医学界新聞

対談・座談会

2011.02.07

座談会

リウマチ・膠原病診療の今

岡田正人氏(聖路加国際病院 アレルギー・膠原病科)=司会
高田和生氏(東京医科歯科大学医歯学融合教育 支援センター特任准教授)
津田篤太郎氏(JR東京総合病院 リウマチ・膠原病科)
長谷川詠子氏(虎の門病院腎センター内科)


 従来"難病"と言われてきたリウマチ・膠原病は,新しい診断法や治療法の開発により,寛解維持が望めるようになりました。また,「全身を診られる」「診断をつけるまでの過程が謎解きのようで面白い」などの理由から,本領域に興味を持つ若手医師も増えています。一方で,多様な病態を持ち,慢性疾患であるリウマチ・膠原病診療においては,診断の際,あるいは患者さんの対応などで苦慮する場面もあるのではないでしょうか。そこで本紙では,若手医師のロールモデルとして本領域で活躍する四氏に,さらなるステップアップを図るためのコツをお話しいただきました。


岡田 本日は,リウマチ・膠原病診療の醍醐味を余すところなくお伝えしたいと思っています。まず,皆さんが感じている本領域の魅力をお教えいただけますか。

高田 リウマチ・膠原病は,同じ疾患でも多様な表現形をとり得るので,医師にとっては診療が常に新鮮に感じられます。また,若い患者さんが多く社会復帰に意欲的な方も多いですから,双方が前向きな姿勢でチームとなって治療に取り組める点が魅力です。そしてどんな難治例・重症例でも内科的な治療が主ですから,最後まで主治医でいられます。

 さらに,がんなどと異なり完全勝利を達成し得なくとも,少量の免疫抑制薬による寛解維持が現実的なゴールとなるので,多くのケースで患者さん,医療者双方が治療の手応えを実感できます。そして,免疫学におけるさまざまな謎が遺伝学や分子細胞生物学の発展により日進月歩で解明されつつあり,それがすぐに診断や治療に反映されることも大きな魅力です。

津田 確かに,数ある慢性疾患のなかで,膠原病のように薬剤でうまくコントロールでき,場合によっては服薬を中止するところまで改善する疾患は少ないです。

長谷川 症状をコントロールして,患者さんがいかに毎日快適に過ごせるかを一緒に考えながら治療していける点は,内科医にとって大きな醍醐味だと私も思います。

岡田 高田先生がおっしゃるように若い患者さんも多いですから,進学,就職,結婚,出産など,患者さんの人生を共に歩んでいけますね。ただ,まだ治療が確立されていない部分もあり,主治医によって治療成績が異なるのも事実です。40年前には悪性腫瘍並みに予後の悪い疾患でしたから,正しい診断に基づく適切な治療を行わなければ重篤な経過をたどることはきちんと認識しておくべきでしょう。

早期診断・早期治療へ

岡田 リウマチ・膠原病領域では,近年新しい治療法が開発されています。特に関節リウマチ(以下,RA)は,1998年に生物学的製剤が開発されるなど,診療内容が大きく変わりました。

津田 さまざまな効果的な治療法が生み出されるなかで,早期診断・早期治療が叫ばれるようになってきたというのがこの10年ほどの状況です。現在は5つの生物学的製剤が承認されており,「使い分けの時代」とまで言われるようになりました。さらにインフリキシマブに関しては,発病早期から積極的に使用して寛解をめざすことにより,寛解導入後は治療を中止できることも明らかになってきていますから,今後は投薬をいかに中止していくかという議論が進むと考えられます。

高田 2010年には23年ぶりの新しい分類基準が,米国リウマチ学会と欧州リウマチ連盟の共同作成により発表されました。従来主に用いられてきた米国リウマチ学会による分類基準(1987年)は,"発症後しばらく経過し確立された病像を呈した典型的なRAを他の関節炎疾患と区別する"ことを目的としたものでした。しかしこの十数年で,RAにおける関節破壊が発症後早期に急速に進行すること,そして早期に効果的な治療を導入することにより長期的な関節予後を改善し得ることがわかりました。そのような流れのなかで,治療しなければ関節破壊が進む恐れのある患者を早く同定する必要性が高まり,新たな分類基準が作成されたのです。

長谷川 新しい分類基準では"RAと類似する他疾患を除外する"ことが出発点になっています。ですから,今後その除外診断の部分を強化していかなければいけないと感じています。

岡田 津田先生は,RAの患者さんをどのように鑑別診断していますか。

津田 例えば,50代男性の単関節炎であればまずは痛風を疑いますが,20-30代の女性で関節が1つ,2つ腫れているような場合には,ヒトパルボウイルスB19や肝炎などウイルス感染を視野に入れます。さらに,高齢者の場合には悪性腫瘍を疑う必要がありますし,皮疹,口内炎,続発性の発熱などがあれば膠原病を視野に入れ,抗核抗体を取るなどして鑑別しています。

 確定診断は,RAが疑わしいと判断した段階でX線検査を行うのが一般的ですが,骨びらんが出ていない初期の段階では,エコーやMRIによる検査の有用性も明らかになってきています。

