医学界新聞

2010.12.06

社会と医師を信頼が結ぶ

医学教育シンポジウムが開催


 日本医学教育学会倫理・プロフェッショナリズム委員会が主催するシンポジウム「医のプロフェッショナリズムの新たな展開――互恵的利他主義に基づく社会契約とは」(座長=横市大・後藤英司氏,立教大・大生定義氏)が,11月3日,東京都内にて開かれた。互恵的利他主義とは"情けは人のためならず"に表されるように,他者を助けることがのちのち自分の利益にもつながるという考え方。社会と医のプロフェッション(専門職集団)が互恵的利他主義に基づいた関係を築くために今何をすべきか,熱心な討論が展開された。


 はじめに同委員会委員の野村英樹氏(金沢大)がシンポジウムの趣旨を述べた。氏は,医のプロフェッションと社会との間には相互の信頼に基づく無書面契約が交わされており,信頼を担保する,医師の基本的臨床能力の一つに利他主義があると説明。進化倫理学の側面から,利他的行動は,親が子を守るなどの血縁選択から,えさをめぐる協力関係など個体間・集団間の直接的互恵,さらに弱者救済など直接の見返りを求めない間接的互恵に発展していくと論じた。氏は,他者一般への信頼と社会全体への確信があってこそ,社会全体での間接的互恵行動を行えると主張。信頼とは何か,間接的互恵に基づいた社会を維持発展させるため必要な倫理則とは何か,明らかにしたいと語った。

「信頼」を基盤に開かれた社会を作る

 次に社会心理学者の山岸俊男氏(北大大学院)が,「信頼と安心」をテーマに講演。氏はまず,日本人の他者一般への信頼度が世界各国との比較で極めて低いことを明示。日本社会は,相手の人間性や相手との関係性に期待して「信頼」するのではなく,"集団からの排除"を罰則とし,裏切ると損をすると思わせることで「安心」を生み出してきた集団主義社会だとし,それが他者への信頼が育たない理由だと指摘した。こうした社会に閉じこもるほど,外に出るリスクは増し,社会と経済活動の硬直化につながる。この悪循環を断ち切るために,ネガティブな評価で他者を排除するのではなく,ポジティブな評判に目を向けてポテンシャルを持つ他者を呼び込み,開かれた社会を形成していくべきだと,氏は結論付けた。

 経済学者の松尾匡氏(立命館大)は,「武士道」と「商人道」から社会のあり方を論じた。氏はまず,これまでの日本社会は身内への忠実を誓う倫理である「武士道」が中心だったと分析。"仲間内の評判"を何よりも重視する「武士道」の倫理が,顧客軽視の食品偽装など,近年の企業不祥事の背景にあると主張した。一方,他人への誠実を重視する倫理である「商人道」では...

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