医学界新聞

連載

2009.03.09

小児科診療の
フレームワーク

Knowledge(医学的知識)-Logic(論理的思考)-Reality(現実的妥当性)の
「KLRモデル」に基づき,小児科診療の基本的な共通言語を共有しよう!

【第3回】脱水のマネジメント

土畠智幸
(手稲渓仁会病院・小児NIVセンター長)


前回からつづく

小児科研修でまず最初にマスターするべき項目である,脱水の評価について説明します。「軽度・中等度・重度」をいかに鑑別するか,またそれぞれに対するマネジメントの方法について述べます。小児は脱水になりやすく,非常に重要な項目なのですが,これまでの医学教育ではあまり教えてこられなかった部分なので,ぜひ覚えてほしいところです。

Case1

午後8時,10か月男児,体重10kg。本日昼から下痢3回。ミルクは飲めており,吐いていない。母は,尿がいつもより少ないと言う。ERで体重測定すると9800gであった。機嫌はよかったが診察で啼泣,涙が出ている。

Case2

午前0時,1歳4か月女児,体重12kg。本日朝から嘔吐・下痢頻回。ご飯は食べず,飲水するがすぐに嘔吐してしまう。下痢は5回くらい。診察時,不機嫌あり。目がくぼんで見える。泣いても涙が出ない。唇が乾燥している。

小児は必ず水分のチェックを!

 小児はその生理学的特徴から,非常に脱水になりやすいのです。診断そのものについては入院適応がなくても,中等度以上の脱水状態にある,もしくは経口摂取ができずにそうなる可能性がある場合は入院の適応になります。いわゆる「飲めないので入院」というやつです。

 脱水の評価でまず大事なことは,「現在の脱水の重症度評価」です(表)。小児科で研修する際,担当した患者さんすべてについて脱水の評価をするよう心がけましょう。30回ぐらい,全項目をチェックすると,自然に覚えてしまいます。それぞれの重症度ごとの方針は,以下のようになります(詳しい治療内容はPALSマニュアルやその他の成書をご参照ください)。

軽度→帰宅可能・経口摂取
中等度→(1)入院加療,または(2)外来にて補液後,経口摂取で軽度の状態を維持できれば外来経過観察
重度→即座に入院。ショックなど重篤な場合はICU管理。

 脱水の重症度評価

脱水マネジメントのフレームワーク

 もう一つは,「今後予測される水分のIN・OUTバランス」です。つまり図のように,2つの軸で考えることが重要です。軽度脱水の場合(図(A))で経口摂取ができる場合は,点滴の適応はありません。小児のルートキープは難しいので,うかつに点滴しましょうと言ってはいけません。ご家族にも看護師さんにも嫌われてしまいます。

 脱水のマネジメント

 中等度脱水の場合(図(B))は,補液の適応となります。海外などでは,“ORT:Oral Rehydration Therapy”と言って,経口摂取により脱水を補正するという治療法がありますが,かなりの時間と手間を要するので,日本では現実的ではないでしょう。中等度脱水の場合,(1)即入院とする,(2)外来で頑張る,の二つのオプションがあります。(2)の場合,まずは点滴により脱水を補正し(図(C)),その後に経口摂取ができるかどうか,できるようであればそれで水分バランスが維持できるか,次回の評価は何時間後にすればよいか,ということを判断の上,入院が必要か帰宅できるかを判断します。

 つまり,水分のINとOUTのバランスが正になると推測できればよいわけです。OUTについては,嘔吐の量は5ml/kg/回,下痢は10ml/kg/回程度と考えればよいでしょう。それらに加え,維持水分量を摂取する必要があります。INについては,救急外来で飲水が可能かどうかを試してみます。まずは紙コップの半分程度を飲ませ,15-30分様子を見ます。これで嘔吐しなければ,次は紙コップ1杯分,次は200ml程度を飲ませます。これで問題なければ,経口摂取は確立していると考えてよ...

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