医学界新聞

連載

2009.12.14

漢方ナーシング

第9回

大学病院を中心に漢方外来の開設が進む今,漢方外来での診療補助や,外来・病棟における患者教育や療養支援で大切にしたい視点について,(株)麻生 飯塚病院漢方診療科のスタッフと学んでみませんか。

五感を駆使しながら患者さん全体をみるという点で,漢方と看護は親和性が高いようです。総合診療科ともいえる漢方診療の考え方は,日常業務の視点を変えるヒントになるかもしれません。

入院患者のケア

中島明美(飯塚病院内科系・2A病棟看護師長)
田原英一(飯塚病院漢方診療科)


前回よりつづく

 当院の漢方診療科の基本方針には,入院診療を重視し「病棟を持つ漢方医」であることが掲げられています。これに基づき,外来から病棟,病理解剖まで医療の全過程に責任を持ち,一貫した診療を行うことを理念としています。

 当科には毎年150名程度の患者さんが入院します。漢方診療科は幅広い疾患を対象にしており,膠原病などの難病から,難治性皮膚疾患などのアレルギー疾患,糖尿病・肥満などの代謝性疾患,うつ・不安などの精神疾患,腰痛・関節痛・しびれなどの疼痛性疾患まで,さまざまな悩みを抱える患者さんが入院してきます。原因・病態が不明な疾患に苦しみ,多くの病院を受診してきた患者さんが一縷の望みをかけて当科を受診,入院治療されることも少なくありません。

漢方診療科への入院

 当科は基本的に混合病棟なので,看護師は西洋医学的治療を受ける患者さんと,東洋医学的治療を主に受ける患者さんの両方に対応することになります。先述したとおり,難治性疾患や症状が遷延し長年持病に悩む方の入院も少なくないので,看護師による精神的なケアも重要になります。

 また,疾患の急性増悪による緊急入院にも対応しているほか,ICUやHCUに入院中でクリティカルな状態にある患者さんにも,西洋医学と連携して診察・処方を行う場合もあります。

入院生活

 西洋医学では栄養,安静,保温が入院生活の基本になりますが,漢方診療科への入院の要点は少食,運動,保温です。入院時にはオリエンテーションを実施して入院中の生活について説明を行うほか,服薬・食事・運動についての指導を行います。このためにパンフレットを作成しており,また,服薬指導時には薬剤師が介入します。

 西洋医学と漢方医学では入院中の患者さんの生活時間が異なります。服薬時間は基本的に食間で,毎日10時,15時,20時の3回。食事は多くは和漢食という玄米菜食で,1日2回12時と18時頃に配膳されます。

 また,病棟主治医の回診は毎日朝晩2回以上,漢方診療科の全医師と薬剤師による病棟回診は週に2回,月曜と木曜に行われます。回診前にシャワーや入浴を済ませてから診察を受けたいと思う患者さんもいるかもしれませんが,入浴することで脈が変化したり,「寒い/暑い」という感覚に変化を与える可能性があります。脈診や問診は漢方医学において診察の重要な項目なので,患者さんには直前の入浴やシャワーをせず,回診前30分は安静臥床を守るように指導しています。

服薬指導

 漢方薬お知らせカード
 漢方薬は空腹時の服用が効果的なので,基本的な服用時間は食間となっています。服用時間を忘れないよう,「漢方薬お知らせカード」(図)に時間を記入し,ベッドサイドにかけるといった工夫をしています。

 病棟では,院内の漢方調剤室で煎じた煎じ薬を多く用いて治療しています。煎じ薬のほかに丸剤,エキス剤も併用します。漢方診療科への入院は,治療そのものに加えて,患者さん一人ひとりに合った煎じ薬を調製するという意味合いも強いため,病棟主治医が毎日回診して症状の変化などを観察し,病態の変化に合わせて基本処方や生薬の配合を変えます。1日のうちに数回変更になるケースもあり,看護師は配薬ミスをしないよう注意が必要です。薬剤師が調剤室で煎じた薬は,服用時間を確認後,処方箋と煎じ薬の入ったプラスチックボトルを照合し,ダブルチェックを行った後に,哺乳瓶に1回服用分を移すという確認体制をとっています。

ナースステーションにコップを持参する
 この後,煎じ薬はナースステーションで約60℃に再加温します。時間になると,歩ける患者さんはナースステーションに自分のコップを持参して,薬を受け取ります(写真)。丸剤の服用時は舐めて溶かすか,噛みちぎって小さくするように指導します。エキス剤は50-100mLの湯か熱湯に溶いて服用するよう指導します。

 以前は看護師がベッドサイドまで配薬していましたが,服用時間を自覚できるよう,患者さん本人に取りに来てもらう...

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