医学界新聞

連載

2009.05.11

論文解釈のピットフォール

第2回
アブストラクトと図の斜め読みはあぶない

植田真一郎(琉球大学大学院教授・臨床薬理学)


前回からつづく

ランダム化臨床試験は,本来内的妥当性の高い結果を提供できるはずですが,実に多くのバイアスや交絡因子が適切に処理されていない,あるいは確信犯的に除 去されないままです。したがって解釈に際しては,“ 騙されないように” 読む必要があります。本連載では,治療介入に関する臨床研究の論文を「読み解き,使う」上での重要なポイントを解説します。


 新しい臨床試験論文が出たら,きちんと全部読んでいますか? 最近はいくつかの試験をまとめた二次資料も多く,すべてを読まない人も多いかもしれません。かくいう私もタイトルを見て面白そうならサマリーを見て,という程度です。しかし,あなたの処方を変えるかもしれないような論文は(そんなに多くはありませんが),きちんと読んだほうがよいです。二次資料が悪いわけではありませんが,誰が作成した二次資料なのかよく確認しましょう。

PECOで素早く読み取る

 まず,宣伝パンフレットには気をつけましょう。図1はカプランマイヤー曲線と呼ばれるのもので,臨床試験の論文でよく見かけます。左の図はスコットランドで行われたWOSCOPS研究(文献1)で,プラバスタチン(高脂血症で使用されるスタチン系薬剤のひとつで,日本人により開発された)とプラセボを比較したものです。右の図は,日本で行われたMEGA研究(文献2)でプラバスタチンと食事療法の比較で,対象はいずれも高脂血症の患者さんです。まったく同じではないにしろ,この2つのグラフは似ていますね。もし研究のサマリーだけ読んで済ませたいとしたら,どちらにも「プラバスタチンは高脂血症患者の冠動脈疾患イベントを30%程度有意に抑制する」と書いてあります。

図1(上),図2(下) WOSCOPSとMEGA研究の結果(冠動脈疾患のカプランマイヤー曲線)(文献12より改変)
図1 プラバスタチンの一次予防試験であるWOSCOPS研究とMEGA研究の最も重要な図(冠動脈疾患の発生)を並べたものです。これを見ると,両者は同じ結果に思えます。
図2 図1と同じグラフですが,Y軸を揃えてあります。こうすると全然違う結果だとわかります。

 ところがこの2つは,いろいろな意味でまったく違うグラフなのです。EBMの教科書などには自身の臨床的疑問の定式化として,まずPECO(Patient, Exposure, Comparison, Outcome)のかたちにすることが勧められています。論文を読むときも同じです。論文が自分の臨床的疑問に答えられるかどうかを判断するためにも,PECOを素早く読み取ることが必要です。

 この2つの論文のPECOを簡単に表にしてみました。ずいぶん違う点があります。先ほどの図1のグラフの縦軸を見てください。左は12%まで書いてありますが,右は4%までです。ですから,MEGA研究のカプランマイヤー曲線をWOSCOPS研究のそれに重ねてみるとわかるのですが(図2),そもそも全体の「冠動脈疾患イベント」の発生率が異なるのです。つまり,Pが違うということになります。

 WOSCOPS研究とMEGA研究のPECOを比較
  WOSCOPS MEGA
Patient 高コレステロール血症(270mg/dl)のスコットランドの中年男性 40-70歳の高コレステロール血症(242mg/dl)の男性および閉経後女性(68%)
Exposure プラバスタチン40mg プラバスタチン10mg
Comparison プラセボ 食事療法のみ
Outcome 心筋梗塞,冠動脈疾患死 心筋梗塞,突然死,狭心症,冠動脈血行再建

図2 アスピリンとクロピドグレルを比較したCAPRIE研究の結

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