関節炎へのアプローチ(谷口俊文)
連載
2010.10.04
レジデントのための 【22回】 関節炎へのアプローチ 谷口俊文 |
(前回よりつづく)
関節炎というとリウマチ疾患を思い浮かべますが,鑑別診断は多岐に渡るため,システマティックなアプローチが必要です。今回はそのほか,一般医が知っておかなければならないリウマチ疾患の治療に関するエビデンスを探ります。
■Case
48歳の男性。農作業をしており,既往歴などは特になく健康であった。1週間前より右手関節の痛みと発熱を主訴に来院。本人は10日ほど前に農作業の器具でその周辺を切ってしまったという。38℃の発熱あり。診察上,切り傷などはなかった。手関節の軽度腫脹を認め,伸展にて痛みを訴える。そのほかの診察所見は正常。白血球数は7100/mm3,Hb値は13.3 g/dL,赤沈は29 mm/時,CRP 38 mg/dLである。
Clinical Discussion
関節痛の患者を診るとき,コモンな疾患と治療が遅れてはまずい疾患をまず思い浮かべる。大きな枠組みとして感染症は外してはならない。痛風などのコモンな疾患も含めて,関節穿刺を行う意義は大きい。病歴と身体所見は関節痛では特に重要。関節リウマチ(RA)を疑わせるような病歴はどのような問診をすべきか,診断基準に沿って考える。また手指の関節所見からどのような疾患を思い浮かべるか。
マネジメントの基本
◆関節痛へのアプローチ
関節痛を診たときには,単関節痛もしくは多関節痛であるかを判断するのが最初のステップである。
単関節痛は(1)外傷,局部的骨痛の有無(→あればX線写真にて確認),(2)関節腔内貯留液や炎症の徴候の有無(→あれば関節穿刺を行う),というアプローチが基本となる。関節穿刺は内科医として習得すべき手技である。結晶が出ていれば痛風や偽痛風,培養で陽性ならば感染性関節炎,無菌性炎症性関節液ならば自己免疫性疾患,ウイルス性感染,サルコイドーシスなどが鑑別診断に挙がる(表1)。
表1 関節穿刺の解釈 |
多関節痛は滑膜炎(synovitis)の有無,そして発症後6週以内か以上かという点がワークアップの分かれ目である(表2)。関節腔内貯留液があるようならば,やはり穿刺にて確認したい。
表2 多関節痛へのアプローチ |
◆手指の関節所見
ここでは,身体診察で重要な手指関節について触れる(図)。教科書的にはRAはDIPに病変を認めない。DIPの病変の多くは変形性関節症である。しかしながら,RAの病状進行に伴いDIPにも病変を認めることがあるので注意すること。そのほか,ウイルス性の関節症状はPIP,MCPなどに,リウマチ性多発筋痛症はPIPに腫脹を来すなど,さまざまな疾患が手指関節に病変をつくる。他の身体所見と合わせて診断の補助になればよい。
図 手指関節にみられる病変 |
*教科書的典型例であり,例外も多数ある。 |
◆RAの診断
欧米でのリウマチ診断基準の新分類(表3)を参照。従来の診断基準は早期の関節リウマチをとらえることができなかったため批判されてきた。近年では,DMARDを早めに開始することが病状や予後の改善に有効であるエビデンスが出現してきており,今後はこの分類に準ずると思われる(文献(1))。
表3 2010年ACR/EULAR関節リウマチ分類基準 |
◆RAの治療
治療はリウマチ専門医に任せることが望ましいが,ジェネラリストとして概要を知っておく必要がある。メトトレキサート(MTX)が治療の核となる。米国リウマチ学会では病状経過が6か月以内,6か月以上24か月未満,24か月以上と3つのグループに分けて考えることを提唱している。その中で,疾患活動性(Disease Activity)と予後不良因子の有無によって治療を決定する(詳細は文献(2)参照)。疾患活動性が軽ければ早めにMTX単剤を開始,罹患期間が長ければ,また疾患活動性が強く予後因子があれば併用療法からの開始を推奨している点が特徴だ。以前のNSIADsからステップアップしていく治療戦略は,DMARDの早期導入に比較して有意に劣る(Ann Intern Med. 1996[PMID : 8633829])ため推奨されない。
エタネルセプト,インフリキシマブなど生物学的製剤の著明な効果はRAの治療に大きな影響をもたらしたが,生物学的製剤を第一選択薬で使用するか否かを決定づけるスタディは今のところはない。MTX単剤と,MTXと生物学的製剤の併用をファーストラインで使用することを比較したスタディ(ASPIRE[PMID : 15529377],PREMIER[PMID : 16385520],COMET[PMID : 18635256]など)はポジティブな結果が多かったが,MTX単剤で十分に反応した患者もおり,どの患者がMTXに反応するかを調べるための研究がなされている。30-50%程度の患者はDMARDに反応しない。3-6か月でファーストラインによる治療に反応しない場合,生物学的製剤の開始を考慮する。
RAの患者は初期には1か月に1回,少なくとも3か月に1回は評価したいところである。新診断基準は早期RAの診断に有用であるが,偽陽性の増加を心配する声も上がる。鑑別診断を十分に立て,治療を開始したならば定期的なフォローアップで再評価することが重要である。その際に使用する客観的スコアリングシステムDAS28(Arthritis Rheum. 1995[PMID : 7818570])は,広く使用されているため知っておく必要はあるだろう。
診療のポイント
・症状のある関節数,部位を確認する。
・関節穿刺の手技は重要。
・関節リウマチは早期治療が鍵。新診断基準を確認する。
この症例に対するアプローチ
この患者は右手関節の単関節炎で罹患期間は1週間と短い。X線写真では大きな異常は認めなかった。関節穿刺を行ったところ,培養から淋菌が検出された。淋菌の陽性は2-3割にしかみられず,検出されたことは幸運であり治療につながった。
関節炎を診たときに性に関する問診は思いのほか重要である。症状のある関節数,罹患期間,X線所見を確認し,必要に応じて関節穿刺,血液検査を組み立てるという流れをつかむ。
Further Reading
(1)Aletaha D, et al. 2010 rheumatoid arthritis classification criteria : an American College of Rheumatology/European League Against Rheumatism collaborative initiative. Ann Rheum Dis. 2010 ; 69(9) : 1580-88.[PMID : 20699241]
↑RAの欧米における診断基準で,その経緯も詳細に記した必読論文。
(2)Saag KG, et al. American College of Rheumatology 2008 recommendations for the use of nonbiologic and biologic disease-modifying antirheumatic drugs in rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum. 2008 : 59(6) : 762-84.[PMID : 18512708]
↑RAの治療薬に関して詳細に記載。
(3)Guidelines for the initial evaluation of the adult patient with acute musculoskeletal symptoms. American College of Rheumatology Ad Hoc Committee on Clinical Guidelines. Arthritis Rheum. 1996 ; 39(1) : 1-8.[PMID : 8546717]
↑関節痛に対するアプローチに関して実用的。
(つづく)
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