会計(2) 損益計算書(井村 洋)
連載
2010.04.12
医長のためのビジネス塾
〔第14回〕会計(2) 損益計算書
井村 洋(飯塚病院総合診療科部長)
(前回からつづく)
一般のビジネス書では,損益計算書よりも貸借対照表(バランスシート)の解説が先行しています。反して,本稿では損益計算書の説明から始めます。理由は,病院経営会議などで提示される決算書は損益計算書の類であり,医師にとっては損益計算書のほうが見慣れているからです。院内では医業損益と呼ばれているかもしれませんが,内容は全く同じものです。
損益計算書の意味
損益計算書で示されるものは何かというと,「一定期間における収益と費用の内訳と金額」および「収益から費用を引いた利益」ということになります。これが損益計算書の全貌です。
「一定期間」とは,一般に1年がひとつの区切りになっています。その1年間における収益と費用と利益を示したものが,損益計算書です。あくまでも,その一定期間内の金額を示したもので,前年度からの繰り越しなどは,含まれません。前年度の利益がどれだけ残っていても,今年度の収益がなければ収益はゼロと記載されます。さらに費用が発生する場合には,当然ですが利益はマイナスとなります。一方,前年度が赤字であっても今年度にそのマイナス分は繰り越されません。これが貸借対照表と異なる点であり,損益計算書における「一定期間」の意味するものです。
「収益」と「費用」にグループ化すると
実際の損益計算書をみると,収益と費用の内訳がいろいろと列記されています。それぞれに聞き慣れない用語が使用されており,文字を追うだけでも目が疲れます。医療職にとっては,それらをすべて知っている必要はありません。主要な項目だけ理解しておけば十分です。
とは言え,その項目を列記するだけでも,「売上高」「売上原価」「売上総利益」「販売費および一般管理費」「営業利益」「営業外収益」「営業外費用」「経常利益」「特別利益」「特別損失」「税引前当期純利益」「法人税等」「当期純利益」と,たくさんあります。以前の私ならば,この時点で読み進めることを放棄していました。同様に感じる読者の方々もいると思いますので,わかりやすくするためにこれらの項目を思い切って「収益」と「費用」の2つのグループに分割してみます(図1)。
図1 損益計算書の「収益」と「費用」のグループ |
「収益」のグループには,「売上高」「営業外収益」「特別利益」が入ります。「費用」のグループには,「売上原価」「販売費および一般管理費」「営業外費用」「特別損失」「法人税等」が入ります。これで,各グループ内はずいぶんすっきりしてきました。
「売上高」は,本業による収益です。本業とは,製造業なら製品の販売に伴う収益であり,サービス業ならばサービスに対する対価としての収益です。「営業外収益」は,預金の利息などの,定期的に入ってくる本業以外の収益です。「特別利益」はその名の通り,臨時的に発生する収入です。資産売買によって得られた収入がそれに相当します。
「売上原価」は,売れた製品についての原価です。これには,在庫に残っている製品の原価は含まれません。サービス業や医療における直接部門の給与費も,この「売上原価」に含まれます。「販売費および一般管理費」は,宣伝費や管理部門に要する費用です。病院では人事や経理などの管理部門における給与や費用が,これに相当します。「営業外費用」は,定期的に出ていく本業以外の費用で,支払い利息などがこれに相当します。「特別損失」は,臨時に要する費用です。災害による損傷の補修費などがこれに相当します。
これで,損益計算書で計算される主要な「収益」と「費用」が,網羅できました。
5種類の「利益」
図2 5種類の「利益」 |
まず,「売上高-売上原価=売上総利益」です。病院では医業収入から医療職の給与費と医療材料費などを差し引いた結果が,これに相当します。次は,「売上総利益-販売費および一般管理費=営業利益」です。これが,企業にとって本業による成果を最も表す利益です。さらには「営業利益+営業外利益-営業外費用=経常利益」があります。これは,本業以外の収入も含めた企業の財務状態を代表しています。そのほか,「経常利益+特別利益-特別損失=税引前当期純利益」と,「税引前当期純利益-法人税等=当期純利益」があります。この当期純利益がプラスならば黒字で,マイナスならば赤字を意味します。
余談になりますが,一般の企業などの普通法人にかかる法人税率は,30%です。一方,国や地方公共団体で運営される公共法人は非課税です。公共法人は普通法人と比べて,税引前純利益の30%相当の「税金という“費用”」が免除されていることになります。納税者は,赤字の公共法人に対して,「もっとしっかり経営してください」と,お願いするべきなのではないでしょうか。
損益計算書をどのように解釈するか
このような項目で構成される損益計算書を読むことで,何を読み取ることができるのでしょうか。少なくとも,2つのことがわかります。
ひとつは,企業の経営規模です。売上高が1兆円の企業と100億円の企業では,明らかに規模が異なります。病院や診療所においても,医業収益が高いところでは,多くの患者に対して医療を提供していることが推測できます。また,患者数が同じならば,高額の医療を提供する機会の多い医療施設のほうが,高い医業収益を生み出します。
もうひとつは,年次による経緯をみることで,企業の経営状態の推移がわかります。経済産業省ホームページで確認してみると,2008年度の1企業あたりの「売上高営業利益率(営業利益/売上高)」は,平均1.6%でした。前年度の3.7%に比して半分以下です。リーマンショックに端を発した経済危機の影響が大きく表れています。
この「売上高営業利益率」は,業種ごとに大きく異なっています。例えば,情報通信業の6.0%に対して,卸売業は0.7%です。企業の成績を比較するときには,同業種の間で比較をしなければ意味がありません。
それにしても,損益計算書の見方を知り気付いたことは,多くの企業の利益率が予想外に低かったことです。最低でも10%ぐらいはあるものだと思い込んでいましたので,多くの企業が10%未満の利益率だということに驚いてしまいました。これは病院においても同様です。赤字を抱える病院が多いことはよく知られるところですが,たとえ黒字の病院であっても当期純利益率は数%程度なのです。保険点数1-2%の上下が,病院経営にとって死活問題だということが,実感できるようになりました。
(つづく)
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