
I will talk to a nursing home physician ASAP.
(すぐにナーシングホーム医に連絡とるから。)
一人暮らしの高齢者が多い米国で,退院後のケア不足の問題などは日常茶飯事である。この患者のように家族が理解を示し,ケースマネジャーとこうして話し合うケースなど,まだマシなほうだ。そしてファイナンスなどのデリケートな問題は,彼女らの助けがなくては,なかなかスムースにいかないのが実情である。
さて,いつものようにポイントをまとめて今回も終わりとしたい。
Real Hospitalist虎の巻
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そして次回はいよいよ,ホスピタリストの役割の真打ち登場,診断パートである。これこそが本命。ホスピタリスト,総合内科医の仕事の中で最も楽しく,ワクワクする部分なのだ。乞うご期待!!
本文登場の愛すべき有能ケースマネジャー,Ruth。人懐っこいそのキャラクターと,絶やすことのないこの笑顔とで,現在ホスピタリストユニットの「おふくろさん」的存在である。医師やナース,患者など,病棟すべての人々に愛されるこの笑顔の陰で,自分の病魔とも日々闘っている。尊敬に値するチームメイトだ。 |
(つづく)
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