医学界新聞

2010.01.18

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


神経診断学を学ぶ人のために

柴﨑 浩 著

《評 者》荒木 淑郎(熊本大名誉教授)

第一級の神経診断学として推薦する

 このたび,日本を代表する臨床神経生理学者で,かつ優れた神経内科医である京都大学名誉教授の柴﨑浩氏により,新しい神経診断学の書物が刊行された。国内はもちろん,国際的にも高名な著者による診断学の手引書であり,この機会を借りて心から喜び,お祝いを伝えたい。

 日本で最初に神経内科の講座が文部省(当時)により承認されたのは九州大学医学部で,1963年のことであった。翌年には,附属病院に独立の神経内科が発足した。黒岩義五郎氏が教授を,私が助教授を務めたとき,柴﨑氏は入局した。

 この出会いを通じて,氏の性格,態度を知ることができた。柴﨑氏は,素直で,真摯な努力家であり,優れた才能を持ちながら謙虚であり,友人を大切にする,素晴らしい人格者であることを知り,将来必ずや嘱望される医師になるであろうと期待していた。果たせるかな,米国ミネソタ大学神経内科レジデントを終え,英国留学で神経生理学を深く学び研究業績を挙げ,今や国際的に活躍する学者へと成長した。同門の一人として喜びに堪えない。

 特に,京都大学退官後,米国NINDBのFogarty Scholarに選ばれ,2年間自由な研究に従事できるという日本人としては初の栄誉を与えられたことは,いかに,柴﨑氏の研究業績が国際的に高く評価されているかを示すものであると言えよう。

 さて,この書物は,著者の単独執筆であり,書物全体に一貫性を持って,診断の基礎的記述,神経解剖図,用語に至るまで並々ならぬ工夫がなされている。柴﨑氏の臨床家として,また教育者としての親切な指導が感じられ,まさに,第一級の神経診断書と言っても過言ではない。

 まだ,画像診断学が今日のように進歩していない時代に臨床神経学を学んだ私たちの時代は,患者から詳しい病歴をとり,頭部から下肢に及ぶ神経診断手技から,神経学的異常所見をとらえ,それを総合して臨床診断を考えていた。それは,神経学的ポジティブ所見とネガティブ所見があることを知った上での診断であった。診断に至る過程こそ臨床神経学の魅力であった。この診断法は時代が変わっても不変である。

 一般に多くの人から,神経学は“診断は謎を解くようで面白いが,診断ができても治療法がない”と批判されたことは事実である。しかし,批判されても人間の脳の機能はいまだ十分解明されておらず,神秘性を保っており,挑戦に値する研究分野であることは万人が認めている。さらに神経病の治療は最近,治療薬の開発が進み,リハビリテーションの導入によって進歩していることは事実である。

 ところで近年,画像診断やその他の診断技術が進み,神経症状や徴候をおろそかにする傾向が出てきた。また,診察に当たり,呼吸器ならば肺,消化器ならば胃腸といった局所だけを診るようになり,全身を診ようとしない医師が増えてきたことは憂うべきことである。この点,神経診断学はベッドサイドで患者の全身を診ながら,神経系統を診ることを基礎としている唯一の診断学であることを強調したい。

 本書は,31章からなり,解剖から生理機構を介して理解しやすいように配慮されている。また最近話題となっている病気,徴候,分類などがColumnとして簡潔明瞭に説明されている。このColumnを読んで学ぶことが多い。本書は臨床神経学に興味を持つ医師,看護師,理学療法士,言語聴覚士,臨床検査技師を対象としてわかりやすく説明された最良の診断学として推薦したい。値段も手ごろである。

B5・頁352 定価8,925円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00799-3


血液病レジデントマニュアル

神田 善伸 著

《評 者》浦部 晶夫(NTT東日本関東病院予防医学センター長)

血液疾患の治療をわかりやすく説明

 新進気鋭の血液学者神田善伸教授によって書き下ろされた『血液病レジデントマニュアル』は,血液疾患全般にわたる臨床上の問題,対策,治療指針などについて,簡潔ではあるが行き届いた記述がなされた極めて便利な本である。白衣のポケットにも入るくらいの小さな本なのであるが,血液疾患のそれぞれについて,疫学,原因などにも触れた後に,診断のポイント,診断基準,病型分類などを示してから,具体的な治療方法がわかりやすく述べられている。

 「レジデントマニュアル」

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