ダンスの効能(李 啓充)
連載
2010.02.01
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第167回
ダンスの効能
李 啓充 医師/作家(在ボストン)(2863号よりつづく)
不可能だった所作が次々と可能に
今回は,ダンスの驚くべき効能について,2つの事例を紹介する。
最初に紹介する「奏効例」は脳性麻痺。まだ一例報告にしか過ぎないし,報告されたのは医学誌ではなく一般メディアのニューヨークタイムズ紙(2009年11月25日付)。「医学的エビデンス」と呼ぶにはほど遠い段階の情報であることは言うまでもないが,私にとっては「心底驚いた」としか言いようがないほど「劇的な」事例だったのであえて紹介する。
脳性麻痺患者グレッグ・モズガラ(31歳男性)の職業は俳優。ダンスにかかわるきっかけとなったのは,「ロミオとジュリエット」のロミオを演じた彼の演技が,振り付け師タマール・ロゴフの目に留まったことだった。舞台でのモズガラの所作を見ているうちに,振り付け師としての芸術的インスピレーションが刺激されたという。
ロゴフからの舞踏の誘いにモズガラが応じた理由はただ一つ,「お金がもらえるから」だった。モズガラは,「自分の肉体の制限に適合させた振り付けになるか,ロゴフがプロジェクトそのものをあきらめるか二つに一つ」と高をくくっていたのだが,その予想は見事に外れた。ロゴフは,あきらめるどころか,自分の振り付け通りにモズガラが舞うことにこだわったからだった。
筋肉の緊張をやわらげるための「シェイキング」等,ロゴフは振り付け師として長年培ったテクニックを駆使,モズガラの肉体改造にとりかかった。そして,その効果はてきめんに現れた。例えば,生まれてこの方,踵を地面につけて歩くことができなかったモズガラが,両の踵を地面につけて歩くことができるようになったのである。ロゴフ自身が「a lot of howling, screaming, crying, sweating」と形容するように,その作業は決して楽なものではなかったが,モズガラにとってこれまでまったく不可能だった所作が次々と可能になっていったのだった。
脳性麻痺に対するダンス(より正確にはロゴフが施したリハビリ)の効果,にわか......
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
対談・座談会 2025.06.10
-
#SNS時代の医療機関サバイブ 鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか
鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか対談・座談会 2025.06.10
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
最新の記事
-
#SNS時代の医療機関サバイブ 鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか
鍵を握る広報戦略にどう向き合うべきか対談・座談会 2025.06.10
-
対談・座談会 2025.06.10
-
Sweet Memories
うまくいかない日々も,きっと未来につながっている寄稿 2025.06.10
-
寄稿 2025.06.10
-
複雑化する循環器疾患患者の精神的ケアに欠かせないサイコカーディオロジーの視点
寄稿 2025.06.10
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。