医学界新聞

連載

2009.04.06

小児科診療の
フレームワーク

Knowledge(医学的知識)-Logic(論理的思考)-Reality(現実的妥当性)の
「KLRモデル」に基づき,小児科診療の基本的な共通言語を共有しよう!

【第4回】呼吸促迫のマネジメント(1)
下気道閉塞

土畠智幸
(手稲渓仁会病院・小児NIVセンター長)


前回からつづく

今回から3回にわたって,呼吸の問題を取り上げます。小児はその生理学的特徴から,呼吸のバランスが崩れやすくなっています。小児科で入院となる原因の第一は呼吸の問題です。非常に大事なところなので,しっかり勉強しましょう。

Case1

 6か月女児。3日前より鼻汁・咳嗽が出現,本日からゼイゼイするようになった。哺乳不良あり,尿量も減少している。診察では,SpO2 92%,呼吸数50回/分,鼻がぴくぴくしており,胸骨上・胸骨下・肋間が息を吸うときに凹んでいる。鼻汁迅速検査にてRSウイルス抗原が陽性であった。

Case2

 13歳男児。気管支喘息の重積発作で人工呼吸器を使用した既往がある。最近は発作が出ていなかったため,しばらく受診していなかった。本日より呼吸苦・喘鳴が出現したため,自宅にあった吸入薬を数回使用したがまだ症状が残っているため,母に連れられERを受診した。診察上は,SpO2 96%,呼吸数は16回/分,呼気終末に喘鳴をわずかに聴取,呼吸音は良好,陥没呼吸なし。呼吸苦を問うと「いや,そんなに苦しくないッス」とのこと。薬をもらって家に帰りたいと言っている。

呼吸促迫の重症度分類

 呼吸のバランスが崩れていることを一般に「呼吸促迫(窮迫)」,英語ではrespiratory distress,といいます。呼吸促迫の重症度分類は,表1のようになっています。先月の脱水と同じく,小児科あるいは救急外来で担当した症例すべてについてこれらの所見を確認するようにしましょう。

表1 呼吸促迫の重症度評価

 呼吸数については,大発作・重積の場合,高炭酸血症に伴う意識障害により,見かけ上,正常になる,あるいは少なくなることがあるので要注意です。また会話については,中学生の男子など,もともとwordしか喋ってくれない子もいるので過大評価をしてしまうことがあります。呻吟は英語でgruntingといい,呼気終末に喉頭部を狭くすることで「ウーッ」という音が出ます。特に新生児・乳児でみられるのですが,成人のCOPD患者でみられる「口すぼめ呼吸」と同じで,PEEP(呼気終末陽圧)をかけて下気道閉塞をやわらげようとしているのです。乳児は「呼吸苦」を訴えられないので評価が難しいのですが,その場合は哺乳状態をみることで呼吸苦の有無を知ることができます。

下気道閉塞のマネジメント

 下気道閉塞性疾患は,小児科における入院の多くを占めています。急性期の代表的なものとして,RSウイルス感染による細気管支炎と気管支喘息発作があります。RSウイルスは,基礎疾患のない児であれば,救急外来で呼吸促迫の重症度を判定し,軽度以下であれば帰宅させられるので簡単なのですが,気管支喘息発作は少し注意が必要です。それは,通常acute-on-chronic(慢性呼吸障害の急性増悪)として呼吸促迫が出ていることが多いからです。

 図の「氷山の一角モデル」は,僕が研修医の教育や家族への指導に使っているものです。「目に見えている部分だけではないぞ」というのがよく伝わりますね。

 下気道閉塞(喘息)のマネジメント:氷山の一角モデル

海面の下はどうなっている?

 救急外来ですべきこととして,以下の2点があります。

(1)chronicの部分の評価
(2)急変のリスクの評価

 例えば図のAやBの段階にあると考えられる気管支喘息発作の児をマネジメントするときに,そのときの身体所見だけでは海面下の部分,つまり「chronicな病態としての気管支喘息」の重症型はわからないのです。それを知るために,現在どのステップの治療をしているのかを確認(詳細は協和企画刊『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2008』を参照)し,普段の症状がどうかということを聞いて,コントロールが良好であるかどうかを評価します。その上で救急外来でのマネジメントを検討し,翌朝すぐにかかりつけの小児科を受診する必要があるのか,それとも症状が改善していれば受診しなくてよいのか,ということを家族に説明します。

「とびうお君」に注意!

 呼吸促迫は軽度だと判断したのに,その数時間後には大発作・重積になってしまうような児がいます。研修医には「とびうお君に注意」と教えています。表2にあるようなリスクファクターが一つでもあれば,救急外来から帰宅させるときには十分な注意が必要です。このような患者さんでは,自分の評価に自信がない,患者さんの家が病院から遠い,といった場合は,経過をみるために入院としたほうが安全でしょう。

表2 「とびうお君」リスクファクター

マネジメント――Case1

 SpO2の低下があり,鼻翼呼吸・陥没呼吸を認め,RSウイルス性細気管支炎に伴う中等度の呼吸促迫と考えられます。入院加療が必要となります。

マネジメント――Case2

 これは「とびうお君」です!

 リスクファクターが多数あり,絶対に帰してはいけないケースです。入院を納得してくれないまでも,ERで症状悪化がないか数時間経過観察する必要があるでしょう。また,ベースの気管支喘息も悪化している可能性があるため,外来でのフォローが必要です。「氷山の一角モデル」を使って,母と本人に喘息の説明をしましょう。とびうお君であることの危険性を認識してもらう必要があります。β刺激薬など,単に症状を抑えるだけの処方をしてはいけません。

Check!! KLRモデル

Knowledge:呼吸促迫の重症度評価を覚えよう
Logic:「氷山の一角モデル」を使ってマネジメントを考えよう
Reality:「とびうお君」のリスクファクターを覚えよう

Closing comment

 本文中でも書いたとおり,小児科領域では呼吸の問題が非常に多いのですが,頻度が高すぎるがゆえに「小児の呼吸管理」という専門の領域が確立していない上に,その教育についても不十分であるというのが現状です。

 また,急性の呼吸障害をきちんと診ようと思ったら,慢性呼吸障害の知識もなくてはいけません。

 呼吸について勉強するには,John B. Westの“Respiratory Physiology”(Lippincott Williams&Wilkins)という教科書がお薦めです。Westのシリーズは日本語になっているものもありますので,ぜひ読んでみてください。

つづく

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