米国肝移植ルールの公正さをめぐって(6)ジョブズが使った裏技(李 啓充)
連載
2010.01.18
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第166回
米国肝移植ルールの公正さをめぐって(6)
ジョブズが使った裏技
李 啓充 医師/作家(在ボストン)(2860号よりつづく)
前回までのあらすじ:マントルの肝移植後,米国では肝移植ルールの見直しが行われた。
マントルの肝移植がきっかけとなってレシピエントの優先順位を決めるための新システムMELD(Model for End-Stage Liver Disease)が施行されるようになったことは,前回も述べたとおりである。
しかし,MELDが導入された2002年以降,米国において肝移植をめぐるトラブルが皆無になったかというとそんなことはなく,その後も,肝移植の公正さが疑われる事件が相次いだ。
新ルール導入後も続く「特別扱い」疑惑
例えば,2003年9月,ロサンゼルスのセント・ビンセント・メディカル・センターで,本来移植が行われるべき患者にではなく,待機順位52位と,はるかに下位の患者に移植が行われ問題となった。しかも,移植後,書類をねつ造,あたかも優先順位1位の患者に移植が行われたように装ったから悪質だった。
さらに,日本でも報道されたことと思うが,山口組系暴力団後藤組組長・後藤忠正ら暴力団関係者4人がUCLAで肝移植を受けていた事実が2008年に明るみに出,問題となった。
4人に移植が行われたのは,MELD導入前後にまたがる2001-04年の4年間。いずれも比較的短い待機期間の後に移植を受けることができたのだが,通常,ロサンゼルス地区では,3年以内の待機期間で移植を受けられる患者は34%に過ぎない上,移植を受けられずに亡くなる患者も毎年100人を超すと言われている。しかも,後藤組長など2人が移植直後UCLA外科部門に各10万ドルを寄付,「金で肝臓を買った」とする批判が噴出した(註)。
ちなみに,『ジョンQ』は,デンゼル・ワシントン演じる父親が子どもに心臓移植を受けさせるために悪戦苦闘する様を描いた映画であるが,医師・病院が,「親に支払い能力がない」ことを理由に子どもを待機リストに載せるのを拒否することがストーリーの要となっている。実は,「支払い不能」を理由に待機リストに載せない行為は決して「絵空事」などではなく,現行ルール下ではまったく「合法」の行為とされている。日本の暴力団関係者が「金で肝臓を買った」かどうかの真偽はともかくとして,「金で臓器を買う」対極には,「お金がないと待機リストにも載せてもらえない」という悲惨な状況があるのである。
さらに,暴力団関係者の肝移植をめぐっては,移植を実施したUCLA外科部長の役割も注目された。手術後日本に何度か「往診」しただけでなく,後藤組長が収監された際にも診察,「拘置生活に耐えられない」と,医学的理由から保釈を求める診断書を裁判所に提出し
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