医学界新聞

2009.04.27

あらためて今「脳卒中」を知る

Stroke2009を三学会合同で開催


 第34回日本脳卒中学会総会(会長=島根大病院・小林祥泰氏),第38回日本脳卒中の外科学会(会長=徳島大・永廣信治氏),第25回スパズム・シンポジウム(会長=山口大・鈴木倫保氏)の三学会合同での「Stroke2009」が,3月20-22日,島根県民会館・サンラポーむらくも(島根県松江市)にて開催された。今回は三学会のさらなる融合を深め,抄録も1冊に統一された。会場には,脳神経外科医,神経内科医のほか,看護師,リハビリテーション医療従事者などさまざまな立場からの参加者があり,2008年の脳卒中・リハビリテーション認定看護の分野特定ともあいまって,あらためて脳卒中におけるチーム医療の重要性が浮かび上がった。また保険点数化から1年が経過した脳卒中地域連携パスの話題や,まもなく公表される「脳卒中治療ガイドライン2009」の概要も示されるなど,内容の濃い学会となった。その一端をお伝えする。


脳卒中学会主導の登録研究を

小林祥泰氏
 会長講演「脳卒中データバンクの生い立ちと今後」では,小林氏が,自身が立ち上げた脳卒中データバンクのこれまでの歩みと展望を語った。

 脳卒中データバンクは,日本における脳卒中の評価・診断の標準化を最大の目的とし,1999年に構築が始められた。2002年には日本脳卒中協会の一部門として研究が継続されることとなり,03年に最初の『脳卒中データバンク』が発行された。その後05年には『脳卒中データバンク2005』が,そして今年,全国110施設,約4万7000例が登録された『脳卒中データバンク2009』が発行された(いずれも中山書店刊)。

 手法としては,1例ずつ個別にweb登録するのでなく,施設ごとに集計・解析したデータを年末に収集している。そのため個別登録に比べて集計率は下がるものの,施設にとっては,自分たちの経験した脳卒中症例を独自にまとめられるメリットがあるため,順調にデータが蓄積されているものと推察できる。

 現在,日本リハビリテーション医学会でも同じシステムを利用してデータベースを構築中とのこと。脳卒中患者の急性期のデータをリハビリテーション施設に送り,そこで得られた慢性期のデータにて,さらに脳卒中のデータベースを更新するといった連携も検討されている。また,救急現場や搬送中に救急隊などによってなされた判断に,病院での医師の最終的な診断をフィードバックして正診率を調べるといった,プレホスピタルケアの充実に貢献できるような機能も構想中だという。現在進行中の,2008-2010年のデータベース構築では,上記の計画に加えweb経由の簡易データベースや電子カルテとの連携システム構築も進められていることが明らかにされた。

 氏は,血栓溶解薬rt‐PAの普及を契機として,日本脳卒中協会を中心に脳卒中対策基本法制定への動きが高まっていることにも言及。法律の制定によって,救急診療拠点病院の設置やストロークチームの整備など,全国の脳卒中診療の均てん化,レベルアップが図られることを強調した。そのためにも今後は,例えば日本腎臓学会の腎臓病総合レジストリーのような,脳卒中学会主導の登録研究をぜひ行うべきであると訴えた。そして法律が制定された暁には,国循を中心とした「脳卒中登録センター」のような,データベース作りのための場所と人の拠点を作るべきであると提言した。

最先端治療法の臨床応用

 シンポジウム「脳卒中の先端治療研究――臨床への道」(座長=阪大・北川一夫氏,名市大・山田和雄氏)では,計8人の演者より,遺伝子,薬物療法から手術器具の開発まで脳卒中治療に関する最新のトピックスが提示された。

 脳梗塞超急性期の治療として確立しつつあるrt‐PAだが,治療の有効時間,適用症例に制限がある。大星博明氏(九大病院)は,そのようなrt‐PA適応外の症例にも効果が期待できる治療として,neurovascular protectionを目的とした遺伝子治療を提唱した。その一つが,血液脳関門の保護のための血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の抑制である。脳虚血の急性期には神経や血管にVEGFが発現し血管新生を促すが,同時に血管透過性を亢進してしまうため,VEGFの抑制作用を有する可溶性蛋白soluble Flt‐1を遺伝子導入し,VEGFへの拮抗を期待した。その結果血管透過性を7割以上抑制でき,脳梗塞,浮腫の発生も治療群で約3分の1に減少,急性期における血液脳関門の保護の重要性を裏付けた。

 また,脳梗塞の原因となる血管内皮の炎症反応を抑制するための遺伝子治療も紹介。炎症反応を惹起するのはヒト単球走化活性因子MCP‐1だが,その活性を0%にしたものを遺伝子導入することで,MCP‐1受容体のシグナルを抑制し,脳梗塞の発症を約3分の2にまで抑えられるという。さらに広範に炎症を抑制し,効果を強めたい場合にはサイトカインの一種インターロイキン-10が有用であり,実験段階だが脳室内に遺伝子導入すると,脳梗塞の発症を4割弱まで減らせるとのことである。

 そして,これら遺伝子治療の臨床応用のためには,ベクターの選択,投与ルートの選択,安全性への留意が重要であること,また,遺伝子治療の弱点は,効果の発現までに時間がかかることなので,場合によっては他の即効性のある治療と併用する,などの工夫も必要であると述べた。

 昨年保険収載され,血管狭窄の外科的治療として適応が増加しつつある頚動脈ステント留置術(CAS)だが,ステント留置後に再狭窄を起こす場合がある。その対策として着目されているのが薬剤溶出ステント(DES)であるが,慢性期の血栓症,遅発性の再狭窄など問題点も指摘されている。

 この問題の解決のため鶴田和太郎氏(筑波大大学院)は,経静脈的に薬剤を投与し,血管拡張したところに発現する特定の物質をターゲットとして,選択的にキャリアが薬剤を運ぶという,active targeting drug delivery systemの有効性をラットでの実験で検証した。ターゲットは,血管内皮細胞の炎症時に発現が誘導されるE‐selectinとし,キャリアとして,表面に糖鎖抗原sialyl Lewis X(SLX)を標識し,内部に抗がん剤doxorubicinを封入したリポソーム(Dox‐lipo‐SLX)を用いたところ,E‐selectinが発現した細胞にDox‐lipo‐SLXが接着,doxorubicinが細胞に取り込まれ,対照群に比べて残存血管内腔面積が有意に保たれているという結果が得られた。

 この方法は,血管形成術後の再狭窄のみならず狭窄の予防にも有効な可能性があり,またリウマチ患者の関節腔内への薬剤のデリバリーなど他疾患への応用も考えられ,その将来性が示唆された。

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