医学界新聞

連載

2009.06.08

論文解釈のピットフォール

第3回
RCTと観察研究――デザインの違いと意味するものの違い

植田真一郎(琉球大学大学院教授・臨床薬理学)


前回からつづく

ランダム化臨床試験は,本来内的妥当性の高い結果を提供できるはずですが,実に多くのバイアスや交絡因子が適切に処理されていない,あるいは確信犯的に除 去されないままです。したがって解釈に際しては,“ 騙されないように” 読む必要があります。本連載では,治療介入に関する臨床研究の論文を「読み解き,使う」上での重要なポイントを解説します。


 皆さんはエビデンスレベルという言葉に聞き覚えはありますか? 図1をどこかで見たことがあるのではないでしょうか? この図は「エビデンスのピラミッド」とよばれ,臨床研究の結果の信頼性の高さ,あるいはエビデンスのグレードを表していると言われます。最上位にランダム化比較試験(Randomised Controlled Trial, RCT)があり,以下コホート研究,症例対照研究といった観察研究になります。これを見ると,RCTこそ信頼できるエビデンスを提供するもので,観察研究からのエビデンスはそれよりちょっと信頼性が落ちる,ということになりますね。それは確かに正しい部分もあります。

図1 エビデンスのピラミッド?
臨床研究の結果の信頼性に関してこのようなピラミッドとして表現されることがある。本来はそれぞれに強い点,弱い点があり,役割も異なるが,確かにこのような図になってしまう部分もある。

RCTの必要性

 例えば高血圧患者さんのコホートで予後を観察していくとしましょう。このコホートで「サイアザイド系利尿薬を使っている人には糖尿病発症が多いのではないか?」という疑問を解決したいとします。しかし,日本ではサイアザイド系利尿薬の処方は少なく,積極的に投与する医師はまだまだ少ないようです。宣伝も見かけませんね。ですから,服用している患者さんはおそらくいろいろな特徴を持っていると考えられます。

 例えば,血圧のコントロールがうまくいかず,やむを得ずあまり使用することのない利尿薬を処方した可能性は大いにあります。そうすると,その患者さんは利尿薬を服用していること以外に「血圧のコントロールが悪い患者」「何らかの臓器合併症が既に進行している患者」である可能性を持ちます。したがって,たとえ利尿薬服用群で糖尿病発症の頻度が高いとしても,それは「もともと血圧のコントロールが悪い患者」と「糖尿病」の関連かもしれません。つまり利尿薬服用患者と非服用患者は,薬以外にもいろいろな面で異なるので,予後を比較するのであれば,こういった因子を補正する必要があります。その解決法のひとつがRCTという研究手法なのです(図2)。ランダムに(強制的に)利尿薬服用,非服用に割り付ければこのような問題は少なくなります。もし医師の裁量で利尿薬を処方された群をそのまま比較すると,先述したような理由で,糖尿病が多いという結果や血圧が高いという結果,合併症が多いという結果などが出るかもしれません。

図2 前向きコホート研究とRCT

 図3は,ある観察研究(前向きコホート研究)で“観察期間中に糖尿病を発症した群”,“もともと糖尿病であった群”,“観察期間中糖尿病を発症しなかった群”における各降圧薬の使用頻度を比較したものです(文献1)。利尿薬使用頻度が“観察期間中に糖尿病を発症した群”で高く,著者らはその結果をもとに「利尿薬は糖尿病発症のリスクを高める」と述べています。通常観察研究では欠点を克服するために,統計学的な補正を行ったり,傾向スコア(薬剤投与に関連する要因が同程度の服用者,非服用者を,ペアをつくって比較する)を用いたりします。本研究でもそのような補正がなされていますが,いかに統計学的に正しい手法を用いても,利尿薬が投与された状況にさかのぼって,投与に関連する何らかの糖尿病発生と関連する因子を補正することはできません。したがって,本研究の結果から「利尿薬が糖尿病発症のリスクを高める」とは言い難いのです。

図3 糖尿病新規発症患者,糖尿病患者,非糖尿病患者での各降圧薬の使用頻度(文献1より改変)
観察期間中に糖尿病を発症した患者では利尿薬の頻度が多い,したがって利尿薬が糖尿病発症の犯人かもしれないと解釈している(Ca拮抗薬やACE阻害薬も多いが,補正により関係ないとしている)。しかし処方された背景が解析に加味されているわけではないため,結果と原因の取り違えの可能性は高いと考えられる。

 もうひとつ例を挙げます。表は北欧で行われた前向きコホート研究の結果です(文献2)。スウェーデンのウプサラで1920-24年に生まれた男性を対象に,50歳と60歳の時点で検診を実施,10年間の血圧や脂質,血糖の...

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