医学界新聞

連載

2010.06.28

医長のためのビジネス塾

〔第16回(最終回)〕会計(4) キャッシュフロー計算書

井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)


前回からつづく

 これまでに紹介した2種類の決算書をひと言で表せば,損益計算書(PL)は「売上と利益」,貸借対照表(BS)は「借金と財産」を示すものでした。今回紹介するキャッシュフロー計算書(cash flow statement : CS)は何かといえば,その名のとおり「現金の出入り」ということになります。

 PLにもBSにも金額が記載されているのに,「現金の出入りを伴わないとはどういうことなのか?」と思われるのではないでしょうか。しかし,奇妙なことに,決算書に計上されている項目が,その決算期日にすべて現金の出入りを伴っているわけではないのです。

 PLやBSの項目である売上や利益,負債や資産は,現金に変換できる価値を有していますが,企業の財布に対して現実に出入りしている現金かというと,必ずしもそうではありません。「減価償却費」「棚卸資産(在庫)」「売上債権(売掛金)」「仕入債務(買掛金)」などは,その代表です。

 ご自分の家計において,現実に出入りしている現金の流れが不明瞭だとしたら,どう感じるでしょうか。不安になりませんか。最悪の場合には,「大事なときに現金が足りずに破産」ということになりかねません。現金の動きを把握することはとても重要です。それが,キャッシュフロー計算書の存在意義です。

3つの区分

 キャッシュフロー計算書は,1年間の現金の状態を表したものです。損益計算書の約束事と同様です。過去1年間の現金の動きだけを提示しているので,それ以前のものは全く触れていません。持ち越した借金などは,含んでいません。

 キャッシュフロー計算書は,3つに分かれています。「営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)」,「投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)」,「財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)」です。それぞれ,営業活動(本業における稼ぎ),投資活動(設備投資,企業合併・買収など),財務活動(資金調達や借金返済)における現金の出入り,を示したものです。

 「営業CF」には販売収入や経費支出などに関する現金の増減が,「投資CF」には固定資産(土地や設備など)の購入や売却に関する現金の増減が,「財務CF」には資金の借入や増資などに関する現金の増減が,記載されています。企業の活動サイクルが,「資金を集めて」「投資をして」「利益を生み出す」ことだとすれば,それぞれにおける1年間の現金の動きを示したものが,「財務CF」「投資CF」「営業CF」なのです(表1)。

表1 各CF主要項目の抜粋

 プラス表示ならば会社に入る現金があったことを示しており,マイナス表示は会社から出ていく現金があったことを示します。例えば,営業CFでは,黒字で税引前当期純利益が1億円ならば,プラス1億円と表示されます。投資CFでは,固定資産を取得するために2億円を支払えば,マイナス2億円です。財務CFでは,5億円の借入金を得た場合には,プラス5億円です。借金をしてプラスをつけることに違和感を感じるかもしれませんが,現金の動きとして会社の財布には5億円入ることになるので,キャッシュフロー計算書にはプラスと表記します。

 表1の各CF内の各項目は,損益計算書や貸借対照表で表示している詳細な項目を転用・再構成したものです。営業CF,投...

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