医学界新聞

寄稿

2009.07.27

【寄稿】

ジェネラリストと小児科医による研修コラボの可能性

齊藤裕之(同善会クリニック 副院長)


加熱する医師不足の報道

 「地域の小児科医不足」「都心で起きた妊婦のたらい回し事件」,ここ最近のメディアは医療問題に関する報道がますます加熱している。日本全体が深刻な医師不足に悩まされ,患者は自分の健康問題を医師に相談するまでに高いハードルを越え,ようやく受診にこぎつけられる地域も少なくない。一方,医師は過酷な労働条件のなか,不眠不休の労働を余儀なくされ,そうした状況のなかでも懸命に地域の健康問題を支えている。さらに高齢化社会の兆しが医療現場でも見え隠れしている。患者の健康問題は以前よりも重症化,複雑化し,1人の患者の健康問題を解決するためにさまざまな専門家からの視点が必要になることもある。しかも,患者の権利意識が高まり,訴訟問題が報道されるたびに私たちは常に緊張感を持って患者に接することを意識づけられるが,その緊張感が切れたとき「立ち去り型サボタージュ」と表現される医師の燃え尽き症候群が各地で起こっている。

 厚労省は医師の絶対数不足を解消するために医学部の定員を増やす政策を取り始めたが,皮膚科や眼科といったいわゆるマイナー志向の強い若い世代が私たちの希望どおり地域で活躍する医師となってくれるかは未知数である。しかも,彼らが医師として自立し,地域で活躍できるまで少なくとも5-6年の歳月がかかるであろう。それまでの間,私たちは患者や地域の期待にどのくらい応えることができるだろうか。しかも,自分たちも疲弊することなく……。

始まっている小児科医との研修コラボ

 このような状況のなかジェネラリストの気運が徐々に高まっている。日本家庭医療学会では後期研修プログラムを整備し,新しい世代のジェネラリスト育成に取り組み始めた。医師不足に関する報道は特に,小児科医不足を深刻に扱っているが,ジェネラリストの後期研修を小児科医の診療業務の軽減にうまく組み合わせることでお互いがwin-winの関係を築いている病院があり,現在関心を集めている。

 それはジェネラリストの後期研修医が小児科研修を修了したあとも,その病院の夜間小児救急を継続的に引き受けることでお互いのニーズが満たされる仕組みである。小児科医にとって,日常の診療業務に加えて夜間の救急当番を引き受けることは過酷な労働条件の一因となっている。一方,ジェネラリストの後期研修における小児科の義務研修は3か月間のみで,その期間で地域の子どもの健康問題を支える診療能力がどのくらい身につくかは疑問であり,もし仮に身についたとしてもそれを維持する努力が必要となる。そこで,小児科研修修了後にも引き続き夜間小児救急を行うことで,その能力の維持向上を狙うことができる。実際に,家庭医療後期研修プログラムの中でも川崎市立多摩病院(神奈川県川崎市),飯塚病院(福岡県飯塚市),奈義ファミリークリニック・津山中央病院(岡山県津山市)などは既にこの取り組みを始めており一定の成果を挙げている。

 この取り組みには双方にとっていくつかの利点がある。小児科医にとっては,指導している後期研修医が研修修了後にも夜間小児救急に継続的にかかわることを知っているため指導への意欲が向上する。また,研修目標が「夜間小児救急での独り立ち」と,明確に設定されているため指導や研修の評価がしやすい。ジェネラリストの後期研修医にとっても小児診療を続けられるだけではなく,継続性のなかで季節性のある疾患を学ぶことができたり,それを小児科医の指導の下で診療できる利点は大きい。また,疾患重症度の高い病院で研修を積むことにより小...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook