医学界新聞

連載

2009.12.14

看護のアジェンダ
 看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第60回〉
みんなで生きるために

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 『みんなで生きる』〔社団法人日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)会報〕が届くと,清水さんはどうしているかなと思いながら頁をめくる。清水範子(なおこ)さんは,本学の修士課程で国際看護学を修了し,JOCSから派遣されて,現在助産師としてアフリカのタンザニアで仕事をしている。2009年の会報・こども号(第395号)の特集「平和・健康・いのち」に,清水さんは寄稿していた。

下痢で失われる大切ないのち

 清水さんは,「大切ないのち」と題して,「私の出会った赤ちゃんとお母さんの出来事」から,いのちと健康を次のように伝えている。「タンザニアの村では,赤ちゃんが下痢になり,保健センター到着時に死亡していた悲しいケースは残念ながら多いです。大切ないのちが1歳になる前に下痢で亡くなってしまうのです」と。タンザニアでの活動は,健康の維持と向上が,病気の治療よりも重要であると清水さんは言う。清水さんは,毎週水曜日3つの村に通っているが,どの村にも診療所はなく,保健センターまで歩いて3時間かかるという。清水さんは村で妊婦健診と5歳未満のこどもたちの健診をしている。村には電気も水道もない。日本での健康維持や生活向上の仕方と異なる環境の中で,「お母さんたちの話をよく聞いて」,こどもたちの健康を守るヒントを得ているという。

 大切ないのちが下痢で失われる最も大きな原因は,村にきれいな水がないことだと清水さんは言う。村にある井戸水が使えない場合は,雨水や池の水や湧き水を使う。それで赤ちゃんは下痢になり,それが原因で亡くなってしまう。健康を守るための「安全な水」が必要なのだ。

 清水さんは,それ以外にも健康を守ることができない理由があるという。

 一つ目は,貧しいこと。貧しい人たちは牛乳をたくさん買うことはできないので水で薄めて飲んでいる。

 二つ目は,村から保健センターが遠いこと。大きな病気やけがをしても歩いて3時間の道のりをやってこなければならず,病気を重くしたり時には助からないこともある。

 三つ目は,食物が豊富にないということ。毎日の食事はとうもろこしの粉を練ったウガリと大豆だけのことが多い。鶏やヤギは家のすぐ近くで飼っているが特別なときにしか食べない。野菜,肉,魚,穀物,果物などをバランスよく適量摂ることが難しいと清水さんは指摘する。

大丈夫な「今の若い者」

 赤ちゃんの下痢の原因について村のお母さんたちと話し合った清水さんは,「お母さんたちから,学ぶことがたくさんあった」という。「どのお母さんたちも村にあるもので,知恵と経験から真剣に取り組んでいることがわかりました。こどもの健康維持には,基本的な栄養状態が安定していることが必要であることを理解し合いました」。

 そこで,村では自分の家の近くで菜園を作ってみようということになり,鉄分が多い野菜を育てようと決めた。「現在では,各家庭でそれぞれ小さな菜園を作っています。村の健診に行くと最近では,野菜作りの話が多くなってきていて,お母さんたちが積極的に取り組んでいるのがわかり,うれしいです」と清水さんは書いている。「大切ないのちが1歳の誕生日を無事に迎えられるように,村のお母さんたちを中心に,村全体で取り組んでいます」と清水さんはつけ加えている。

 「村でお母さんたちから話を聞く清水ワーカー」とキャプションの付いた写真では,キリマンジャロヘアという編み上げのヘアスタイルの清水さんが紹介されている。その写真は,「みんなで生きる」ために必要なことを教えてくれる。

 半年くらい前,一時帰国した折に,近況報告で立ち寄ってくれた元気な清水さんと重ね合わせ,「今の若い者は」と嘆いている「若くない者」に,今の若い人たちは大丈夫と伝えたい。

つづく

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