パパ予備軍に捧ぐ育児講座(林寛之,川島篤志)
対談・座談会
2008.10.06
【対談】
仕事も育児もデキるふたりが語り尽くす――
パパ予備軍に捧ぐ育児講座
林 寛之氏(福井県立病院救命救急センター科長)
川島篤志氏(市立福知山市民病院総合内科医長)
医師がパパになるとき――それは研修以上のサバイバルが待ち受けている。「ただでさえ忙しいのに育児なんて無理!」と訴えてみても,指導医より厳しい(?)奥さんの前では通じないかもしれない。
本講座では,「仕事も育児もデキる」ふたりが育児参加の効用や時間づくりの工夫,医師の「ワーク・ライフ・バランス」の問題までを語り尽くす。男の子育ては,思いのほかワクワクする楽しいことなのかも……。
男を狂わす,初めてのGS
林 川島先生は昨年お子さんが生まれたのですね。おめでとうございます。
川島 ありがとうございます。結婚7年目でやっとです。結婚当初は仕事のこともあって「まだ子どもは必要ない」と考えていた時期があったのですが,その後も授からなくて,不妊も気にかかっていたところでした。
林 不妊の問題はどれぐらいの間,意識していました?
川島 2年ぐらいです。そろそろ不妊外来を受診しようと考えていた矢先に,たまたま妊娠が判明しました。それ以後は,当直明けや土曜日を駆使して,産婦人科受診はほとんど全部付き添いました。
林 すごい! そこまでできる人はなかなかいないですよね。何か動機付けとなることがあったのですか?
川島 もともと子どもが好きで,大学時代はベビーシッターをやったり,小児科医になろうと思ったこともあります。自分の子どもができたら育児にきちんとかかわりたいとずっと考えていましたし,エコーで初めてGS(胎嚢)が見えたときはすごく感動しました。
林 分かります,分かります。僕も子どもができるまで,結婚後11年かかりました。実は不妊治療も経験しました。ワインと同じで,熟成期間が長いぶん思い入れが強かったですね。
GSを見たときは僕もメチャクチャうれしかったです。その瞬間に「育児休暇を取りたい!」と思いました。子どもが本当に親を必要とするのは,人生のほんのひとときだけですからね。
悪戦苦闘の育児休暇取得
林 でも,実際に育児休暇を取得するまではかなり苦労しました。医局会での話し合いが半年間も続きましたから。みんな,総論賛成・各論反対なのです。「いい話だ。でも今はやめとけ。代わりの救急医がいないだろう」と。「次の子にしたら」とか言うのです。「次の子って,また11年待つんですか」という気持ちがあって……。「取らせないことで法的な罰則規定はない」という意見もちらっと出たので,アタマにきて「辞めてやる!」と大騒ぎです。
そしたら助け舟が入って,代診医の獲得を前提に育児休暇の話が進みました。そのときいちばん心強かったのは,当時の上司だった寺澤秀一先生(現・福井大病院副院長)の支援です。「家族を大事にできない医師が他人(患者)によい診療ができるはずがない」という手紙ももらいました。
その後の代診医探しも困難を極めて,周囲には苦労をかけましたね。結局いちばん頼りになったのはかわいい後輩たちです。2年目研修医が交代で救急の手伝いをしてくれたり,他の病院から来てもらったりで,何とか3か月乗り切ってくれました。
川島 林先生の体験記を読ませてもらって,医師が育児休暇を取るのは本当に大変だと痛感しました。僕の場合は病棟や予約外来があるので長期の育児休暇が取れる気はしなかったのですが,少しでも休みを取って妻のサポートをしたいと思いました。
林 内科系だと難しいですよね。患者さんが継続するから,ポンと休むわけにはいかない。
川島 そうなんです。ですから,休みを何日か取らせてもらったり,平日の勤務を短くしたり,ちょっとずつの工夫を積み重ねました(表1)。出産予定日の前後2週間の予約外来を休診にしたり,平日の勤務時間を短縮したり……。
表1 出産・育児サポートの工夫(川島氏) | |
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僕の場合も林先生と同じように,当時4年目の研修医に本当に助けてもらいました。チーム医療が成り立っている病院だからこそできたことなのかなとも思います。
