医学界新聞

寄稿

2009.11.09

【寄稿】

卒後臨床研修の必修科目削減における問題点
――Women's health careの担い手育成の立場から

安日一郎(国立病院機構長崎医療センター産婦人科・部長)


 2010年度の卒後臨床研修制度の見直しが決まり,外科,産婦人科,小児科,精神科が必修科目から選択必修科目に格下げとなった。これまでは必ず研修しなければならなかったこれらの診療科目のうち,2科の選択で足りるようになったのである。2004年度から導入された臨床研修の必修化後初めての大幅な見直しであるが,ひと言でいえば,日本の臨床医養成システムの大きな後退である。必修化当時の「プライマリ・ケアの基本的な診療能力を身につける」という理念に逆行するものであり,別の見方をすればわが国の臨床医養成に関する理念の乏しさを露呈することとなった。

 今回選択必修となった研修科目は,すべて元の必修科目に戻すべきであるというのが私の意見である。卒後研修にかかわるさまざまな立場からの議論が百出しているが,ここでは女性医療の担い手育成の立場から,産婦人科初期研修に限定してその問題点を指摘したい。

「お産を診られるようになるわけでもない」という誤解

長崎医療センター・総合周産期母子医療センターでの研修風景
 今回の制度見直しで,産婦人科を研修しない臨床医が数多く育成されることとなる。「産婦人科を1か月間研修したところでお産を診られるようになるわけでもない,そんなことは産婦人科専門医に任せておけばよい」という声がある。しかし,これは産婦人科初期研修の意義を履き違えた意見である。産婦人科の初期研修の目標は,女性のヘルスケアの視点を身につけることである。もちろん,妊娠,出産を診ることは産婦人科の業務として重要であるが,それ以上に重要なのが,女性の健康管理なのである。すなわち,子宮がんや乳がん検診などの婦人科関連がんのスクリーニング,女性の急性腹症,月経異常に関連したさまざまな疾患とマイナートラブル,性感染症,更年期や思春期のヘルスケア,性教育など,その守備範囲はとても広い。人口の半分は女性であり,その女性のヘルスケアの視点を身につけるトレーニングは,家庭医や総合臨床医だけでなく,どの診療科の専門医にとっても臨床の基礎となる。

 例えば,女性の下腹痛を診断する上ではさまざまな婦人科的な知識とアプローチが必要である。特に,症状や病気の経過を尋ねる問診は診察の入り口であり,痛みと月経との関連,妊娠の可能性,性器出血や帯下の有無などに関しての適切な問診情報だけで大方の診断がつくことも少なくない。

 日本の大多数の臨床医は,医師免許取得後の臨床医養成過程で産婦人科研修を受けたことがなく,その知識や技術は医学生程度でしかなかった。このことは,残念ながらわが国における多くの総合臨床医や家庭医養成課程でも同様である。こうした日本の女性医療の現状において,2004年度に始まった産婦人科研修の必修化は大きな成果をもたらしたと,私は評価していた。

「たった1か月」でできること

 実は私自身も当初は,果たして1か月で何ができるのかといささか懐疑的であった。しかし,当院の研修医の1か月間の成長をみると,その批判が的外れであることを確信した...

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