高田 欧州における早期関節炎のコホート研究のデータなどでは,初期評価にて診断が未確定であった炎症性関節炎患者の経過を追っていくと,最終的にRA以外の診断が下ったものとして,痛風やSLE,乾癬性関節炎,線維筋痛症などがあるようです(註1)。確かにこれらの疾患はある程度経過を追ってみて初めて診断に至る病像を呈する場合があります。ただ,線維筋痛症は関節所見が異なるので,病歴および診察にて関節炎の有無をしっかり判別できなければいけません。関節炎を診たことがあれば判別はできるはずですが,卒前および初期臨床研修中に関節炎を診る機会はなかなかありません。ですから,すべての医師が重要な所見や疾患に触れられる機会を系統的に創出するよう,教育の在り方を検討していく必要があります。

岡田 確かに,私たち内科医は関節の触り方を習う機会がなかなかないですね。診断力を向上させるために私がお勧めしたいのは,"正常を触る"ということです。正常がわからなければ,ちょっとした異常には気付けないですから,ぜひ正常な状態に触れる機会をなるべく多く持っていただきたいです。

「この患者さん,膠原病?」と疑ったら

岡田 リウマチ・膠原病領域は,まだまだ専門医が不足しており,専門診療科を持たない医療機関も少なくありません。疾患ごとの患者数も限られており,診療経験を積むのが難しい領域でもあります。ここからは膠原病全体に目を向け,実際に膠原病が疑われる患者さんに出会ったときに留意すべき点について,ピットフォールも含めて議論したいと思います。まず,病歴聴取ではどのような点に気を付けていますか。

長谷川 膠原病の症状は非常に多様で,患者さん自身はあまり気にしていないけれど診断の鍵となるような症状も多いので,こちらから積極的に問診を取るように心がけています。特に,「指先が変色している」「目が乾きやすい」「皮疹がある」などの症状は,具体的に尋ねていくことが重要だと思います。

津田 私はリウマチ・膠原病科について「熱と痛みの科です」と説明することが多いのですが,診療の際には発熱と痛みの有無を必ず尋ねます。さらに,長谷川先生が挙げた症状に加え,口内炎の有無もポイントだと思います。

岡田 患者さん1人当たりの外来診療の時間は非常に限られていますから,既往歴,旅行歴,現病歴,さらに関節痛,皮疹,熱の有無など,診療に必ず必要な情報については,事前に問診票に記入してもらうのも効率的な方法だと思います(註2)。

 次に,身体所見はいかがですか。

長谷川 身体所見は全身にわたるので,外来ですべてを網羅するのは難しいですが,基本的には,肺音,心音,お腹の所見,関節痛の有無を診ます。さらに時間に余裕があれば,脚やお腹,背中などに皮疹がないかをみています。

津田 患者さんは皮疹を軽く考えていることが多く,「そんなものが診断の手がかりになるとは思わなかった」と言われることが多いです。特に背中にできた皮疹は患者さんが気付きにくいので,聴診する際に確認するとよいのではないでしょうか。

 また,不明熱で来院した患者さんの場合は,若い女性であれば高安動脈炎,中高年であれば結節性多発動脈炎,60歳以上であれば側頭動脈炎を必ず疑うようにしています。

岡田 高安動脈炎,結節性多発動脈炎,側頭動脈炎は中・大動脈に障害が起きるため,小血管炎のように虚血や出血等の症状も出ず,炎症所見はあっても特異的な身体所見や検査がないので,見逃しがちかもしれません。「何も所見がない膠原病が3つある」と覚えておくといいですね。

高田 卒前教育では症候学を学ぶ機会が限られているので,研修医はまず不明熱や関節痛などの鑑別診断の経験を積んで,コツをつかむ必要がありますね。ある程度慣れてくると,長谷川先生,津田先生が挙げたような些細な所見を意識できるようになると思います。ただ,やはりそのような所見に目を向けるようになるには,症状を来し得る疾患,鑑別すべき疾患を,ある程度網羅的に把握しておく必要があります。

岡田 その通りです。私自身が身体所見で重視しているのは,膠原病を抗核抗体関連疾患,血清反応陰性脊椎炎,血管炎,古典的な膠原病の4つに分類し,考えていくことです。

 例えば,抗核抗体関連疾患のSLE,全身性硬化症,皮膚筋炎では,爪上皮の出血など毛細血管異常が見られることが多いので,注意して観察する必要があります。その他の膠原病にも言えることですが,身体所見で爪を見ることは重要な鍵となりますね。脊椎関節炎に属する疾患として反応性関節炎,乾癬性関節炎,炎症性腸疾患関連などが含まれますが,通常の身体所見に加え付着部炎がないか確認するとよいと思います。

偽陰性,偽陽性――検査の限界

岡田 では,検査の際にはどのような点に留意していますか。

津田 膠原病の専門診療科では,「抗核抗体が陽性」「CRPが高い」など,検査異常があった場合に紹介される場合が多いので,私たちもその異常を切り口に絞っていくことが多いです。しかし,抗核抗体などの自己抗体が陰性で,炎症反応もあまり高値にならない膠原病も少なくなく,診断にたどり着くのが遅れてしまうこともあるようです。

岡田 通常の検査から疑うことも重要ですね。例えば,血球数が低い場合には膠原病が疑われますし,APTTが延びている場合やESRは高いけれどCRPはさほど高くない場合はSLEを疑う。さらに尿検査では,少しでも怪しければタンパク/クレアチニン比を測定します。

高田 必要な検査を知っておくと同時に,検査の限界をある程度...

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