妻は夫の帰宅を待っている,キリンのように首を長くして
川島 林先生の奥さんは育児休暇をどれくらい取られたのですか。
林 産休1か月のあと,育休を1か月だけ取ってすぐに職場復帰しました。入れ替わりで僕が育休3か月です。育児休暇を長い夏休みのように勘違いしている同僚もいましたが,仕事をしている方がよほど楽です。それに無給でしょ。世の男性が考えるよりも育休は大変ですね。
川島 奥さんが働いている間,子どもさんと2人だけの時間がたくさんあったということですよね。
林 朝から晩までありました。
川島 僕は妻の子育てを手伝う時間がそれなりに取れたぐらいで,子どもとまったく2人きりという時間は多くなく,林先生ほどの苦労をしていないのです。
林 でも,奥さんのストレスはすごく減っていると思いますよ。妻は時計とにらめっこしながら,キリンのように首を長くして夫の帰りを待っているものです。そして帰りが遅いとすごく焦る。そのくせ夫が帰宅して「どう? 大変だった?」と聞くと,「いや,別に」とか平気な顔するんですけどね(笑)。僕も同じ立場だったから,気持ちがよく分かります。
川島 そういえば,更衣室で「これから帰る」という連絡をした後に誰かにつかまって遅れたりすると,妻に怒られたことがあります。その後は病院を出て自転車に乗ってからメールするようにしました。帰宅するはずの時刻にあわせて妻なりに予定を組んでいるようで,長いこと待たされるのは……。
林 イライラするんですよ。妻の終業時刻の前後に電話がかかってくると,「今日は遅くなる」という電話じゃないかと思って,ビクッとしたものです。「今日は飲み会でちょっと遅くなるから」なんて世のパパが電話したら,ママが「その飲み会はどうしても出なきゃいけないの・」とキレるのは当然です。
「仕事だ,当たり前だろう」みたいな感じで話が通じない人もたくさんいますよね。すると,ママは行き場のない怒りを子どもにぶつけてしまう。虐待の始まりです。子育てでうつ傾向になっている人が夜間の救急外来にけっこう来ますね。
川島 僕が仕事を抜けて早く帰るときに,「早くお子さんの顔を見たいでしょう」と,看護師さんとかが声をかけてくれたんですね。確かにそういう気持ちもありますが,僕が早く帰って子どもを抱っこすることで,妻が安心してお風呂に入れる。ご飯が作れる。実際はそういう気持ちの方が強いのです。妻の時間をいかにつくるかが意外と大事で,そういう視点で見ると男だって手伝うことがいっぱいあります。
男の育児はオイシイ,面白い!
林 わが家のモットーは,「子育ては2人でするもの」なので,どちらかがサポートするというわけでもありません。でもこうやって偉そうなことを僕が言うと,妻「私の方がやっているわ! 何を言っているの!」,私「まったくそのとおりでございます」となる(笑)。世の中の不公平なのは,女性は育児ができて当たり前と見られて,男性はほんのちょっと手伝っただけですごく褒められることです。
川島 僕も「子育てにすごく協力的だ」とか病院のスタッフが褒めてくれたりして,なんだか株があがったようで恐縮しました。
林 一部上場でしょ? ぜひここで『医学界新聞』の読者に伝えたいのは,「男はほんのちょっと育児をやるだけですごく褒められるから,こんなにオイシイことはないぞ」という点であります。それに,子どもの情緒だけではなく自分の情緒も安定します(表2)。
表2 男の育児参加の効用(林氏) | |
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川島 そうですね。「自分に育児を語る資格があるか」というとまったくそういうわけではないのですが,育児に少しかかわるだけでもやはり違う気がするので,ぜひ後輩にも薦めたいです。
林 育児をすると子どもがなつきますよね。すると,その後のかかわり方も変わってきます。研修医と一緒じゃないでしょうか。最初の2年間を頑張った人はきちんと伸びるけど,最初にサボるとダメでしょ? パパ業も最初のうちに気合いを入れないと...
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