鼻炎診療をカンタンに(森本佳和)
連載
2009.07.06
知って上達! アレルギー
【第4回】鼻炎診療をカンタンに
森本佳和(医療法人和光会アレルギー診療部)
(前回からつづく)
先日見たテレビドラマでは,主人公の医師が華麗に患者の生命を救っていました。格好いいですね。こういうドラマでは,おおよそ救急医や外科医が失われそうな命を救うといったパターンが多いですが,このような医療はQuantity of Life(生活の長さ)の改善を目的とします。古くからの感染症とのたたかい,現代のがんとのたたかいなど,医学は生命予後の改善を大きな目標にしています。前回のアナフィラキシーの治療はこの部類に入りますが,アレルギー診療のほとんどは,Quality of Life(QOL;生活の質)を改善することを目的とします。QOLをよくするというアレルギー診療の役割は現実社会では大きく,中でも鼻炎の治療は重要です。「でも,鼻炎に時間はかけていられないよ」という声が聞こえてきそうなので,これだけはとってほしいポイントを3つ紹介し,それを図に書き込んで把握するという方法をご紹介します。
その症状はアレルギー性?
最初はやはり症状がアレルギー性のものかどうかです。鼻炎症状はアレルギーで起こるだけではありません。例えば風邪をひくと,くしゃみ・鼻水・鼻づまりを経験することがありますね。これはおそらくウイルス感染による炎症が原因です。また,冬の寒い道から飲食店に入ってラーメンをすすったら鼻水が出て困った経験はありませんか? これもアレルギー性ではなく,おそらく神経-血管系の興奮によって起こる血管運動性鼻炎に近い病態と思われます。血管運動性鼻炎は理解されにくいですが,特に年配の患者さんに多く,朝晩の気温差や精神的ストレスが原因となり,例えば朝起きて冷たい空気にさらされたときなどに鼻水が出るといった訴えが典型的です。これらの非アレルギー性鼻炎も意外に多く,「アレルギー性鼻炎:非アレルギー性=3:1」といわれていますから侮れません(註)。
アレルギー性鼻炎の場合は,目・鼻・のどなどに“かゆみ”が存在しますが,非アレルギー性の鼻炎ではアレルギーの特徴(Hallmark)である“かゆみ”が前面に出てきません。例外をいうとキリがないのですが,「かゆみがある→アレルギー性」,「かゆみがない→非アレルギー性」とまずは見立ててしまいましょう。
季節性か通年性か
さて,アレルギー性鼻炎となると,その原因である抗原(アレルゲン)があるはずです。アレルギー疾患の治療の基本は抗原の除去・回避ですから,これを考えないわけにはいきません。
抗原を分類するにはどのような方法があるでしょうか? いろいろありますね。屋内と屋外,動物性と植物性,通年性と季節性。このうち病歴から抗原特定ができる,つまり臨床に役立つ分類法はどれだと思いますか? 人はあちこちに動き回るので,場所での分類は抗原特定にあまり役立ちません。また,鼻炎を起こしているのが動物か植物かなんてかぎ分けられません。ここは通年性か季節性かに注目しましょう。
通年性のアレルゲンというと,ダニ・イヌ・ネコといった抗原がありますし,季節性アレルゲンには花粉があります。例えばスギ花粉は春の花粉です。秋に症状があれば原因はスギ花粉ではないし,逆に春に症状がないという場合はスギ花粉によるアレルギーではないでしょう。また,年間を通じて症状が一定していれば,おそらく花粉の寄与は大きくない,と目安がつきますし,非アレルギー性鼻炎である可能性も出てきます。鼻炎では,症状が悪化する季節についての質問は外せません。
鼻詰まりは治療法選択の重要な鍵
次に重症度についてですが,鼻アレルギー診療ガイドラインでは,くしゃみ発作の回数,平均鼻かみ回数,鼻詰まりなどをスコア化して分類します。しかし,ここは患者さんから様子を聞いて決めてしまいましょう。分類は軽症-中等症-重症です。「最近,鼻水とくしゃみが時々出るんです。ひどくはないんですけど,なんか薬でももらえないですか?」。これはおそらく軽症。「先生,鼻水が大変で,仕事も手につきません」。これはおそらく重症。これらの間なら中等症。こんな感じでいいでしょう。
重症度の判定の上でもっとも患者さんのQOLのキーとなり,しかも治療方法選択にも重要な症状が鼻詰まり(鼻閉)です。鼻詰まりに悩まされているかどうか,これはしっかり尋ねてください。ついでに所見もとってしまいましょう。片方ずつ鼻孔を押さえて鼻で息をしてもらえば,鼻詰まりがあるかどうかはその場でわかります。診察室で鼻詰まりがあれば,喘息でいうとベースの気道閉塞陽性というわけですから,おそらく相当なものと考えていいでしょう。
*
以上,3つのポイントでキーとなる情報は得られました。数分間でできる問診と簡単な所見とりでしたが,これで鼻炎治療には大変有用な情報が得られました。これを書きながら考えられる方法が,「カンタン!鼻炎の把握法」です(図)。ぜひ試してみてください。シンプルに見えますが,上段は病態で,下段は症状の評価。左側は大きな分類で,右側は補足情報,と合理的に構成されています。
図 カンタン!鼻炎の把握法 |
記入は厳密ではなく,おおまかでOKです。後日,やっぱりアレルギー性ではなくて非アレルギー性,なんて変わっても構いません。あなたの治療が成功して重症から軽症になったら,そう変えましょう。こうして,フォローしていく上でもここで書かれた項目を軸に考えていきます。
さて,今回は鼻炎の診療で重要な3つのポイントと,それを素早くとらえる方法をご紹介しました。ぜひ,日々の診療にお役立てください。
(つづく)
註)Settipane RA. Rhinitis: a dose of epidemiological reality. Allergy Asthma Proc, 2003;24(3):147-54.
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