患者さんのことが知りたい
連載
2008.08.04
名郷直樹の研修センター長日記 |
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患者さんのことが知りたい
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(前回2788号)
1年目の研修医がローテートを始めて2か月,今年はずいぶん落ち着いている。例年この時期には研修医の体重減少が著しいが,今年はそうでもない。みんななんとなく余裕がある。むしろ体重が減っているのはこっちのほうで(まあ中年太りの自分にとっては都合のよいことなんだけど),初期研修医だけでも16名。ローテートごとに,この16名と30分の面談をやらなくてはいけない。やらなくてはいけない,と言っては身も蓋もないな。しかし,やりたい,そう言うのもまた微妙だ。
突然,かの名曲「傘がない」を思い出す。行かなくちゃ,というのは,行かなくてはならない,そういう意味だろうか。ちょっと変だ。彼女のところへ行くんだろう。行かなくちゃ,じゃなくて,雨が降ろうが,槍が降ろうが,行きたいだろう。そんな疑問を持ちつつ,いつも「傘がない」を聞いていた。そこで,私も同じように,面談をやらなくちゃ。やらなくちゃ,じゃないだろう。やりたいだろう。同じ状況である。何が同じか,よくわからんが。とりあえず,彼女のところへだって,行かなくちゃ,なんて気持ちなんだから,研修医の面談も,やらなくちゃ,でいいということにしよう。
常に何かと何かの境界に身を置いてきたことが,大きく影響しているのか。何がやりたいのかわからぬうちに,義務でへき地へ。やりたいこととやらなくてはならないことのハザマで,長く働いたこと。へき地医療にどっぷりつかることもできず,そうかといって都市部の大病院で専門医療をという気持ちもなく,その間でふらふらしていたこと。ふらふらしているうちに,へき地医療をやらなくちゃ。やらなくちゃが,そのうちやりたいに変わっている。不思議なもんだ。
そんな「傘がない」状態で,今日も,研修医と振り返りをしなくちゃ,というわけで,研修医と研修の振り返りをする。
「何か印象に残ったことや患者さんについて聞かせてください」
「亡くなった患者さんです」
「その患者さんについて印象に残ったことを簡単に教えてください」
「患者さんのことについて深く知りたいのですが,なかなか知ることができません」
いきなり来た。
「どんな患者さんだった?」
「ばつイチの独り者の末期のがん患者さんなんですけど」
「よくわかっているじゃない」
初期研修のスタートとしては十分な把握だと思う。ただ単に末期の胃がん患者,というのでなく,ばつイチの独り者の末期がん患者,もう十分である。
「もっと知ることができたら,もっと何かしてあげられたんじゃないかと思って」
何かしてあげられた,確かにそうだな。大事な気持ちであると同時に危ない気持ち。またまたへき地診療所でのいろいろがよみがえる。あるとき患者さんにこんなふうに言われた。
「そんなにまじめに聞かんで」
一人暮らしの老人。どういう経緯で出てきたのかよく思い出せないが,患者の家族,子供や孫のことを話してくれたときのような気がする。ついついこっちのほうが面白くなってしまって,患者の病気の話なんか大してまじめに聞かないくせに,そういう話は前のめりになって,しっ...
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