蕁麻疹(森本佳和)
連載
2010.03.08
知って上達! アレルギー
【第12回】蕁麻疹
森本佳和(医療法人和光会アレルギー診療部)
(前回からつづく)
今回は,よく出合う疾患の1つ,蕁麻疹です。まず,蕁麻疹の膨疹を理解しましょう。蚊に刺されたあとのプックリというとイメージしやすいです。特徴は,薄紅色でわずかにふくらみがあり,押すと色が退色し,かゆみを伴います。また,1つの膨疹に注目すると,24時間以内(ほとんどは数時間以内)で消えることもポイントです。
対して,押しても色が抜けない,一度出た皮疹1つをみると何日にもわたってそこに存在する,といった場合は,他の疾患,例えば単純性痒疹といったものから,血管炎,皮膚リンパ腫なども含めた鑑別が必要になります。
急性はアレルギー反応,慢性は原因不明が多い
さて,この蕁麻疹ですが,発症してから1か月以内のものを急性蕁麻疹,1か月以上のものを慢性蕁麻疹と分けます1)。「そうすると,1か月に3日足りないのと,1か月と3日たった蕁麻疹では何か違うんですか?」……そんなことはありません。この分け方は,欧米では6週間を目安としているくらいですから,1か月で厳密に分ける意味は実用上ありません。ただ,このあたりで分けてみると,特徴に違いがみられます。
まず,急性蕁麻疹の多くは一過性ですが,(慢性蕁麻疹と比べて)激しい症状が多い傾向があります。原因として,食物,薬剤,虫刺されなどによるアレルギー反応が多く挙げられます。食べ物では,成人の場合はピーナッツ,魚,甲殻類など,小児の場合は卵,牛乳などが多いとされます。薬剤では,よく使用されるNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)や抗菌薬に多い傾向があります。また,感冒や胃腸炎などのウイルス感染が蕁麻疹の原因となることもあります(この場合,ウイルス感染によるものか,服用した薬剤によるものかの判断は難しくなります)。
慢性蕁麻疹の場合,その多くは原因不明(特発性)です2)。中には,IgE または高親和性IgE受容体に対する自己抗体がみられる場合もありますが,通常の検査ではわかりませんし,特別な治療もありません。原因不明で,長期にわたって毎日のように繰り返し症状がみられるため,医者泣かせな疾患です。
むやみな検査は避けるが,原因検索の姿勢も時には有用
プロスペクティブに追跡した研究では,慢性特発性蕁麻疹は1年後で約70%,5年後でも14%が持続しています3)。このようなゆっくりした減り方ですから,数年間続くことも少なくありません。毎日悩まされるかゆみと皮疹,繰り返す蕁麻疹はもう治らないのではないかという不安も大きく,患者の不満がどうしても大きくなります。この過程で,「原因は内臓が悪いからではないですか?」といった質問がよく出てきます。慢性蕁麻疹の原因検索のためにむやみに検査を行うことには意味がなく,一般的に勧められていないのですが,検査が適切と考えられる場合もあります。
例えば,慢性蕁麻疹の場合,甲状腺機能異常との関連性がしばしば指摘されています。甲状腺自己抗体があると,蕁麻疹が遷延しやすいことも報告されています。もともと甲状腺機能異常は内科医にも見落とされやすい疾患です。TSH(甲状腺刺激ホルモン),FT3(遊離トリヨードサイロニン)を含めた血液検査は容易なので,臨床的に疑われる所見があれば甲状腺機能異常のスクリーニングを考えるきっかけとしてもよいでしょう。特に女性の慢性蕁麻疹では,甲状腺機能異常がしばしばみられます。また,蕁麻疹と悪性疾患の関連性は高くないため,画像検査や内視鏡検査などをルーチンに行う必要はありませんが,場合によっては単純X線撮影,便潜血検査や尿検査などの検査を考えてもよいでしょう。
さらに,ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌で慢性蕁麻疹が軽快したという報告も見られます。特にわが国においては,その有病率と胃がん予防の観点から,ヘリコバクター・ピロリスクリーニングが勧められつつあり,感染のチェックを考えることも悪くはないでしょう。むやみな検査は慎むべきですが,原因検索の姿勢はストレスの大きい慢性蕁麻疹を持つ患者と良好な関係を保つ助けとなりますし,何か異常が見つかって,それが治療されたとしたら望ましいことです。
非アレルギー機序による蕁麻疹には,物理性蕁麻疹(機械的蕁麻疹,寒冷蕁麻疹,日光蕁麻疹,温熱蕁麻疹など)が含まれます。これらは擦過・寒冷・日光・温熱といった物理的刺激によって誘発される蕁麻疹です。また,コリン性蕁麻疹は運動や入浴などの発汗刺激で誘発され,かゆみとチリチリした刺激感を伴う多数の点状の皮疹が生じます。これらの蕁麻疹の誘発因子については,きちんと尋ねれば患者が教えてくれます。誘発因子に曝露されてから蕁麻疹が出るまでが短時間のため,患者が原因を認識しやすいのです。
治療は抗ヒスタミン薬を中心に試行錯誤も必要
蕁麻疹の治療ですが,原因や誘発因子がわかった場合はその除去や曝露予防を行うことが基本です。原因不明の慢性特発性蕁麻疹のような場合,自然消退を待つまでの間,症状をできるだけ抑えることが治療の目標となります。
薬剤治療は,H1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)の内服が中心です。症状軽快まで,1-2か月間は継続してH1受容体拮抗薬を投与します。いったん軽快・治癒したように見えても繰り返し再発するため,予防的に薬剤投与を継続するほうがいいとも言われます。症状がなくなれば,1-2週間ごとに毎日→隔日→3日,と投与間隔を延長しながら漸減していくとよいでしょう。
H1 受容体拮抗薬の効果が不十分な場合は,他剤への変更(例えばアレグラ®をジルテック®に:またはその逆に)や増量を考慮します。また,同じ1日量でも,1日2回投与を1日1回投与にする,または逆に1日1回投与を1日2回投与にする,といった変更が有効な場合があります。このあたりの試行錯誤が必要ですが,経過は長期にわたるため,適した投薬方法を探っていくのに十分な時間はあります。
また,皮膚のヒスタミン受容体の15%はH2受容体といわれ4),H2受容体拮抗薬(ガスター®・ザンタック®など)の併用も,ある程度の効果が期待されます。また,ロイコトリエン阻害薬の併用も効果があるといわれ,これらを保険適用に注意しながら考慮してもよいでしょう。これらの薬剤でも効果が不十分な場合には,全身ステロイド薬(多くはプレドニゾロンとして10mg/日まで)が用いられる場合もありますが,できるだけ短期間・最小限の使用を心がけましょう。
(つづく)
註1)秀道広,古江増隆,池澤善郎,他:蕁麻疹・血管性浮腫の治療ガイドライン.日本皮膚科学会雑誌.2005;115(5):703-15.
註2)田中稔彦,亀好良一,秀道広:広島大学皮膚科外来での蕁麻疹の病型別患者数.アレルギー.2006;55(2):134-9.
註3)Toubi E, Kessel A, Avshovich N, et al: Clinical and laboratory parameters in predicting chronic urticaria duration: a prospective study of 139 patients. Allergy. 2004;59(8): 869-73.
註4)Amar SM, Dreskin SC: Urticaria. Prim Care. 2008;35(1):141-57.
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