プラセボ比較試験と上乗せ試験の落とし穴 その2(植田真一郎)
連載
2010.07.05
論文解釈のピットフォール
【第16回】
プラセボ比較試験と上乗せ試験の落とし穴 その2
植田真一郎(琉球大学大学院教授・臨床薬理学)
(前回からつづく)
ランダム化臨床試験は,本来内的妥当性の高い結果を提供できるはずですが,実に多くのバイアスや交絡因子が適切に処理されていない,あるいは確信犯的に除 去されないままです。したがって解釈に際しては,“ 騙されないように” 読む必要があります。本連載では,治療介入に関する臨床研究の論文を「読み解き,使う」上での重要なポイントを解説します。
前回は,基本的に二重盲検法の採用は望ましいけれど,実際には困難な場合も多いことをお話ししました。今回は前回の続きで,多くの臨床医が知りたい「ある薬剤を使用する治療が使用しない治療よりも予後を改善できるかどうか」という疑問に対して,オープン試験を実施することの問題点を論じてみたいと思います。
このオープン試験の一つに,その時点での標準治療に介入群ではある薬剤を加え,対照群はそのままにして観察をするという方法をとり,上乗せ試験などと呼ばれる試験があります。前回も述べたように,その薬剤を使用している,していないことを知っているが故に,それぞれの群で試験薬に関連した医療行為が発生しますが,これらの医療行為はその薬剤を使った治療法に含めると考えます。
私自身の研究で恐縮ですが,利尿薬を使用する降圧と使用しない降圧を糖尿病リスクに関して比較するDIME研究(日本高血圧学会共催研究,図1)はオープン試験であるため,使用群には利尿薬を使用していることを前提とした医療行為,すなわち代謝に関する副作用を予防しようとする種々の介入が発生する可能性があります。しかし,それは「利尿薬を使用した治療」に含まれると解釈できるということです。ただし,血糖に関する検査の回数はあらかじめ決めておかなければ,利尿薬群で糖尿病のリスクを予想してより多くの検査を実施し,その結果糖尿病を多く見つけるということが起こり得ます。
図1 DIME研究のプロトコル サイアザイド系利尿薬の糖尿病発症リスクに関する研究であるが,プラセボと利尿薬の比較ではなく,利尿薬使用の降圧療法と非使用の降圧療法の比較となっている。利尿薬使用群で頻回に検査を実施すればバイアスとなるので,両群とも定期的な血糖検査を実施する。 |
上乗せ試験での落とし穴
一方,このような試験の対象となる薬剤をプラセボと比較するのではなく,薬剤を上乗せするかしないかで比較する場合のデメリットは,各群間で治療のintensityが異なってしまう可能性があることです。アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)を上乗せしたJIKEI HEART STUDY1)のような研究は,非常に現実的でかつ簡便なプロトコルですが,ARB群が積極的介入群,対照群が積極的な介入を行わない群,とされてしまう可能性があり,それが結果に反映されている可能性があります。
降圧薬の試験では,降圧目標を定めて両群の治療のintensityを同等に保つ必要があると思いますが,現実にはなかなか難しいようです。実際JIKEI HEART STUDYでは,血圧130/80 mmHg未満を目標に設定して図2のような薬剤の調節プロトコルを作成していますが,対照群では具体的な指定がないために,対照群で血圧降下が遅れ,経過中の血圧に差が生じています。薬剤が1つ少ないわけですから,これを回避しようとすれば,やはり試験開始直後から達成血圧によって行うべき降圧(増量など)のプロトコルを設定したほうがよいかもしれません。
図2 JIKEI HEART STUDYのプロトコル(文献1より)バルサルタン群では,具体的な増量に関する方法が記載されているが,対照群ではあいまいである。試験開始後半年の時点では,血圧差が生じている。 |
例えば,24週までに目標血圧を達成することを指示し,4-8週ごとに目標血圧に達していない場合の追加すべき降圧薬とその用量を指示するというプロトコルもあると思います。ほとんどの心血管アウトカムは血圧と関連するので,もし非介入群(薬剤を上乗せしない群)の目標血圧達成が遅れれば結果の解釈が困難になることを考えると,詳細なプロトコルを決めていたほうがいいのかもしれません。しかし一方で,それでは試験の良い部分(現実的なところ)を損ない...
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