薬物アレルギー(森本佳和)
連載
2010.04.05
知って上達! アレルギー
【第13回】薬物アレルギー
森本佳和(医療法人和光会アレルギー診療部)
(前回からつづく)
「皮内試験や抗原特異的IgE検査で薬物アレルギーの診断はできませんか?」アレルギー専門医としてよく尋ねられる質問です。しかし,これら検査が役立つことは例外的なのが現実です。アレルギーの理解に役立ちますので,いくつかの薬物を取り上げながら,その理由を説いていきましょう。
ペニシリン
ペニシリンはアレルギーの原因薬剤として有名(?)ですが,その頻度自体は実は高くありません。「お腹がもたれた」といった非特異的な症状までアレルギーと考えられたり,ウイルス感染症で生じた症状,例えば皮疹が,その際に投与されたペニシリンによって引き起こされたと判断される場合もあります。急性疾患時に投与された複数の薬剤の中で本当にペニシリンが原因薬剤だったかどうかも問題となります。これらさまざまな理由のため,「ペニシリンアレルギーがある」という患者の9割には,問題となるI型(即時型またはIgE依存型)アレルギーは存在しないという研究結果も出ています1)。つまり,実際のアレルギー頻度の10倍くらいでとらえられているのですね。
疑わしい場合,ペニシリンの代謝産物抗原(major determinant, minor determinant)を用いた皮内試験が陰性であれば,事実上そのほぼ全例(97-99%)にペニシリンを安全に投与できます1)。意外なことかもしれませんが,皮内試験で信頼性が確認されている抗菌薬はペニシリンだけです。ペニシリン以外のほとんどの薬物では原因抗原がはっきりしていないため,皮内試験に信頼性はありません。「薬物自体をなぜ皮内試験に使えないのだろうか」という疑問を持った方もいるかもしれませんが,薬物の多くは代謝されて無数の物質に変化しますし,体内のタンパク質と結合したときのみ抗原として働く場合もあり,局所反応だけでみる皮内試験では限界があるのです。
せっかく使えそうなペニシリンの皮内検査ですが,それに用いる抗原の入手は世界的に難しいのが現状です(日本ではペニシリンを使用することは多くないようであまり問題にされませんが)。たとえ検査の信頼性が高いペニシリンでも,投与するすべての患者に皮内試験でスクリーニングを行うのは有用ではありません。皮内試験は「感度が高く,特異度が低い」という特性を持つからです。陰性結果でペニシリンアレルギーを除外するのには大変優れているのですが,陽性結果の信頼性が低すぎるのです。ペニシリンによるアナフィラキシー反応の有病率は0.002%という報告があります2)。ここまで有病率が低い場合,偽陽性の頻度が高いことは全例スクリーニングに致命的です。
セフェム系薬剤では,もともと皮内試験自体に信頼性がないため,なおさら,そのスクリーニングには意味が見いだせません。これが,日本での注射用・座薬用抗菌薬の皮内試験が廃止された大きな理由です。
サルファ剤
サルファ剤は,旧来ペニシリンに次いでアレルギー反応を起こしやすいとされる抗菌薬です。I型アレルギー反応はまれで,ほとんどは斑状丘疹状皮疹です。サルファ剤は,重症の薬疹であるスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome;SJS),中毒性表皮壊死症侯群(toxic epidermal necrolysis;TEN)の原因として最も多い薬剤とされます。また,HIV感染者では,サルファ剤による皮疹の発生は一般人の3-5%に対して,40-80%と高頻度です3)。HIV感染においては,ニューモシスティス肺炎の予防を含め,サルファ剤は大変重要な薬剤ゆえに問題なのですが,やはりその反応予測に信頼できる検査法はありません。
NSAIDs
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