医学界新聞

連載

2010.05.17

医長のためのビジネス塾

〔第15回〕会計(3) 貸借対照表

井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)


前回からつづく

 経営を財政面から大きくとらえると,「資金を集めて,投資をし,利益をあげる」ことの継続です。企業を維持・向上していくためには必須のことです。このサイクルがうまく回らなくなれば,衰退への危機に近づく危険性が高くなります。

 損益計算書は,このサイクルのうち利益に関する部分を示したものです。復習になりますが,「利益=売上高-費用」でした。

 損益計算書以外の決算書には,今回紹介する貸借対照表(balance sheet:B/ S)があります。貸借対照表と損益計算書の双方を眺めることで,企業の財務状況が俯瞰できるようになっています。

貸借対照表の意味

 貸借対照表で示すものは,借金と資金と財産です。もう少し丁寧にいうと,「資金の調達」と「資金の運用」になります。つまり,「資金をどこからどの程度調達しているか」と「資金をどのように運用しているか」を示しているものです。前述した「資金を集めて,投資する」という企業活動の結果でもあります。

 貸借対照表では,過去から現在までにおいて積み重ねてきた借金や財産のなかで,現在も経済価値のあるものすべてを蓄積して記載します。一定の期間における結果を示した損益計算書とは明らかに異なる点です。

 損益計算書では,昨年のものは昨年で終わりです。翌年には何も繰り越しません。対して,貸借対照表では,経済価値が残っているものは,前年までのものに次年度の分を追加して記載します。身体に例えれば,体重50kgの人が1年間で2kg増加し,翌年1kg減少し,その翌年3kg増加したとしましょう。一定期間の増減は,+2kg,-1kg,+3kgですが,蓄積したものは,52kg,51kg,54kgとなります。

 このように,過去から現在までに増減した蓄積結果を表したものが貸借対照表なのです。

負債,資本(純資産),資産

 貸借対照表も,上場企業のホームページには必ず提示されているので,誰でもみることができます。公立病院の貸借対照表も提示されている場合があるので,興味があれば覗いてみてください。例によって,見慣れない用語が多数ならんでおりクラクラしてきますが,個々をつぶさに確認していく必要はありません。経営のプロでない医長クラスの私たちは,大きくつかむことができるだけで十分なのです。

 その大きな単位が,資金の調達サイドの「負債」「資本(純資産)」と,資金の運用サイドである「資産」です(表1)。表の右側のほうから資金が入り,それを左側で利用しているというイメージです。よって,右側の合計と,左側の合計は常に一致しています。

表1 貸借対照表の概要

 調達サイドの「負債」と「資本(純資産)」の内訳をみていきましょう(表2)。「負債」の意味するものは,「返済しなければいけない資金」,つまり借金のことです。「負債」には,「流動負債」と「固定負債」の2種類があります。返済期限によって,「流動」と「固定」に分けています。決算後1年以内に返す必要のある借金を「流動負債」といい,返済期...

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