中間解析と早期終了の問題点 その4(植田真一郎)
連載
2010.11.08
論文解釈のピットフォール
【第20回】
中間解析と早期終了の問題点 その4
植田真一郎(琉球大学大学院教授・臨床薬理学)
(前回からつづく)
前回,早期終了となったJUPITER試験の結果は,Random highによる過大評価の可能性が高いという話をしました。特に最近は,複合エンドポイントを用いた試験が多いので,個々のエンドポイント,特に重要で重篤度が高いものがどの程度発生しているかを見ることが大切です。今回は,早期終了した他の試験の結果を見てみましょう。
ASCOT-LLA試験とCARDS試験の早期終了
まず,他のスタチン系薬剤に関する臨床試験での早期終了について考察します。ASCOT-LLA試験は,「総コレステロールが正常値であり,その他の危険因子を3つ以上有する,しかし冠動脈疾患を有していない」高血圧患者を対象とした,アトルバスタチン10 mg/日とプラセボを比較した試験です1)。一次エンドポイントは,冠動脈疾患死亡と非致死性心筋梗塞です。2×2デザインで,ASCOT-BPLA試験2)としてβ遮断薬アテノロールベースの降圧治療とCa拮抗薬アムロジピンベースの降圧治療の比較試験が同時に実施されています(図)。エンドポイントはもちろん同じです。この研究も早期終了となりました。
図 ASCOT試験のプロトコル概要(文献1,2より再構成) ASCOT試験は2×2デザインで,ASCOT-LLA試験(二重盲検)とASCOT-BPLA試験(非盲検)から成る。どちらの試験も早期終了となったが,その理由は異なっている。 |
早期終了の基準としては,本連載第18回(本紙2894号)でお話ししたCHARM試験でも用いられた,Peto検定の方法を採用しています。つまり中間解析の回数によらず,p<0.001なら早期終了を検討する,というものです。結果としては,一次エンドポイントは3.3年後に36%減少し(p=0.0005),早期終了となりました。
一次エンドポイントとしての心筋梗塞発症数を見ると,プラセボ群では154例,アトルバスタチン群では100例であり,相対リスク低下もこれまでの研究との一貫性が認められ,Random highの可能性は少ないと考えられます。この試験の独立データモニタリング委員を務めたStuart Pocock氏は,「結果が明快で,他の集団での結果との一貫性があり,脳卒中においてもリスクを減少させていることが明らかになったため,中止を勧告した」と述べています3)。
一方,CARDS試験は「冠動脈疾患および脳卒中の既往のない,LDLコレステロール160 mg/dL以下」の2型糖尿病患者を対象にプラセボとアトルバスタチン10 mg/日を比較したものです4)。この試験はASCOT-LLA試験とは異なり,複合エンドポイントを用いています。中間解析における早期終了の基準は,ASCOT-LLA試験同様Peto検定の基準を採用しています。結果として,2回目の中間解析で一次複合エンドポイント(心筋梗塞,冠動脈疾患死のほか,不安定狭心症や心停止も含む急性冠イベント,脳卒中,冠動脈血行再建)に基準を満たす有意差が生じ,独立データモニタリング委員会の勧告を受けて,予定された期間よりも2年早く中央値3.9年で試験は終了しました。
一次エンドポイントは210例(プラセボ群127例,アトルバスタチン群83例)発生していますが,個々のエンドポイントを見ると,表1に示すように心筋梗塞および冠動脈疾患死(スタチン系臨床試験で最もよく使用されるエンドポイント)がプラセボ群65例,アトルバスタチン群43例(34%リスク減少)となっています。これは,JUPITER試験と同程度ですね。34%という数字は,他のスタチン系臨床試験との一貫性はありますが,脳卒中[全体で60例(プラセボ群39例,アトルバスタチン群21例),48%リスク減少。表には最初のイベントとしてカウントされた数を記載しているため,全体で56例(プラセボ群35例,アトルバスタチン群21例)]は発症数が少なく,過大評価の可能性が高いのではないかと考えられます。
表1 CARDS試験における一次複合エンドポイントを構成する個々のエンドポイント発生 これまでのスタチン系臨床試験で用いられていたのは,ほぼ「致死性心筋梗塞」「その他の冠動脈疾患による死亡」「非致死性心筋梗塞」である。これらは全体で100例程度発生している。 |
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二次エンドポイントで早期終了したASCOT-BPLA試験
ASCOT-BPLA試験は,先述したようにアテノロールベースの降圧治療とアムロジピンベースの降圧治療の比較試験です(図)。英国には,NICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)recommendationという一種のガイドラインがあります5)。これはエビデンスに基づき,かつ費用対効果に優れた標準的治療法についてのガイドラインです。
英国の医療はNHS(National Health Service)から提供されますが,出来高ではなく各地域に予算配分される形になっているため,コストも重要な問題です。2004年のNICEガイドラインでは,降圧薬としてまず利尿薬が推奨されており,糖尿病リスクが高くなければ併用薬としてβ遮断薬が推奨されています6)。ですから,2004年までは「利尿薬+β遮断薬」が標準的な降圧薬治療として推奨されていました。
このような背景から,ASCOT-BPLA試験においてもβ遮断薬アテノロールベースの治療は「これまでの標準降圧治療」という位置付けで,併用薬として利尿薬を用いています。本試験の目的は,「従来の標準治療は心筋梗塞のリスク減少には十分でなく,新しい降圧薬の組み合わせ(アムロジピンとACE阻害薬ペリンドプリル)であれば,脳卒中リスク減少は同等としても,より心筋梗塞リスクを減少させるだろう」という仮説の検証にあります。したがって,一次エンドポイントは冠動脈疾患死と非致死性心筋梗塞なのですが,この試験は一次エンドポイントではなく,二次エンドポイントの結果で早期終了になったのです。
早期終了となった理由は,脳卒中や心血管死亡,総死亡で明らかな差が生じているためです。というのは,これらは心筋梗塞で差が生じていなくても降圧薬治療を考える上で重要な問題です。そのため,このままNICE recommendationでの推奨を継続すると公衆衛生上問題であることなどが示唆されたのです。
実際,現在のNICE recommendationには本試験の結果が反映され,β遮断薬は推奨されていません7)。この早期終了は,観察期間も5.5年と降圧薬臨床試験としては標準的な期間の後であり,表2に示すように十分な数のエンドポイントが発生しているので,死亡や脳卒中リスク減少効果を過大評価している可能性は低いと思います。もちろん早期終了は原則として単独の一次エンドポイントでの差を根拠に行われるべきですが,このような終了の在り方も,その研究の社会における位置付けや倫理という観点からは,有り得るのかもしれません。
表2 ASCOT-BPLA試験における個々のエンドポイント発生とリスク減少 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||
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(つづく)
参考文献
1)Sever PS, et al; ASCOT investigators. Prevention of coronary and stroke events with atorvastatin in hypertensive patients who have average or lower-than-average cholesterol concentrations, in the Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial――Lipid Lowering Arm (ASCOT-LLA): a multicentre randomised controlled trial. Lancet. 2003; 361 (9364): 1149-58.
2)Dahlöf B, et al; ASCOT Investigators. Prevention of cardiovascular events with an antihypertensive regimen of amlodipine adding perindopril as required versus atenolol adding bendroflumethiazide as required, in the Anglo-Scandinavian Cardiac Outcomes Trial-Blood Pressure Lowering Arm (ASCOT-BPLA): a multicentre randomised controlled trial. Lancet. 2005; 366 (9489): 895-906.
3)Colhoun HM, et al; CARDS investigators. Primary prevention of cardiovascular disease with atorvastatin in type 2 diabetes in the Collaborative Atorvastatin Diabetes Study (CARDS): multicentre randomised placebo-controlled trial. Lancet. 2004; 364 (9435): 685-96.
4)Pocock SJ. When (not) to stop a clinical trial for benefit. JAMA. 2005; 294 (17): 2228-30.
5)http://www.nice.org.uk
6)http://guidance.nice.org.uk/CG18
7)http://guidance.nice.org.uk/CG34
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