医学界新聞

連載

2009.11.23

漢方ナーシング

第8回

大学病院を中心に漢方外来の開設が進む今,漢方外来での診療補助や,外来・病棟における患者教育や療養支援で大切にしたい視点について,(株)麻生 飯塚病院漢方診療科のスタッフと学んでみませんか。

五感を駆使しながら患者さん全体をみるという点で,漢方と看護は親和性が高いようです。総合診療科ともいえる漢方診療の考え方は,日常業務の視点を変えるヒントになるかもしれません。

和漢食のイロハ

矢野博美(飯塚病院漢方診療科)
伊藤順子,笹栗愛(同栄養科)


前回よりつづく

 和漢食は,日本の和食(精進料理)と漢方医学的な考え方を取り入れた治療食です。飯塚病院漢方診療科では1994年から和漢食を治療食として活用し,大きな治療効果を上げています。

なぜ和漢食なのか

 西洋医学では十分な治療効果が得られない患者さんが当科を多く受診され,漢方治療を併用しても病態の改善が不十分なことがあります。そのような難治性疾患の治療には,食事や運動などの養生も大切です。本来その人が持っている自然治癒力を最大に活かすため,また健康な人も病気にならないために,何をどう調理してどれだけ食べるかが重要と考えられるのです。

 当科では,昭和の漢方の大家,小倉重成先生による食事療法を受け継ぎ実践しています。小倉先生は,西洋医学では治療法の乏しいベーチェット病などに対する治療経験を基に,玄米・菜食を取り入れた食事療法を研究・実践し,運動(鍛錬)や漢方治療と併用して高い臨床成果を上げていました。

和漢食の4つの柱

(1)体を温める食材を使う
 冷えは体の抵抗力を低下させ,万病の元になるとも言えます。食べ物にも身体を冷やす「陰性食品」と温める「陽性食品」があります(表)。なるべく陽性食品を摂るよう心がけましょう。

 陰性食品と陽性食品

陰性食品:生もの/冷たいもの/砂糖の含まれるもの/酢
※そのほか,暑い土地・気候で採れるもの,早く育つもの,地上で育つもの,大きくて柔らかく水分の多いものなど

陽性食品:火を通したもの/天日に干したもの/漬物/温かいもの
※そのほか,寒い土地・気候で採れるもの,ゆっくり育つもの,地下で育つ根菜類,小さく硬く水分の少ないものなど
※陰性食品も,長時間煮る,乾燥させる,漬け込むなどの処理で陽性食品に変化する
※肉類は陽性食品だが避ける(本文参照)

(2)菜食(動物性食品を避ける)
  野菜はビタミン,ミネラルが豊富に含まれ,さらに食物繊維が多く,腸を健康に保ちます。海藻類も同様です。また,肉食が炎症や皮膚疾患を悪化させることもしばしば経験します。漢方医学的には,動物性食品を摂り続けていると瘀血が進み,あらゆる病気になりやすい体質になると考えられています。蛋白質は大切な栄養素ですが,肉より魚,魚より植物性食品から摂取するほうが,こういった病気の悪化は少ないように思います。

 そこで蛋白質は大豆で摂ります。(3)でも後述しますが,豆腐など加工食品でなく,そのまま撒くと芽が出る状態の,丸のままの大豆が理想的です。

(3)精製・精白・加工食品は使わない
 自然界に存在せず,抽出して得られる食品や精製・精白食品は身体のバランスを崩すと考えられています。バランスの取れた食べ物とは,撒けば芽が出るもの,必要以外の加工をしていないものです。よって白米や精白した小麦粉は加工食品と考え,和漢食の主食には,ビタミン,アミノ酸が豊富で満腹感も得られやすい玄米を使用します。

 また,抽出した油脂や過剰な脂質が炎症やアレルギー性疾患を悪化させることは日常診療の中でよく経験されます。油脂の摂りすぎは,肥満や脂質異常も招きます。

(4)少食が基本
 過食は,高脂血症や糖尿病などの生活習慣病や,メタボリックシンドロームを引き起こします。そこから脳卒中や心筋梗塞など,致命的な血管の病気に発展することもあります。また,過食後に気管支喘息の発作が出現しやすいことも経験しています。

図1 常食と和漢食の比較
 小倉先生は1日1食を提唱されましたが,栄養のバランスをとるのが難しいため,当科では1日2食(1000kcal/日)を基本としています。肉・魚・卵・油を用いなくとも,蛋白質は大豆と緑菜で,脂質も玄米・大豆・ゴマで摂取することができます(図1)。

(その他)旬のものを食べる
 本来の収穫時期ではない季節に温室などで採れるものは,旬の露地ものに比べ一般に味も薄く,含有栄養素も異なります。また例えば,夏に採れるトマトを冬に食べれば,身体を冷やしてしまい健康にもよくありません。

和漢食の作り方の基本

(1)食品の組み合わせ
 1日に,主食(玄米)200-220g,大豆30-50g,旬の野...

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