MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2009.08.31
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


多田 正大,大川 清孝,三戸岡 英樹,清水 誠治 著
《評 者》日比 紀文(慶大教授・消化器内科学)
内視鏡のスペシャリストによる入魂の内視鏡診断バイブル
大腸内視鏡診断に関する書籍はこれまでにも数多く出版されており,その中には私自身が監修したものもある。多田正大先生らが著された本書は,これらの類書とは一線を画する大腸内視鏡診断の分野におけるバイブルといっても過言ではない。本書は評判が高かった7年前の初版本から改版されたものであるが,基本的な執筆方針は保ちつつ最新の消化器診断学,病理学,検査機器の進歩に基づいて各項目をリファインした結果,初版より100ページ以上ボリュームが増加し,下部消化管内視鏡診断に必要不可欠な内容がこの一冊に網羅されている。初版に掲載された提示症例の内視鏡写真も素晴らしいものであったが,今回ほとんどの項目で症例・内視鏡写真を新たに選ばれて,「眺めるだけでも感動する」ような美麗な内容の本に仕上がっている。
本書の根幹を成すこれら多数の症例,精選された内視鏡写真を執筆者らはいかにして集積されたのであろうか。私が類書を企画した際に,その構成とともに最も頭を悩ましたのがこの点であった。ある項目の記述を例示する症例を,と思っても読者にとってわかりやすくかつクオリティの高い内視鏡写真がなかなかないのである。
聞くところによると,本書は大阪で定期的に開催されている「大腸疾患研究会」の例会で検討された膨大な症例が基礎となっているということである。私は「大腸疾患研究会」なるものの存在を知らなかったが,多田正大先生らが1974年(私は医者になってまだ2年目である)に設立し,年に5回,世話人をはじめとする施設の先生方が大腸の症例を持ち寄って熱いディスカッションを交わすという,歴史あるかつレベルの高い研究会である。いわば東京で開催されている「早期胃癌研究会」の関西地域版,大腸特化版とでもいうものであろうか。「胃と腸」誌の素晴らしい内容が「早期胃癌研究会」で検討された膨大な症例に裏打ちされたものであるように,「大腸疾患研究会」でのディスカッションの白熱ぶりも予想されよう。
厳選された症例と内視鏡写真以上に本書を特徴付けているのがその提示構成である。本書の大部を成す第4章「腫瘍性疾患」および第5章「炎症性疾患」で,各々の所見に対して4ないし8症例の豊富な内視鏡写真を提示して,所見が箇条書きでポイントを得て解説されているとともに,見開きの反対側のページには所見に対応する病理組織写真や造影写真などを載せている。類書では内視鏡写真を多数掲載して,アトラス・写真集的になりがちであるのに対して,本書では下部消化管疾患の診断を内視鏡検査だけではなく,造影検査,病理診断を含めて総合的に検討し,病態に基づいた形態学的診断を進めていくという姿勢が貫かれている。昨今の内視鏡検査万能主義,内視鏡検査だけですべて足りるという風潮に対して,特に消化管診断学を学ぶ若い消化器病専門医たちに警鐘を鳴らすものである。
もう一つの特徴は,それぞれの症例に内視鏡写真が2枚提示されている点と,比較的平易な用語で解説された内視鏡所見である。2枚の内視鏡写真は,遠景と近景,別々のアングル,生と色素散布像というように,静止画像であるにもかかわらず読者があたかも内視鏡を操作し観察しているかのごとくの動的な感覚を与えている。1枚ではなく2枚の写真が提示されていることによって,内視鏡所見の解説も生きてくるのである。
執筆者らはいかにしてこのような「読者のかゆいところに手が届く」ように本書を構成することができたのであろうか。おそらく執筆者らは,「トップダウン」で企画して構成されたのではなく,読者,内視鏡を学ぶ者の疑問,要望をくんだ「ボトムアップ」的な思想で企画されたのではないか。私など雑務に追われ,内視鏡検査に携わらなくなって久しい者には,若い人たちが「何がわからないのか」,「どうしてできないのか」ということが正確に把握できていない傾向にある。多田先生をはじめ執筆者の先生方は,どんな年齢,どんな立場になられても自ら内視鏡検査を施行し,身近な「読影会」,「症例検討会」,そして多施設の先生が集まる「大腸疾患研究会」のような研究会を通して若い人たちを含めた...
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