MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2009.02.02
MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


ローレンス・ティアニー,松村 正巳 著
《評 者》藤田 芳郎(トヨタ記念病院腎・膠原病内科部長)
読みやすくかつ臨床の叡智を凝縮させた書
本書の扉の推薦の言葉に,ティアニー先生と16年間の親交がある青木眞先生の短い名文がある。その青木先生のおかげで,著者の松村先生と同様,私も数年来ティアニー先生に触れる機会を得ることができているが,本書によって改めてティアニー先生というエベレストがいかにして出来上がったかを知ることができた。このように読みやすくかつ臨床の叡智を凝縮させた本書の出版に尽力された松村正巳先生に深謝したいと思う。
臨床において大切なことの1つは,正しい診断とよりよい治療を求めて,権威的にも感情的にもならずに医療者が検討しあうという医療の透明性である。もう1つの推薦の言葉を書かれた黒川清先生の名文にも感じる,そういう自由闊達な雰囲気の中でのレベルの高い日々の症例検討の産物が,ティアニー先生という怪物であると私は思ってきた。実際,ティアニー先生の教育は,自由で明るい雰囲気の中で行われる。
本書では,ティアニー先生という作品ができるために必要不可欠な,それとは別の側面が,先生自身の言葉で語られる。「診断確定における最も大切なのは経験であり,決して本から学べるものではありません」とおっしゃりながらも,一流の教育者でもある先生は,その「経験」を伝えようとわかりやすい言葉で語ってくださっている。たった20ページの中で。
先生の語る「経験」とは何か。本書をお読みいただくほかはないが,その「経験」を獲得していく過程は,患者さんとのきめ細かい熱心な対話とその分析,対話の中から原因疾患を掘り起こそうとする努力の積み重ねにほかならず,そのことに強く感動させられた。きめの細かい熱心な対話とはどういうものか,患者さんとの対話をどういう風にしたらよいか,具体的な方法,先生の経験に基づいた方法が述べられている。そして最後に先生の出血大サービスともいうべき「経験」の珠玉,「トップ10パール」が述べられる。次に続く第2部はその応用編のケーススタディである。第2部では教育的症例が厳選され,辞書のように何度も使える鑑別診断の要がちりばめられており,松村先生の労作である。
「食べ物というのは食われていのちを養うものとなり,残りは糞尿となって排泄されるわけで,(その食べ物を作る農,漁を担当する人は)いわゆる業績というものを残さない」(『文明を問い直す』梅津濟美著,八潮出版社)。いのちに近く働く者はいのちに近ければ近いほど,業績という目に見えるものは残しにくいが,そのかわり「経験」の叡智を獲得し,次世代に伝えたい。臨床(ベッドサイド)にいるわれわれに,そんな奮起を促し知恵を与えてくださる書である。臨床医療に携わるすべての方に本書を推薦したい。
A5・頁152 定価3,150円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00698-9


Dr.ウィリス ベッドサイド診断
病歴と身体診察でここまでわかる!
G. Christopher Willis 執筆
松村 理司 監訳
《評 者》伴 信太郎(名大教授・総合診療部)
超一流臨床医学教育者の教えをすべての臨床医に
ウィリス先生(Dr. G. Christopher Willis)のご高名には,本書の監訳者である松村理司氏の興味深い逸話の紹介を通して10年以上前から接していた。そのウィリス先生が「医学生や若い医師に臨床診断を教えるために作ったノートをまとめたもの」(「」は著書からの引用)が本書である。ウィリス先生のことを少しでも知っている人(評者のように直接お会いしたことはないが評判は聞いていたという人がおそらく多いと思う)にとっては,垂涎の書といってよい。
本書は,外来のテーブルに置いて症候に応じた鑑別診断を探したり,一冊を始めから終わりまで読み通したりするタイプの本ではない。一例をじっくり症例検討するときに,本書の関連箇所を開くと,ウィリス先生の「ほぼ50年に及ぶ臨床医としての経験が凝集されている」アドバイスに接することができる。少し時間的余裕があるときでないと読みこなせない深さがある。
本書を魅力ある書に仕上げているのは,訳者の並々ならぬ努力によるところも大きい。通称ウィリスノートを原本として日本語訳を終えた後にウィリス先生と連絡を取ったら,「先生が引退後も独りでコツコツと原稿の改訂作業を続けておられたことが判明したため,最終版の原稿を入手して翻訳を全面的にやり直した」という。さらには非常に詳しい脚注が付けてある。本文だけでは高度に過ぎる内容だが,この脚注のために本書が医学生や研修医にも役立つものとなっている。評者が知らなかった症候も,ほとんど脚注で補われていた。
「地位にも名誉にも全く興味はない」超一流の臨床医学教育者の教えを,日本全国の多くの臨床医が受けることが可能になったことを心から喜ぶとともに,訳者の皆さんの努力に対して深い敬意を表する。
医学生から,ベテランの医師まで,ウィリス先生のことを知らなかった人にも,ぜひ手にとってほしい書である。息の長いベストセラーになる本だと思う。
B5・頁720 定価6,825円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00033-8


奈良 勲 監修
熊本 水賴 編
内山 靖,畠 直輝 編集協力
《評 者》丹羽 滋郎(愛知医大名誉教授・整形外科学)
運動器治療に携わる医師のために
地球上で生活している,われわれ人類をはじめとして哺乳類,鳥類,爬虫類,さらには両生類は,常に地球の引力の影響を受けて,言い換えれば重力に逆らって日々活動している。
われわれは,椅子からの立ち上がり,歩行,走りなどの活動において,身体の各関節には体重の数倍の力が加わっているが,それを全く感じることなく生活できている。これは各関節を支えている骨格筋の作用,機能によるものであり,これらの筋は,各関節を挟んで人間が何気なく行っている行動を支えている。
一つの筋の起始・停止の間に一つの関節を挟むとき,それを一関節筋と呼び,一つの筋の起始・停止の間に二つ,また多数の関節を挟むとき,それを二関節筋,多関節筋と呼んでいる。またそれらの筋に対して常に拮抗する筋が存在している。人間が日々の生活のなかで,例えば立ち上がる,歩く,走る動作が極めてスムーズにできるのは,この二・多関節筋の存在が重要な役割を果たしているためである。躯幹から大腿,大腿から下腿,下腿から足へと,股,膝,足関節を挟む二・多関節筋の働きによって,ダイナミックかつ効率的な,そして末梢は腱を中心に重量は軽く,躯...
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